始動
相も変わらず両派閥の軍隊はルネティナ橋を挟んで睨み合っていた。
ヒスパーニャ軍の壊滅により一次は優勢になったプロテスタリー派ではあるが、ヴェルナールとアレクシアが軍隊を引き上げたことにより戦力は再び拮抗していた。
「むしろ拮抗状態の方が仕掛けやすいから助かる」
「閣下、悪い顔してますね」
ノエルの報告により望むとおりの戦況であることを知ったヴェルナールは気を良くした。
「そりゃあそうだろう。双方身動き出来ない状況になっているから戦場が小さくて被害も拡がらない。その上、仕掛けやすくて被害も少ない、一石二鳥じゃないか?」
双方が損害を出すことにより今後の趨勢に影響を及ぼすことを恐れ、全力での戦闘を避けているのだ。
「確かに、我々としても介入しやすいので助かりはしますが」
大きな戦が起きてどちらかが有利になれば戦場は動き被害は拡がる。
同じ場所で膠着してくれているのは僥倖とも言えた。
「アンドレー、出かけるぞ。支度をしてくれ」
ヴェルナールは、部屋の外に控えているアンドレーに一声かけるとノエルに折り畳んだ紙を渡した。
「読み終わったら燃やしてくれ」
「心得ました」
もちろんその紙に書かれているのはノエル麾下の間諜達に対しての指示内容だ。
ノエルは受け取るとすぐさま退室していった。
◆❖◇◇❖◆
場面は少し遡って、セルジュが自身の案を示した後のこと。
「ひと肌脱いで貰えないでしょうか?」
セルジュはヴェルナールに頭を下げた。
一国の主たるものが簡単に頭を下げるのは如何なものかとヴェルナールは思ったが、それと同時に人に頭を下げて物を頼めるのはセルジュの美点とも思った。
当たり前のことではあるがそれができない人間はこの世に五万といる。
「いいでしょう。ですが私の身も危ういのは承知ですよね?」
「家臣に強力してもらうということも考えました。しかしながら彼らに頼むよりかは、こういったことに精通しているヴェルナール殿にお願いした方が確実と判断しました」
セルジュは申し訳なさそうな顔を浮かべた。
「そこまで言われると断るにも断れませんね。だいぶ、人の使い方が上手くなったとみえる」
ヴェルナールは仕方なさそうに笑った。
「使い方などとんでもありません!」
「いやなに、セルジュ殿の成長を目の当たりにして驚いてるのですよ」
「こと政治に関しては、まだ右も左も分からぬ新参者といった感が否めませんが……」
「これから経験していけばいいことです。分かりました、引き受けましょう」
別にヴェルナールは安請け合いをしたわけではない。
それほどまでにヴァロワを自身の外交政策において重要視しているのだ。
話し合いは終わったと退室するヴェルナールは、その間際にニヤッと笑って言った。
「見返り、期待しときますよ?」
セルジュは思わず顔を引き攣らせる。
決してお人好しではない、ヴェルナールのちょっと食えない部分だった。
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