第21話 どうして黙っているか知りたいですか?
「ほぅ。つまりお前は、公爵として、そして父親として、次期公爵となるはずだった息子を立派に育て上げたから、あの屑が自発的に問題を起こすはずがないと言いたいのだな?」
「さ、左様ですとも。私は心を鬼にして息子には厳しい教育を与えてきました。ですから、こんなことはあり得ないことで。それに、そうです!優秀に育てた息子が公爵となった暁には、必ずやこの国に多くの利益をもたらすことでしょう!」
呼び方を否定しなかったことは気になりますが。
ずっとご自身のことしか気にされていなかったはずの公爵様は、ここに来て突然に良き父親であることを主張しました。
嫌な空気を感じ、議長様を眺めましたところ。
思った通りに、とても不穏な様子で微笑まれておりました。
やはりお可哀想です。
「お前は良きことを言う。実は私もお前と同じように思っていたのだ」
「は?」
「そそのかした者がどちらか、そんなことはどうでもいい。愚妹が問題を起こしたことは事実。王女だからこそ、あやつには厳しい処分を与えねばならぬ。お前もそう思っているのだろう?」
「そ、そうですとも。ですから我が家はその被害者として寛大な……」
そそのかした方がどちらかなんてどうでもいい。そう仰った議長様の言葉は受け取らず、公爵様が慈悲を求めて頭を下げようとしていたところに、議長様はまた無慈悲に言いました。
「だがそうなると、陛下にもその責を問わねばならない。お前はそう言いたいのだろう?」
「は?」
「国王として、父親として、陛下はあのような愚かな王女を育て上げてしまったのだ。お前とは違ってな」
公爵様のお顔色はまた一段と悪くなっておりました。
「わ、私はそんなつもりではなく……ただ私は……その……」
「いいぞ、気にするな。私も以前より陛下には問題があると考えてきた。早々に退位された方がよろしいと進言した回数も、もはや数えきれんほどにな」
「は?はい?退位ですと?」
味方にする者を間違えていたことに、公爵様はここではっきりとお気付きになられたようです。
きつく議長様を睨まれておりますが、今さら騙された!と憤ってみたところで、もう何もかもが遅いというもの。
議長様はふぅっと息を吐かれたあとに、ほんのりと笑われました。
けれどもその笑顔は、どこまでも冷え切った瞳のせいで、周囲にはとても恐ろしいものに映ります。
この場にいる皆様方も、同じように俯いて議長様とは目を合わせないようにしておりました。
堂々と顔を上げて座っているのは、父くらいです。
「問題に関係のない被害者のような顔をしているが、そのはじまりもお前の件だったからな?」
「は……?」
「陛下はお前の言葉だけを鵜呑みにし、ギルバリー侯爵家の意志を確認する間も取らず、お前のところの屑とギルバリー侯爵令嬢殿の婚約を許可してしまっただろう?私はあの件で陛下を見限ったのだ」
はい?
私の婚約話がきっかけですって?
公爵様と同じように私も耳を疑って聞き返したくなりましたが、ぐっと堪えて淑女の笑みを保つことが出来ました。
私の動揺に関係なく、話はどんどん進んでいきます。
「お前のこともそうだ。あの日からずっと、お前などを公爵に据え置いていてはならんと考えてきた」
「な、何故私まで……?」
「お前はあのとき陛下に虚偽を伝え、婚約を謀ったであろう?」
公爵様は驚きに目を瞠っておりました。
そのように分かりやすい反応を示してしまって大丈夫な……もうその身を案ずるような状況ではありませんでしたね。
爵位剥奪、領地返還はすでに決まったこと。
ただの小娘で、新興貴族である侯爵家の令嬢の私は、この方の先を憂える立場にはございませんし、ただ聞いていることにいたしましょう。
これから大変興味深いお話が聞けるようですからね。
え?根に持ち過ぎているのではないか、ですって?
そんなことはございません。
他人の言動に口を挟む考えを持っていないのですから、気にしても仕方がないこと。
公爵様が私をどう思い、普段からどのように呼んでいようとも、それはお好きにどうぞという話です。
え?それにしては冷たいですって?
そうでしょうか?むしろ私としては優しくしているつもりだったのですが。
だって公爵様たちの言動を気にして、私が嫌だと言ってしまったら、どうなるでしょう?
だから私は、他人の言動に対し何も期待せず、何も言わないようにしています。
ただしあまりにも目に余るときには例外もある、ということだけは言っておきましょう。
今回の婚約破棄の件に関しても、この場に議長様がいなければ、私は口を開き、権限を大いに活用していたことは認めます。
その必要もなくなったようですから、私は沈黙し、事態の成り行きを淑女として見守っているのです。
この口の重さ、少しでもお分かりいただけましたでしょうか?
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