<閑話:パルミュナの退屈>
: ねー、アスワン、退屈ー。
: なにを言っとるのだお前は。その退屈というのはなんだ?
: することがないって意味?
: 今さら、なにか日頃と変わった所でもあると言うのか?
: ないから退屈なのー。
: 意味が分からん。することなど自分で創れば良かろう?
それがないなら、他の連中のように閉じ籠もって寝ていれば良い。
: それじゃー面白くないじゃん!
: ますます意味が分からん。お前は本当に精霊らしくない。
: アスワンがそれ言うー? 『目的意識』だっけ? そんなもの持ってる精霊の方がよっぽど珍しーよ?
: 大きなお世話だ。精霊が何を好んでどんな力を振るおうとするかという理由なぞ、その精霊自身にしか分かるものか。
: だからー、アタシもそーゆーのが欲しいの!
: 『そーゆーの』とは一体何だ?
: 目的意識???
: ...よく分からんが、それは、欲しがるものなのか? と言うか、誰かに貰うものなのか?
: へーっだ。アスワンがくれなくても、ちゃんと見つけるもーん!
: なら、そうすれば良かろう?
ほれ、もう春もたけなわだぞ? 久しぶりにあっちへ戻って、新芽たちの面倒でも見てやればどうだ?
: 追っ払おうとしてる?
: そんなことはない。いまもお前さんに頼みたいことは色々とあるし、これからも色々と出てくるだろうからな。
: んー、例えば?
: 魔力の奔流を一本ずつ辿っていって、その網の目を絵図に書き起こすとかどうだ? その絵図が仕上がれば、ひょっとしたらなにかが分かるかもしれん。
: 『ひょっとしたら分かる』ってことはさー、むしろ、『たぶん何も分からない』ってことになるんじゃないのー?
: それはそうかもしれんが、やってみる価値はあるかもしれんだろう?
:なによー、その『かもしれん』の連続はー!
: まあ、そう言うな。こんな面倒なことこそ、『退屈』?だったか、しているお前さんに相応しかろう。
: えー、面倒って言ったー!
: それこそ、勇者に面倒ごとを押しつけている儂らに文句の言えることではなかろうよ。
: そっかなー?
: まあ試しにやってみれば良い。毎日コツコツとやれば、恐らく全部の奔流を絵図に描き上げるのに三百年とかからんはずだ。
: ...年を追うごとに、こんなに魔力の奔流が乱れて揺らいでるのにさー、三百年経ったら、ほとんど変わっちゃってるんじゃないー?
: ほとんどと言うことはないだろう。せいぜい半分くらいではないか?
: 半分間違ってる絵図って役に立つー?
: ...立つのではないか? 役に立たんとは言い切れん。
: やっぱり、追い払おうとしてるよね?
: 気のせいだな。気が向かぬなら、別のことをすれば良いだけだ。
: まー、そーだけどさー...
: この世界には、儂やお前さんになにかを強制するものなどおらんぞ? 自らが思うように動けば良いだけだ。
: 強制かー...他者の意のままに動かされるって、どーゆー感じなんだろーね?
: さあな。知らぬものは答えようがない...
まあ、長年のよしみで一つだけ言っておこうパルミュナよ。
: なにー?
: お前さんの考えている『目的意識』という奴は、貰うものでも、見つけるものでもない。それは精霊自身の中に生じるものなのだ。
その精霊の外に落ちてはおらん。
周りをどんなに見回しても見つかりはせん。
: じゃー、どーすればいいのさー?
: なにかに興味を持て。
もし、それがお前さんに本当に関わりのあるものなら、それがお前さんの中に『目的意識』とやらを生じさせてくれるかもしれん。
: ふーん...そういうもんかー...
: ああ、そういうものだとも。
: あのさー、なんでアスワンは、ライノの魂があの勇者のものだってこととかさー、いろいろ教えなかったの?
: うむ...本当を言うと、最初は教えてあやつを鼓舞するつもりでおった。だが、話しているうち、すぐにそんな必要がないと気がついた。
むしろ、余計なことで悩ませてしまうだろうとな。
: そーゆーもん? 人ってさー、誰だって自分のことを知っていたいって思うもんじゃないのー?
: 知ることが、必ずしも良い方にことを進めるとは限らんよ。
それに、あやつが勇者を引き受けてくれることは、そもそも最初から分かっていたからな。だから、事前にあの刀も鍛えておいたのだ。
: 時々さー、アスワンの考え方って面倒くさすぎて良く分からなくなるよねー?
: 面倒くさいとは何事だ。こういうのは『深い考え』と言うのだ。
: へーーーーー。
: まあ、自分で言っておいてなんだが、深く考えたから正しいという訳でも無いからな。
お前さんくらい適当な方がいいってこともあるだろうさ。
: ふーん...やっぱり面倒くさいかも...。
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