第143話 見え透いた罠
ヴェルナールとヴュルツブルクの対立が深まり始めていた頃、季節は秋を迎えつつあった。
十月に入った頃、ヴェルナールの元にヴュルツブルクから一通の書簡が届いた。
「狩りへの誘い、か……」
ヴェルナールは心底嫌そうな顔で言った。
「普通に考えれな罠ばかりの狩りでしようね」
ノエルの言う通りで古来より仮に誘い出し政敵を殺すなどよくある話だ。
「ヴュルツブルクはアルフォンス公の領地であれど統治下にあらず、なんて言われてるぐらいだしなぁ」
すっかり国内外問わず、そう言われるほどの有様だった。
「何となくこうなることは最初から予想してたが……司教就任なんて誰の入れ知恵だよ」
目下最大の懸案事項たるヴュルツブルク司教領。
その処遇を巡っては家臣団内でも意見がわかれていた。
独立させ占領することでアルフォンス公領とする案、そのまま距離を置いて要らざる戦闘を避けようとする案。
だがヴェルナールはその二つの採決は取ろうとしなかった。
前者は宗教及びシュヴァーベン同盟との対立を招き、後者はすなわちアルフォンス公領出ないのだと内外に喧伝する形となる。
「とりあえずは、狩りに参加して内外にまだ繋がりが切れてないことをアピールするのが優先か」
自分に言い聞かせるように言ったヴェルナール。
しかしそれがどれほどの危険性を孕んでいるのかを理解していた。
「閣下がそう仰るのなら我々は全力で閣下の身を守るまでです」
ノエルはそれが大変な任務になるとわかって眦を決して言うのだった。
「世話をかけることになりそうだ」
「必ずや身命を賭してお守りします!」
ノエルの言に何か必ず成果を出すのだとヴェルナールは心に誓う。
バルバロッサの用意した「このままではヴュルツブルクは、アルフォンス公の力の及ばない場所となるがどうする?それが嫌なら用意した罠へとかかれ」というイエス以外の答えがない問い。
その問いにヴェルナールは、ヴュルツブルクの目論見通りイエスを選んだのだった。
参加の旨を記した書簡は、すぐさまマリエンベルク要塞へと向かった。
「自ら死を選ぶとは、お主も若いのぉ、ヴェルナール……くくくっ」
答えのわかりきった返答の書簡に目を通したさも愉快だと笑った。
「アインスバッハ侯、お主に部隊の指揮は任せよう。当日、大物を狩ってくれ」
「エルンシュタット再興のためなら、どれだけでもこの手、汚して見せましょう」
それが貴族の在り方にもとる行為だとしても、アインスバッハは受け入れた。
エルンシュタット再興のため、或いは自分の愛する故国を滅ぼしたヴェルナールを討つためなら何も厭うことはなかった。
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