第17話 やっと気付いてくださったようです

 他人の言動に口を出す気はありません。

 けれども、それは他人の言動に何も感じないということではないのです。


 このような場で憤る公爵様を見ておりますと、怒りや呆れを通り越して、恥ずかしさを覚えるようになりました。

 私はこの方と同じこの国の貴族であると思えばこそ。


「我らにも処分ですと!どういうことですか、殿下!それでは話が違いますぞ!」


 議長様はそれは冷たい目で、慌て始めた公爵様を見据えておりました。


「話とは何のことやら分からぬが。処分があって当然であろう。だがその処分も、今一度見直すことにした。この場を早々にまとめ、すぐに陛下へと進言しなければならないな」


 そこで議長様がはたと何かに気付かれたように、身を固められました。

 それを公爵様は期待いっぱいの瞳で見詰めておられます。


 この状況でまだ期待出来ること、それはもう公爵様の長所と言えるのかもしれません。



 されども公爵様の期待はさっぱりと裏切られ、議長様は私を見ますと、また柔らかく微笑まれたのです。


「これは申し訳ないことを。お手をお借りしたままでしたね」


 お気付きいただけて良かったと思いましたが。

 申し訳ないと言いながら、まだ離してくれないのは何故でしょうか?


 さらに公爵様が私をきつく睨んでいることも気になります。



 まさか、また私のせいにしているのですか?



 その公爵様の視線を私の視界へと入れることはないよ、とでも暗に伝えているように、すっかり声色を変えられた議長様は仰います。


「この場は落ち着かなくてなりませんね。ことを急くあまり、話に似つかわしくない場を選んだ私も悪かったのですが。結婚の件については、また後程改めて話すことにしてもよろしいでしょうか?」


 このように話し方をがらりと変えられますのも、やはり私の母、いいえ、どちらかというとその兄である伯父のためにされていることなのでしょう。


 すると先ほどの求婚の意味も読めるようになりました。

 このような議会の場でそうしたのも、沢山の証人が欲しかったということでしょう。


 ついつい肩から力を抜いてしまいまして、まだ手を離してくださいません議長様にはそれが伝わってしまったようです。


「勘違いしないでくださいね。あなたへの求婚はあの愚物……我が父から頼まれてのことではありません」


「……へ?」



 私としましたことが、うっかりとおかしな声を漏らしてしまいました。

 これでは公爵様に何も言うことが出来なくなります。


 議長様はじっと私を見詰めておりましたが、しばらくして手を離してくださいました。

 温もりが消えて急にひんやりと感じた右手をお腹の前へと戻した私は、そこに左手も重ねまして、固く決意しました。


 これからは何が起きましても、この場では淑女としてありましょう。

 えぇ、もう。一糸も乱れぬ笑みをこの場で浮かべ続けてみせますとも。




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