第145話 闇討ち
「数で推し潰せ!」
突如として現れた謎の集団、もっとヴェルナールはそれがバルバロッサの仕掛けた罠であることなど分かりきっていた。
「ノエル、背中は預けるぞ?」
互いに信頼し合った者同士、背を合わせながら動き出す。
ヴェルナールから斬りかかった理由は単純、山中の射手に狙いを絞らせないようにするためだ。
敵の真っ只中に身を投じることにより、射手に誤射の危険性が生じる。
それを射手が回避したいと思うと撃てないというわけだ。
だが逆に言えば敵中で斬り合いが膠着するのは命取りとも言える。
故に、ヴェルナールもノエルも止まれない。
「おいおいもう終わりか?」
斬りかかってきた三人を返り討ちにしたところでヴェルナールが敵を煽る。
「小癪な!」
怒気を孕んだ声でそう言った仮面の男が剣を構えて低姿勢で突貫した。
頭目と思われる仮面の男を生け捕りバルバロッサの手の者であると自白させるためにヴェルナールは、剣の側面を相手にみせた。
まるでお前など、これで十分とでも言うかのように。
それが更に相手を煽る。
「若造が舐めおって!」
突き出された仮面の男の剣を振り払い軌道を逸らすとすれ違いざまに足を払った。
「ぬおっ!?」
突然の足払いに姿勢を崩した仮面の男。
すかさず剣で利き手の腱を切る。
しかしそれ以上、仮面の男に構っている暇は無かった。
「お助けしろ!」
仮面の男が率いていた者達が斬りかかって来たのだ。
「来るなら来いっ!」
ヴェルナールを庇うためにノエルは大声で敵に向かって叫んだ。
「女ごときがっ!」
敵の注意がノエルへと向かう。
そこにすかさずヴェルナールが斬りこんだ。
正面から血飛沫を浴び、ヴェルナールの白い外套が朱に染まる。
鬼人もかくやという格好だった。
右手にぶら下げた血濡れの剣に相手は言葉を失い息を飲む。
「相手は一人だ、囲め!」
未だに敵は十人以上。
既にノエルの息は若干上がっていた。
「大丈夫か?」
視線は敵へと向けたまま、ヴェルナールが背中合わせの小さな従者を心配する。
「まだ殺れます」
トリスタンに戦闘術を叩き込まれたその小さな身体は、見た目よりもはるかに丈夫だ。
「そうか、あまり無理はするなよ?」
「ふふっ、無理をしなければ守れそうにありません」
「それもそうか」
互いに言葉を交わし笑い合う。
「別れの言葉は交わしたか?」
仮面の男が、痛む利き手を抑えながらよろよろと立ち上がると言った。
「お前たちとか?」
ヴェルナールは、剣をしたたる血を振り払った。
「この期に及んでまだ減らず口を叩くとは、よほど余裕があるらしい。お前達、生け捕りせよとの命令だが……気にせず切り刻んでしまえ!もう堪忍袋の緒は切れた」
仮面の男の声に敵は一斉に剣を構えた。
そして踏み出すその瞬間――――一人の眉間に矢が突き立った。
「閣下とノエル殿をお守り致せ!」
ヴェルナールたちの来た道をアンドレー達が駆けて来たのだ。
アンドレーの率いてきた数名の兵が敵へと馬を突貫させる。
一人が馬上槍の餌食となった。
胴体を槍に突き抜かれ、そのまま地面を引き摺られていく。
敵からすれば戦意の萎える最悪な光景だった。
「遅くなり申し訳ございません」
アンドレーは跪き頭を下げた。
「俺とノエルの仕事が増えるところだった」
ヴェルナールは、笑いながらそう言うとアンドレーの肩に手を乗せた。
「本音を言えば危ないところだった。感謝する」
ヴェルナールの言葉にアンドレーは一層深く頭を垂れるのだった。
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