第15話 敵の敵が味方とは限りません
議長様はご丁寧にも、私の手を取ったまま私の横に立ち、まだ何も分かっていないご様子の公爵様に先のご発言の意味を説明いたします。
「公爵としての威厳さえ忘れたのであろう?そのうえ王子である私の前で、堂々と虚偽の発言をしたのだ。王家への謀反の意を疑って厳しく問い詰めてやってもいいが、今すぐ公爵位を譲るか、返上すると発言すれば、お前の先の発言に関してはそれで許してやらなくもない」
「は……いや、あの、殿下?そ、そうです。そんなことよりも。王女殿下の件は如何様に?」
そんなことと言える公爵様に心の中で拍手を送りました。
しかも今回ははっきりと王女殿下と言ってしまいましたね。
もしかすると実は分からない振りをした狸さんで、とても恐ろしい方なのかもしれません。
なんて想像してみましたのは、きっと私の希望によるところです。
私はこの国が好きですからね。
さて、そんなことよりもです。
公爵様の発言から推測すれば、やはり事前に議長様とはそのようなお話をされていたことが見えてきました。
そうしますとこの議長様、公爵様に対してはお腹が真っ黒な御方だったということになりますが。
もう少し距離を取っておきたい気持ちになりましたが、手が繋がれておりましたので、そっと横顔を眺めますに、ただただ美しいなという感想しかありません。
その美しいお顔立ちによく似合うよう整えられた艶のある御髪の真上には、あのような旋毛が乗っているかと思うと……。
私は顔を引き締めました。
ここで淑女の微笑みを崩しては、議長様と私の方が事前に話し合っていたと思われてしまうからです。
勘違いなどいくらさせてもよろしいのですが、勘違いの仕方によっては、不敬にもあの令息様と同じ立場に置かれてしまうかもしれず、それはとても不愉快だと考えました。
「あぁ、そうだったな。妹とあのくず……お前の息子の不始末について話し合う場であった」
議長様は完全に皆様に聴こえるようにして、その種の発言を重ねておられるようです。
けれども公爵様は、私のようにそれを聞き流しておりました。
きっと今度こそ、そんなことよりも大事なことがあったに違いありません。
「ま、まさか殿下は最初から我が息子一人の責にするおつもりで──」
公爵様は今にも議長様に掴みかかるのではないか、という雰囲気を醸し出しておりました。
もちろん雰囲気だけで実行することはありませんでしたが、その両目には強い恨みの念が見事に映し出されておりまして、昏い瞳で議長様を睨んでおられたのです。
けれどもそれで終わらなかったのは、さすがは恐ろしい公爵様だと言えるでしょう。
公爵様は急に顔つきを変えられますと、場違いにも高らかに笑い出したのです。
「ははは、殿下。ご冗談を。息子の不始末などを認めては、一体誰が悲しむかというものですよ」
公爵様にこそ、一体どなたを前にご発言なされているか、ご理解されておりますでしょうか?と問いたいものです。
にやにやと下卑た笑みを浮かべ、形成逆転とばかりに議長様へと視線の圧でさぁどうするのだと問い掛けているようですが。
どうにかなるのは間違いなくあなた様の方だと思いますよ、公爵様?
だって議長様の目が……。
横から拝見していても分かるほどに、視界に不快な虫を入れてしまったではないか、どうしてくれる?と語っておられましたから。
私は急いで考えをまとめようと試みます。
議長様の目的は、すべて王女殿下のために、ということなのでしょう。
確かに議長様、いいえ、王女殿下の兄上であられる王子殿下からすれば、あの公爵令息様を断罪したいところでございましょうし、その彼を放置してきた公爵様も同罪として考えておられるはずです。
何せもう令息様は王女殿下のお手付きのようでしたから。
お二人は想い合っておられるようでしたが、その現実は翻って、令息様が無理やりに手籠めにしたことにでもされるのはないかと。
思考していた私の隣で、議長様が「はっ」と鼻で笑うように息を吐きました。
そして仰います。
「誰が悲しむというのだ?」
それはどこまでも感情のない声色でした。
私の考えはたちまち霧散して一向にまとまりません。
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