第157話 アオスタ公死す

 ノエルの部下によって捕らえられた男は、カロリングの隠密部隊の所属であることを渋々認めた。

 そして北プロシャ侯の殺害がティベリウスの指示によるものであることも。

 その翌日の選定侯会議、話題はアオスタ公暗殺未遂でもちきりだった。


 「――――危うく命を奪われるその手前で、ヴェルナール殿が送ってきた者達が守ってくれたのだ」


 アオスタ公は饒舌に語った。


 「しかしヴェルナール殿、あの者共の正体は何だったのだろうな?」


 ヴェルナールは当然、正体を知っているし、アオスタ公とて正体はある程度勘づいていた。


 「尋問しようとしましたが、舌を自ら噛み切って自殺しましたので何とも……」

 「なんとも忠誠心の高いもの達か……」


 ヴェルナールとアオスタ公は、正体に気づいていない素振りをしつつその話題を敢えて会議の場に出すことでティベリウスに対し言外に警告をしたのだった。

もちろん、この場でティベリウスが仕向けた者達による仕業であったと言うことも出来た。

 それをしないのは必要以上にティベリウスを刺激することは控えたいというヴェルナールの考えによるものだった。

 カトリコスの総本山とも言えるカロリング帝国は、イリュリア大同盟との戦争を終え疲弊してはいるものの、やはり国力は強くプロテスタリー根絶のための宗教戦争を始めることなど容易なことだった。

 そうなれば、大陸は混乱を極めることに疑いの余地はない。

 ヴェルナールはそれを憂慮していた。


 「何がともあれ三人目の犠牲者が出なかったことは喜ばしい。早急にこれが一人の指示によるものなのか、或いはそれぞれに別なのかを特定する必要がありそうだの」


 総括するようにティベリウスが言うと、さすがに我慢の限界とばかりにアオスタ公は立ち上がった。


 「何を白々しい!私に留まらずラウエンブルク殿やバルバロッサ殿を―――――ぬおぉッ!?」


 口角泡を飛ばして叫ぶアオスタ公の言葉はしかし、最後まで続かない。

 その背中に窓を抜けて突き立つ幾本もの矢。

 くぐもった声をあげたアオスタ公は恨みがましい目でティベリウスを見ると体を痙攣させながら倒れた。


 「アメデーオ殿!?」


 倒れたアオスタ公へと駆け寄るティベリウス。 

 騒然とする会議の場。

 

 「下手人を探して来ます」


 ヴェルナールはそう言うと、会議の行われている部屋を辞した。

 部屋を去ったヴェルナールの後ろに影のように現れるノエル。

 

 「アオスタ公が矢で負傷した。おそらく毒矢によるものだ」

 「我が手の者が既に」

 

 異変に気づいたノエルは既に行動を起こしていた。


 「アオスタ公の家臣団及びミッテルラントの治安維持機関とも連携をとり検問を設置しろ!」

 「御意っ!」


 三人目の選帝侯会議参席者の死、ティベリウス以外の手の者による犯行を危惧したヴェルナールは信仰を守るためには簡単に人を殺すという事実に恐怖を抱くのだった。

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