第96話 四つの軍勢
「砦は捨てて炭鉱へ向かうぞ!」
ベッテルは、自ら
ベルジク兵らも砦を奪取して周囲に伏勢が居ないかを確認するとすぐさま追撃を始めた。
「一人も漏らすな!残らず討ち取れ!」
砦に至るまで既に二百を超える損害を出していたベルジク兵は、借りを返すとばかりに猛追する。
「串刺しにしてやるっ!」
「むぅんっ!」
時折振り返っては槍をつけてくるベルジク兵に対してベッテルも槍を振るう。
その槍を受けたベルジク兵は、谷底へと落ちていった。
「まだ来んか!」
ベッテルは、東の空を見てまだ来ぬ友軍にため息をついた。
数百メートルをそうやって走ると二百余りに減じたベッテル率いるアルフォンス兵は、炭鉱の入口へとついた。
「ここは行き止まりでは無いのですか?」
ベッテルの部下が心配そうに尋ねるとベッテルは、笑みを浮かべた。
「今までお前達に黙っていたが、実を言うとだな、この炭鉱はこのまま行けば山の反対側へと繋がっている」
「おぉっ!」
それを聞いて彼の部下は、嬉しそうに笑顔を浮かべた。
砦を捨てて炭鉱へと向かうことになったアルフォンス兵達は薄々、死を覚悟していた。
しかしそれがどうだ、助かると聞かされれば嬉しくもなるだろう。
「炭鉱の中は道が迷路のようになっておる。間違えないよう俺に続け!」
ベッテルはそう言うと、兵士達と共に炭鉱の中へと姿を消した。
入り口に残ったのは、決死の覚悟を決めた二十人だった。
彼らの役目は、敵が炭鉱へと入ったら入り口を破壊し出れなくすることにあった。
ちなみに反対側の入り口にも、破壊が容易にできるよう細工が施されている。
彼らは炭鉱の中へと入っていく仲間を見送ると再び藪の中へと身を潜めるのだった。
◇◆◇◆
「落ちてしまいましたか……」
ナミュール州の部隊と合流して二千弱の兵力となった援軍を率いてきたジルベルトは、山の中腹にある砦を見つめた。
砦にたっている旗はアルフォンス軍のものではなく、ベルジク郡のものに変わっていた。
砦にはためくロヴァンジール伯爵家の紋章のあしらわれた旗をしばらく眺めているとジルベルトは、あることに気付いた。
「砦の兵が少ない……?」
「どうかしましたか?」
主の独り言に側仕えの部下が聞き返す。
「砦にいる敵兵が心做しか少ない気がするのです。これは、炭鉱に向かっているのでは?」
「言われてみればそうですね。もしかしたら味方は戦闘中なのでは?」
「なら、行きましょう。全隊、砦を奪還せよ!」
ジルベルトの一声で二千弱の部隊が一斉に動き出した。
これを見て驚いたのは、砦を守るベルジク兵だった。
九百いたベルジク軍は、七百余りで砦を攻略しそこで出した二百の損害を残りの二百で埋めていた。
五百の軍勢がアルフォンス軍の残党を追撃して砦から出払っているというタイミングで現れた新手のアルフォンス軍二千。
城将は天を仰いだ。
砦を包囲して落としたと思ったら今度は自分達が包囲される側なのかと。
そしてその城将は砦を捨てて、追撃を行うロヴァンジール伯ではなく新たな友軍と合流することにした。
◆◇◆◇
「アルフォンスの連中、炭鉱の中に逃げやがったぞ!」
「これで奴らも袋の鼠だな」
追撃してきたベルジク兵は、指揮官の命令を待つべく炭鉱の入り口で止まった。
やがて、ロヴァンジールが入り口に到着し兵士達から報告を受けると
「お前達、狩りの時間だ!楽しめ!褒賞も用意してやるぞ!」
下卑た笑みを浮かべながらロヴァンジールは、自らもまた兵士達とともに炭鉱へと入っていった。
ベルジク兵五百が、手柄を競って炭鉱へと入っていってから暫くして勢いよく炭鉱の入り口が崩壊したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます