第23話 ボードゥヴァンの提案

 「呼び出してすまぬな」


 ゲフィオンの泉の前、それぞれ従者を一人従えて対面した。


 「いえ、隣国として親しい関係を築けることを願ってやまない私からすれば、出向くのは当然ですよ」


 まずは互いに真意をさぐり合う。


 「それはそうと、先日は災難であったな」

 「えぇ、まさか火災で会談が流れるとは思いもしませんでした」


 あくまでも火災はホランド側の落ち度、そういう態度を貫く。


 「うむ、ホランドの連中があれほど使えないとは思わなんだ」


 そう言ってボードゥヴァンは笑った。

 互いの腹を探りあっているが、互いに尻尾を出さない現状、時間の無駄でしかない。


 「そろそろ本題と参ろうか」

 「えぇ、そうしましょう」


 見切りをつけたのか、ボードゥヴァンが策略という名の牙を抜く。

 それを躱し続けなければならない。

 ここから気を引き締めないとな……。

 

 「では単刀直入に言おう。今回の会議、儂と組まぬか?」


 は――――?

 協力という予想外のカードに俺は耳を疑った。

 どういうつもりだ?

 

 「わからない、という顔をしておるな」

 「組んで何をするかが謎ですからね」

 「儂は既に貴公の狙いに感ずいていると言ったら?」


 さすがは野心家と言ったところか……公国うちの方針は見抜かれているらしい。


 「というと?」

 「ユトランド評議会陣営にも帝国陣営にも属さない状態を継続させる、それが目的だろう?」

 「ご明察ですね」


 そのためにユトランド評議会の会議を壊すべく、俺は参加することを決めたのだ。


 「これくらい貴公の置かれた状況を考えれば自ずとわかる」

 「では、私と組むということの意味、わかっているのですね?」


 俺と組む、ということは結論を出させないよう会議を無意味なものにするということだ。


 「おうとも、わかっておるよ。その上で貴公の立場を支援しようと言っておる」

 

 はっきり言えば、ボードゥヴァンの誘いに乗るのはリスキーだ。

 そしてこれまでエルンシュタットの一貴族でしかなかったアルフォンス家に他の王家との関わりは無い。

 だから当然、ユトランド評議会参加国との関わりなどないわけである。

 その点、アルフォンス家の立場を支持するというボードゥヴァンの申し出はありがたい。

 ベルジクを後ろ盾にできるのだから。

 ベルジクは、ユトランド評議会参加国内において、ダンマルク、ホランドに次ぐ大国だ。

 それが後ろ盾にあるという事実が、会議において影響力を持つことは間違いない。


 「そう言っていただけるのであれば、是非お願いしよう」 

 

 既に、間諜を用いて様々な工作をさせているがおおやけにできる範疇において、この会議を乗り切る術を持たない俺は、それに乗らざるを得ない。

 一歩退いたところで控えているノエルは心配そうに俺を見ている。

 普通に考えれば、暗殺してきた相手からの提案で、それに乗るのは危険だ。

 見え透いた罠と思えなくもない。

 だが仮にも罠だったとして、その時はその時だ。

 俺も伊達や酔狂で或いは道楽で国家元首をやっているわけじゃない。

 はノーリスクハイリターンだ。

 これが元で公国が危険に晒されるのなら全力で立ち向かって払い除けるまでだ。


 「ふむ、任せておけ」


 ボードゥヴァンと固い握手を交わすと秘密裏の会談はお開きとなった。

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