第51話 グラン・パルリエ

 「ここがグラン・パルリエですのね!」


 馬車で隣に座るレティシアは、窓に張り付いて目を輝かせている。

 今回は「いつも置いてけぼりばっかりだから付いて行きますわ!」と言っても聞かないレティシアも一緒だ。

 光の都とも謳われるグラン・パルリエは、大陸で二番目の大きさを誇る大都市なのだからそれも仕方ないだろう。

 公都ラクセンバーグと比べれば尚更だ。


 「ここに軍隊がいなきゃもっといいんだがな……」


 街の通りの各所には、拒馬や土嚢などが設置されており、張り詰めた緊張感が漂っている。

 この大都市グラン・パルリエは、ヴァロワ朝の首都であるがために、第一皇子シャルルの派閥と第三皇子エドゥアールの派閥の双方が睨み合っているのだ。

 だが首都での戦闘を忌避しているのか今の所は、グラン・パルリエ内では戦闘は起きていないらしかった。


 「ですが、この中を通って来いというのもなかなかですね」


 若干の憤りを混ぜてノエルが言った。

 仮にも王族の招きによって一国の主が自ら来ているのだからそれを危険な目に合わせるなど、以ての外であると言いたいのだろう。

 そのような扱いを受ければ、国賓であるにも関わらず軽んじられているのでは?と思うわけだ。


 「だがなぁ……エドゥアールの兵が護衛につくとそれはそれで迷惑だからな」


 エドゥアールの兵が護衛についた場合、シャルル陣営からすれば完全な敵だと認識されてしまうのである。

 そうなれば最悪の事態に鞍替えなどがしずらくなるのだ。

 エドゥアールに脅されようが脅されまいが俺は、一番パワーバランスの変わらない方法を選ぶ。

 個人的な考えだが、エドゥアールを内戦に勝たせると間違いなく公国うちもその配下に従属させられそうな気がするんだよな……。

 大国に翻弄されるのが小国のさがだとは言えそんなのは勘弁願いたい。

 とか何とか考えてるうちに馬車は城門前の堡塁を超えた。

 

 「閣下、貴人と思しき人が進路上に立っておりますが」


 と御者が言うと馬車は止まった。

 そして馬車の扉がコツコツとノックされる。

 出ろということか……。


 「私が先に行きますので御二方は私の後に」


 ノエルがもしものことを想定してか、そう言うと軽やかな身のこなしで馬車から降りた。

 そして若干の間を置いて目配せをしてくる。

 降りても大丈夫だ、ということなのだろう。


 「レティシア、行くぞ」

 「はい、お兄様」


 馬車は段差があるのでレティシアの手を取って一緒に降りる。

 するとタイミングを見計らって声を掛けられた。


 「歓待役を仰せつかっております、セルジュと申します。以後どうぞよしなに」


 そう言って頭を下げた彼のことを俺は知っていた。


 「なぜ第二皇子殿が私の歓待役に?」


 そう彼もまた王位継承権の保持者なのだ。 

 だが、継承権戦争には参画するつもりは無いのが謎だ。


 「私には出来の良い二人の兄弟がいます。それに……自分の派閥が無いのです。それ故にとうの昔に王位継承については諦めました。残りの人生は心より愛する芸術に捧げていければと考えております」


 なぜ彼自身の派閥が無いのか気にならないわけではないが、詮索はやめておこう。

 彼が歓待役として俺に付き合って行く過程で見えてくるものもあるだろう。


 「なるほど、そういう事か。ならこれからよろしく頼む」


 そう言って手を差し出すと固い握手を交わした。

 だが二人ともこの出会いが二人の運命を左右するものであることを今は、まだ知らない。

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