第52話 会食
「さすが美食の国ですね」
並んだ料理のひと品ひと品が輝いて見えるのだ。
これまで行ったことのあるベルジク、ホランド、エルンシュタット、ダンマルク、そのどれよりも味は遥か上を行く。
大陸でこれらの料理に対抗出来るのはカロリング帝国の料理ぐらいだろう。
「そう言って貰えると何よりです。と言っても私が作ったわけでは無いですが」
そう言ってセルジュは笑う。
「このワインの香りも素晴らしいな」
口に含めばフルーティーな味わい、それでいて酸味や深みを感じさせる。
「そのまま口に含んでいると、バラ、スミレなどのフローラルな香りが鼻腔を抜けてきますよ」
そう言ってセルジュは空になったグラスにワインを注ぐ。
「帰りにお土産にしたいぐらいだ」
「用意させておきますよ。ちなみにこのワインは、バーガンディ地方のものになります。ヴェルナール殿からすると、ブルグント地方と言った方が身近かもしれませんが……」
どうやらアルフォンス大公国が以前までエルンシュタット王国に属していたことを配慮したらしい。
エルンシュタットではブルグント地方と呼ぶのだ、というのもかつてエルンシュタットの支配地域だったことに由来する。
「いや、
そう言うとセルジュは驚いた顔をした。
「そう考えるとヴェルナール殿は語学堪能ですね!公用語のロマンヌ語にスエビ語、さらにカロリングに留学していたからエトルリア語も話せるんでしょう?」
そう言われてみれば確かに人よりは多いかもしれない。
「弱小国家の渡世術ですよ」
独立宣言をしてからというもの、まさにそれを身をもって実感しているところだ。
「なるほど、それは必要に迫られますね」
セルジュの注いでくれたワインを口に含んだところで
「お邪魔させて貰うわ」
会食の場に二人の侍女を伴って赤いドレスを纏った一人の女性が部屋へと入って来た。
「オレリア……何故ここに?」
「なぜって、それはねぇ」
そう言うとオレリアと呼ばれた女性は俺の方を見た。
年齢は俺の横で黙々と食べているレティシアとファビエンヌ伯であるアレクシア姉の間ぐらいだろうか。
「どこかの誰かと違って、武勇と頭脳の両方を兼ね備えたアルデュイナの化身ってのを見てみたかったのよ……と言っても女神の化身とは似ても似つかないわね」
知と武を兼ね備えたって相当脚色されてそうだな……。
「うちの妹が無礼なことを――――」
慌ててセルジュが謝るが俺はそれを手で制した。
「そう言う風に伝わってるとは興味深い」
自分のことを御伽噺の登場人物のように言われるのは、こそばゆくもある。
「吟遊詩人達がまるで、おのが見た事のように詠っているわ」
アルデュイナの化身っていう表現は、たまたまベルジクとの戦場がアルデュイナの森だったからだろう。
アルデュイナと言うのは、あの地域一帯で崇拝されている神の名だ。
「こんないい兄がいて貴方が心底羨ましいわ」
オレリアに声をかけられたレティシアは、ふふん!と鼻高らかだ。
「お兄様は、私の一番大事な宝物ですもの!」
「私の兄にもそう言えるような人になって欲しいものね。アルフォンス公の顔を見れたので満足したわ。また後ほどお会いしましょう」
セルジュに対して含みのある言い方をしていたオレリアは、そう言うと侍女を連れて退室して行った。
「すぐ帰っていったな」
彼女がいた時間は、ほんの数分だ。
なんというか嵐のような人だな……。
「後で言い聞かせておきます」
セルジュは、すまなそうに言った。
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お詫び
49話以降、修正が入っております。
・第2皇子の名前 フィリップ▶️セルジュ
・アレクシアの訪問の時期のズレがありましたので修正しました。
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