入城
二つの軍勢がグランパルリエへと入城したのは月が変わった二月のこと。
どちらの軍隊も実戦経験のある部隊であり、彼らの関係は良好だった。
「すごい注目の度合いですね」
「これだけの軍隊が入城するとなれば当然のことだろう」
軍隊を率いるのは、ヴェルナールとアレクシアだった。
陣容はアルフォンス軍六千にファビエンヌ軍二千。
目的はロアール川沿いの治安回復だった。
土塁を跨ぐ橋を渡って北側の城門から続々と入城を果たす。
それを従者を引き連れたセルジュが迎えに来た。
そんな彼の姿を見つけたヴェルナールとアレクシアはセルジュの前へと来ると馬上から降りた。
「ヴェルナール殿とファビエンヌ伯、軍隊の動員に感謝します!」
二人に、特にヴェルナールに向かってセルジュは頭を下げる。
「この国に仕える貴族としては当然のことをしたまで御座います」
「サボっていた政治顧問としての役割を果たしに来ただけですよ」
アレクシアは臣下の礼をしながら、ヴェルナールは笑いながら二人の立場にそって言葉を交わす。
言葉を交わしながらセルジュの様子を観察していたヴェルナールは思った。
疲労の色が濃いなと。
「とりあえず会食の席を用意させているので、また後ほど」
そう言うとセルジュは去っていく。
「彼は何事にも丁寧に取り組んでしまうきらいがありますね。妥協することを覚えた方がいいと思います」
「それは私も思うところだ。だがな、稀に見る名君の器を持った人だ。時勢に恵まれてはいないが……」
ヴェルナールの場合、面倒と感じたことはすっぽり止めてしまうことも多いし過日のヴュルツブルク公のときのように手段を選ばないことも多い。
その点、努力することを諦めないセルジュの人柄をヴェルナールはアレクシア同様に高く評価していた。
「さてお前達、行軍は終わりだ。天幕の設営が終わったら、好きにしてよし!でも盗みと強姦はするなよ?売春窟に行くのもいいが破産しても助けてやらんからな?」
入城が終わるとアレクシアは自身の兵達に声をかける。
「ははは、姐御の名に傷をつけるような真似、あっしらはしませんぜ!」
アレクシアの言葉に兵士達からは笑いが起きた。
必要以上に抑圧をしないというスタンスのアレクシアだからこそ、女の身でありながら男達を纏めることができるのだ。
そんな姉に益々頭が上がらないな、とヴェルナールは思った。
「ということだそうだ。お前達も犯罪さえしなきゃ好きにしていいぞ」
ヴェルナールも自軍の兵士達に声をかける。
アレクシアは、必要以上に締め付けないやり方で、ヴェルナールはカリスマ性で兵士達を纏めあげていた。
「では姉上、行きましょうか」
案内の者を視界の端に捉えたヴェルナールは、アレクシアに声をかける。
「あんまり待たせるわけにもいかないしな」
違う国に仕える
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