第9話 邀撃
「―――――といった具合に今頃揉めてるだろうな」
緒戦での大敗、敵はそれを挽回するために
「冷静さを欠かせて判断力を失わせて叩く、性格の悪さが滲み出てる戦法ね」
「ブリジット、褒め言葉として受け取っておくよ」
仲がいいからこそ、遠慮のない二人。
これを知らない人が聞けば、伯爵令嬢が公爵に喧嘩を売っている、そう聞こえてしまうだろう。
「勿論、私が送る最高の褒め言葉よ」
「この兵力差だと策も大事だが、相手の心にどれだけダメージを与えるかっていうことを考慮しないと勝てないからなぁ」
ここから俺達に求められるのは、相手を冷静にさせない立ち回りだ。
常に刺激し続け苛立たせ集中力を乱す。
数的劣勢が故に、こういった盤外戦術の効果も無視できない。
「閣下、敵が川を渡り始めました」
「冷静さを欠いた敵が、さっそくお出ましだ」
予想通りの展開、このまま山へと引き込めば勝ち目は十二分にある。
トリスタンの報告を聞いて不安そうな表情を浮かべたアレクシア姉は言った。
「やはり川岸で邀撃するか橋を落とすかした方が良かったんじゃないか?」
アレクシア姉の心配はもっともなことだ。
そして一般に部隊を率いる指揮官の誰しもが思うことだろう。
だが今回の場合は違う。
「川岸では、身を隠せるものがありません。敵は報告によれば一万弱、我々には三千七百の兵がいても敵の兵力は二倍以上、弓箭兵の数も我々の二倍以上と考えるべきでしょう」
つまり川岸で邀撃しようにもまともに戦ったら負けるのはこちらというわけだ。
その点、山で戦うのなら話は違う。
森に生い茂る木々である程度は射線をカバーできる。
加えて、高度差もこちらの味方となる。
こちらは撃ち下ろすだけでいいから問題は無い。
しかし相手からすれば、高いところにいる敵に向かって撃ち上げる格好になる。
命中率は下がるし矢を射る際に出来る隙も大きくなる。
「トリスタン、既に味方の配置は終わっているな?」
「抜かりなく」
「そうか、ご苦労。今日は長い一日になるぞ」
それぞれの持ち場へと戻ると俺達はときを待つことにした。
そして待つこと一時間、太陽が中天をすぎた頃だ―――――
「敵の先鋒部隊、有効射程内に入りました!」
見張り員からの報告を受けたヴェルナールは大きく上げた手を前へと振り下ろした。
後の歴史書に「エルンシュタット崩壊の原点」とも称されるグレンヴェーマハの戦いは火蓋を切ったのだった。
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