第80話 連行
「え?今なんて?」
「じゃからお主を選帝侯にすると申したのじゃ!」
「剪定工って……あの造園工事をするやつ?」
「なぜそうなる!?ミトラ教の最高司祭を決める役職じゃっ!」
選帝侯に就いているのは、アルフォンス大公国近辺では、北プロシャ選帝侯がいた。
「でも俺、別に宗教的な貢献とか何にもしてないぞ?」
「そこはほれ、妾の父親がな?」
「あー、圧力をかけたってこと?」
「身も蓋もない言い方じゃな……」
ヴェルナールは、選帝侯就任の話を聞くと素早く頭を回転させた。
おそらくは、ヴァロワとの結びつきを懸念してのものなのだろうと。
現在のパワーバランスで言えば、ユトランド評議会加盟の話は有耶無耶になり北からの圧力は気にする程のものではなかった。
西には内戦の後始末に追われるヴァロワがいて適度に友好な関係を築けている。
そして東には、従属していた国であるエルンシュタット王国。
南には、無数の中小国家と大陸最大のカロリング帝国。
東の隣国エルンシュタットは、他国が冬戦争を行っているうちに昨年、
東の敵国を除くと、
「わかった。その話、喜んで受けよう」
「おー、それはまことか!?これで大軍を率いてアルフォンスを潰さずに済む!」
「カロリングこっわ……」
どこまで本気で言ってるかは分からないが、カロリングに軍事通行件権を求められれば大半の国は、渡してしまうだろう。
つまり、
この場合、好意(建前)で用意してくれた選帝侯への就任の話を断ると後々が怖いのである。
「というか、カロリングって戦争大丈夫なのか?」
カロリング帝国陣営とイリュリア半島諸国の支援を受けるオストラルキ大公国の戦争は大方の予想通り泥沼化していることは既に間諜達が知らせてくれていた。
「他国に自国の恥を晒すようで言いたくはないのぉ……」
カロリングの抱える戦争の話を話題にした瞬間にエレオノーラは、酷くしょげた。
「……ん?良いことを思いついたのじゃ!」
そう言ってエレオノーラは、つぶらな瞳で俺を見つめた。
「この後は暇かの?」
なんか物凄く嫌な予感がするんだが……。
「いや、溜まっていた政務があってだな……」
「ふむふむ?つまりは、それがなければ暇なのだな?」
「いや、それが終わると今度は、ユトランド評議会陣営での会議が――――」
「ないことは知っているぞ?うちの情報組織はアルフォンスやスヴェーアには、劣るがそこそこ優秀での?」
「つまりは、暇なのだな?」
「いや……」
適当な言い訳が見つからない……ッ!
「アウローラ!ヴェルナールがいない間の政務を頼むぞっ!」
「はい殿下!」
その場に居合わせた見るからに屈強そうなエレオノーラの家臣団に半ば連行される形で俺は――――。
◆◇◆◇
――カロリング帝国港湾都市トリエステ――
「総員、劇場まで走れぇっ!」
ヴェルナールが大きく腕を振り下ろして叫ぶと、浜に乗り上げるように上陸した無数のキャラック船から一気に、兵達が飛び降りていく。
カロリング最初の反攻作戦は、敵後方への強襲上陸から始まったのだった。
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