急報

 「見た事のもない数の船団だ!」


 アルモリカ半島の沖の海峡には数多くの船が浮かんでいた。

 船は海峡を挟んで北に位置する大国、ウェセックス連合王国の方角から来ていた。

 監視所で海峡を見張っていた兵士達は、慌ただしく武装すると、アルモリカ公国の首都、レンヌへと伝令の兵を走らせたのだった。

 その知らせはすぐさま、アルモリカ公アラン・カニアールの知ることとなったのだが、あまりにも急な知らせにカニアールは腰を抜かしたという。

 アルモリカ公国も海に面した国家であるから無論、軍船は持っていた。

 しかしウェセックス連合王国の海軍に比べれば吹けば飛ぶような規模にすぎなかった。

 カニアールはその日のうちに外交交渉に入った。

 戦争回避の条件としてウェセックス側から提示されたのは、食糧、飲料の供出とウェセックス連合王国軍の通行権を認めることだった。

 これについては協議したいからと時間の猶予を求めたが、ウェセックス連合王国側は軍船の主砲を放ち即座に要求を飲むようにと脅しをかけた。

 結果として外交官は気圧されたままに、ウェセックスの提示した条件を飲んでしまった。

 そのことは無論、ノエル配下の間諜達によってすぐさまヴェルナールへと報告された。


 「マズイな、使える駒が一つ無くなったわけか……」


 ヴェルナールは深いため息をつく。


 「幸せが逃げちゃいますよ?」

 「幸せになれる結末が今回ばっかりは見えない」


 今回ばっかりは縛りが多すぎる、それがヴェルナールの感想だった。


 「いくらなんでも、ウェセックスの連中、動きが早すぎだろ……」

 「ヴァロワ情勢に非常に高い関心を持っていることの何よりの証左ですね」


 ノエルは葡萄酒をグラスに注ぐとヴェルナールの前へと置いた。


 「とりあえずは、情報封鎖と欺瞞による撹乱をしてくれないか?」

 「時間稼ぎにしかなりませんけど?」

 「それでいい。数日あれば次の行動に移れる」


 グラスの渋い赤を見つめながらヴェルナールは黙り込んだ。

 ヴェルナールは既に何を口実にしてウェセックス連合王国がヴァロワに干渉するのかについて大凡の見当はついていた。


 「ノエル達の稼いでくれる数日のうちにヒスパーニャを叩く」


 しばらく黙っていたヴェルナールはやがて顔を上げると眦を決して言った。


 「戦争になりませんか?」

 「ならんさ。戦うのはアルフォンス軍ではなくだ。これでウェセックスの連中の入国拒否ができる!」


 心配そうに訊いたノエルの頭をポンポンと叩くと自信ありげな表情でヴェルナールは言ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る