第83話 タルヴァン派
選帝侯会議が始まる前日、各国の選帝侯達とは別に、ある教会組織がミッテルラント入りしていた。
「護教庁よりの命令で貴様らと我々は警備を交代することとなった。この命令書には、護教庁長官の署名も記載されている」
夜半を迎えたミッテルラント市中央部に位置するミッテルラント大聖堂では、二つの集団が対峙していた。
「しかしながら我々は、そのようなことを聞いておりません。いくら護教庁からの指図と言えども我々は、ミッテルラント大聖堂の護衛の任務を離れるわけには参りませぬ。どうぞお引取りを」
対峙しているのは福音局に属する聖堂騎士団と護教庁所属の護教騎士団だった。
だが、この護教騎士団は曰く付きと言ってもいい組織であることから、やり取りをする聖堂騎士の表情は硬い。
「そうか、それは残念だったな」
大聖堂の警備を行う聖堂騎士の警備隊長と話し合っていた護教騎士団の頭目の男は、そう言うとくるりと踵を返した。
「引き下がってくれたか……」
その様子を見て聖堂騎士の警備隊長が安堵の息をつく。
しかしそれはしてはならない油断だった。
束の間、彼の両腕は地面に転がっていた。
「残念だったなァ?大人しく警備を代わってくれれば、お前の両腕は胴体から離れることもなかったろうに」
護教騎士の頭目はそう言って腕を失った体を足で転がした。
「愚かなる現法皇に従う貴様らに一つ教えてやろう」
双剣から血を滴らせながら醜悪な笑みを浮かべる男に聖堂騎士達は剣を抜く。
「喜べ!貴様らは唯一神ミトラが全世界を統べるその日のための生贄となるのだ!神の教えに全てを捧げる貴様らなら本望だろう?」
そう言って頭目の男が双剣を振り下ろしたのが合図だったのか、護教騎士が聖堂騎士へと遅いかかる。
聖堂騎士達を束ねる人間は、出血多量で既にこと切れているから、聖堂騎士達の命運など火を見るより明らかだった。
「お前達、バレぬよう骸は片付けとけよ?何しろ明日はここにお偉いさんが来るんだからなァ?」
聖堂騎士の纏う衣服で自身の剣の血糊を拭いながら護教騎士団の頭目は、そう言うのだった。
この男の名はクルデーレといい、ミトラ教以外の宗教の力による排斥を訴える過激派組織タルヴァン派の幹部だった。
近年このタルヴァン派は、
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ややこしくなってしまうかと思うので解説をしておきますね!
史実でのルコンキシュタは、イスラームの拡大を阻止するために行われたイベリア半島におけるイスラーム勢力排斥のための戦争のことです。
また、十字軍遠征は簡単に言えば聖都エルサレム奪還に関する事柄です。
一方この物語の中では、ルコンキシュタは、聖都奪還のために他宗教の支配領域へ侵攻するための聖戦を意味しています。
ちなみにタルヴァン派の元となったのは、カルヴァン派です。カルヴァン派は、聖書を最高権威のものとし厳格に信仰を行う一派です。それをイスラームの原理主義組織であるタリバンと掛け合わせてタルヴァン派としました。
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