第165話 死闘4

 チッ……厄介な!

 クルデーレの持つ湾刀に比べれば遥かにマシだがそれでも複数相手は気を使うので避けたい。

 しかも二人の連携がとれていて隙がない。

 

 「どうだァ?俺の性奴隷たちの動きはよォ?」

 

 同時に突き出される二本の剣に思わず飛び退く。

 するとすかさず二人の女剣士は間合いを詰めてきた。

 同じ攻撃を敵が二度用いないとするならば、次は二人が違う箇所を狙ってくるはずだ。

 となると……足かっ!?

 女剣士の僅かな挙動の変化も見逃さない。

 一人の腕が下がり始める。

 となれば姿勢も低くなるか?

 一人は足を薙ぎ一人は胴を突く、その予測は的中した。

 一人の女剣士の姿勢が沈み込むように深くなる。

 飛べば回避出来る、自信があるわけじゃないがこの局面を切り抜けるにはそうするしかないか……。

 飛び蹴りのような姿勢を意識して斜め左へと跳躍する。

 それと足払いにきた女剣士にフロストの投げた短剣が刺さったのが同時だった。

 手練ならではの瞬間の判断力は流石としか言い様がない。

 

 「避けた!?」


 どうにか二人の剣を躱すと胴への突きを狙っていた女剣士が驚きの声をあげる。


 「俺もびっくりだ」


 完全に突きを空中で避けるなど狙っていても、出来たこと自体はまぐれみたいなものだ。

 

 「これで一対一だな」


 フロストの投げた短剣は片割れの胸に深々と突き立ち大量の出血を強いていた。

 俺の言葉に、はっとしたような表情を浮かべた女剣士は後ろを振り向く。

 そこには血反吐を吐いて倒れる相方。


 「姉さん!?」


 俺をそっちのけにして倒れた相方へと駆け寄る。

 姉妹か……通りで連携が取れてるわけだ。

 

 「どうする、続けるか?」


 出来れば体力は消耗したくない。

 避けれるのなら戦闘は避けたいし降伏の意思があるのならそれを尊重してやってもいい。

 そんなことを考えていると


 「おいおい、まさか姉を討たれたままで終わるわけがないよなぁ?復讐しねぇとうかばれねぇぜ?」


 俺の言葉に上書きするようにクルデーレは言った。

 それを聞いた女剣士は姉の骸の傍から立ち上がる。

 そして剣を構えた。

 その憎悪の籠った視線で俺をめつけると


 「よくも姉さんをっ!」


 そう叫びながら女剣士は捨て身に近い体勢で地面を蹴った。

 

 「そうだそうだ、それでいい!」


 クルデーレは楽しそうに言った。

 姉を失った恨みを込めた憎悪の剣が俺を襲うかに見えたが女剣士は視線を俺から逸らしてクルデーレに向けていた。

 なるほど、そういう事か……。

 憎悪に燃える眼前の女剣士の意図を察した。

 女剣士の剣先が届くか届かないかのところで俺は身をひらりと捻って躱した。

 女剣士の勢いは止まることは無い。

 やはりそういう事だったか……。

 直前まで俺に視線を向けておきクルデーレに狙いが俺だと思い込ませる。

 だが実のところの狙いはクルデーレだった。


 「そんな血走った目をしちゃってなぁ?可愛いのは寝台の上だけか、フン」


 俺の傍を通り抜けてからクルデーレを間合いに捉えるまでは一瞬、しかしその一瞬でクルデーレはしっかりと対応していた。

 女剣士の剣はクルデーレには届かない。

 背後て体が崩れ落ちる音が聞こえた。


 「他愛もない」


 クルデーレは吐き捨てるように言った。

 床に広がる血の海を靴底で弄びながらクルデーレはこちらを向く。


 「公爵サマはもう少し楽しませてくれるだろう?」


 クルデーレはニヤリと口角を吊り上げた。

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