第24話 新しい婚約者が出来ました
ようやくあの騒動が落ち着いた頃には、秋が深まりつつありました。
花々が咲き誇る園遊会で目にした美しい景色も、思い出すよりも次の機会を焦がれる方がより近く感じられるように感覚も変わっております。
それはつい先日のこと。
しばらくは手伝いをしなくていいと父から言われてしまいまして、さて何をしようかと悩み始めた矢先のことです。
タイミングよく婚約者様が我が邸を訪問されて、その場でその悩みは消えてしまうことになりました。
そして今日もまた。
婚約者様は私と共に我が邸の庭でくつろいでおられます。
「君の淹れる紅茶は本当に美味しいね。昨日と味が違うけれど、これも帝国の茶葉なのかな?」
婚約してからすぐにお互い気楽に話そうと提案されまして、婚約者様はすぐに実行しておりますが、まだ私はそこそこには淑女の顔を保っています。
たとえ侯爵家自慢の庭園を望む白塗りのガセボにて、人払いをしたのち、二人きりで過ごしていたとしても。
この国でこの御方を前にすれば、私はしがない貴族令嬢に違いありません。
「えぇ。今日の茶葉は昨日届いたものになります」
伯父からは季節に合わせた茶葉が頻繁に届くのですが、その荷には必ずいつも早く一緒に飲みたいという旨の手紙が添えられておりました。
紅茶の味わいと共に、拗ねている伯父の顔が浮かんできます。
あちらでも同じ茶葉で、母と共にお茶を楽しんでいる頃でしょうか。
「この秋の空気にぴったりの紅茶を選ばれるとは、流石は君の伯父上様だ。お元気でいらっしゃるのかな?」
本心では伯父のご機嫌伺いのために、毎日のようにこの邸へと足を運んでいるのでしょう。
今はこの国の誰よりも私が伯父に詳しい立場にあると言えますからね。
私がそう考えておりますと、すぐにこの御方は──。
「今の質問こそがついでだよ。正直に言えばね、二人のときに、いくら君の伯父上様であっても、他者の話はしたくないんだ。私は君を知りたくて、そして君に私を知って欲しいと願い、ここに来ているのだからね。頼むから、それは分かっておいて」
手を取り、このように言うのです。
私はまだ何も言っていないというのに。
ほんの少し、本当に少しですが。
私が口を尖らせてみれば、婚約者様は今日も機嫌よく笑い出しました。
この嬉しそうな笑顔を見ると、私はいつもとても狡い御方だと感じます。
「そういう顔をもっと見せてよ、ローゼマリー」
私はすぐに顔を戻して、淑女らしく微笑んでみせました。
それでもこの御方は怒りません。
「早く信じて貰えるように頑張らないといけないね」
なんて言うのです。
別に私は信じていないわけではありません。
婚約破棄からの男性不信というわけでもないのです。
けれども長年染み付いた癖というものが、私の本心が口から出ることを拒んでいます。
「今日も言っておくね、ローゼマリー。私は君の知らないところで何もしないことを約束するよ。君のために何もしないとは言わないけれど。だけど何かをするときには、これからはちゃんと君に相談してから動くことを誓おう。だから、もっと気楽に。好きに話してよ、ローゼマリー」
こんなに狡い御方を私は他に知りませんでした。
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