第7話 モーゼル河畔2

 「敵は二つ目の部隊まで送り込んできたな」


 敵を押し始めたこの機会に橋頭堡を築いてしまおうという算段か……。

 余りにもことが上手く運びすぎて口許が思わず緩んでしまう。

 

 「そろそろ頃合にございましょう」

 「そうだな。皆、アルフォンス大公国にアヴィス騎士団ありと知らしめるときだ!橋を渡ってきた愚かな連中を一人残らず討ち取れ!突撃!」

 

 四百騎の重装騎兵が大喚声をあげながら森から勢いよく飛び出す。

 

 「な、なんだあれは!?」

 「どこから湧きやがった!?」

 「く、来るなぁぁぁっ!」


 トリスタンの率いる二百騎がブリジット隊を追い回していた敵歩兵に突っ込む。

 目の前の獲物に夢中だった歩兵達はパイク兵による槍衾を作る間もなく、次々と屠られていく。

 今度はこちらの番だな。

 川沿いを進み、混乱状態となった敵の後尾に襲いかかる。

 破竹のごとき勢いで次々と歩兵達を蹄にかけていく。

 連携の取れていない敵など鎧袖一触だ。


 「敵の新手が来るよ!迎え撃って!」


 俺の掃討した後を、態勢を立て直したブリジット隊が続き、橋を渡り始めた敵の騎兵への攻撃を開始する。

 橋を渡るべく速度を落とした敵は、先頭の騎兵からから矢の猛射を受けて針鼠のようになり水面へと落馬していく。


 「敵歩兵の掃討、完了致しました」


 重装騎兵四百と歩兵四百の戦いは、こちらの圧勝だった。

 

 「ご苦労、もう一仕事といきたいがどうする?」

 「ブリジット隊の護衛に百騎程度を残して残りは渡河して敵陣に雪崩込みましょう」


 敵陣には、川を渡った部隊で重装歩兵を消費してしまったのか盾兵が見当たらない。


 「そうだな、橋を渡ろうとする軽騎兵を除いて敵の残存数は四百程度。殺れない数じゃないな」

 

 トリスタンが部下の一人を指揮官として百騎の騎兵とともに残すと残りの三百騎は、初夏の川面へと入っていく。

 時折敵の矢による攻撃があるが重装騎兵の甲冑を貫通できるはずもなかった。

 なにしろ最新の武器であるマスケット銃ですら貫通出来ないのだから、矢で貫通出来る道理がない。


 「敵の前進を食い止めろ。かかれー!」


 川岸まで来たところで敵のパイク兵が立ち塞がるが練度が違った。

 突き出される槍を振り払い逆に槍で敵を串刺しにしていく。


 「退くなー、川に叩き落とせー!」


 焦燥に駆られて叫ぶ敵指揮官をトリスタンが跳ねた。

 指揮官を失ったことでパイク兵達は統制を失い逃げ出した。

 それならさらなる追い討ちをかけるか。


 「タクシス侯は何処にいる!」


 軍旗はなく既にタクシス侯は逃げ出している。

 それをわかった上でわざと大声でそう言った。

 

 「か、閣下がおられない!?これはどういうことか!?」

 「我々を置き去りにして、逃げたというのか!?」


 狙いは的中したな。

 敵は大将であるタクシス侯が既に逃げていることを知るや否や蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


 「追いますか?」

 「いや、勝ちすぎたくらいだ。我々も戻るぞ」

 「御意」


 トリスタンに命じて兵を纏めさせると意気揚々と退却した。

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