第12話 議長様の言動を予測することは諦めましょう

 悪いようにはしないと言われたところで、議長様を信用することは出来ません。

 そんな私の気持ちを見透かしているかのように、議長様は仰います。


「今の謝罪はこの場に議長として立つ者として行いました。もちろん、これを受け入れるか否かの自由はあなたにありますし、拒絶を選ぶならそれで構いません。あなたがどんな回答をしようとも、私がこれを罰することはないことも誓います。またこの場で議題となっている問題について、代表して謝罪をしたわけでもございません。これから議題についての結論を導きますが、その際あなたの自由な発言を制限することも考えておりませんので、先の謝罪とは完全に切り離して考えて頂けると有難いのですが。これでご安心いただけるでしょうか?」


 議長様があまりに丁寧にご発言されましたので、私も裏を読まず、ひとまずは素直に受け入れることとしました。


「それでしたら、議長様の謝罪を有難く受け入れます」



 声を落とし、ひそひそと囁く声が聞こえてきます。

 ぎりぎり私に声が届くよう皆様調整されているのでしょう。



「偉そうに。あの娘は何様なのだ」


「当主でもないただの令嬢ごときが。なんたる無礼」


「まさか知識が足りていないのではないか」


「爵位を金で買うような男の娘だ。真面な教育を受けていないのだろう」



 父を悪く言われたことには少々むっとしましたけれど、淑女の微笑みは乱さずに済みました。

 というのも、先に議長様が動かれたからです。


 議長様はどうしてかまだ立ち上がることはなく。


「あのように言ってもなお、分からぬ貴族がいるようですね。どうやら彼らは私を議長としては認めたくないようです。私の力が及ばず、本当に申し訳ありません」


 そのように謝罪の言葉を述べられて、また頭を下げられたのです。



 私は思わず、淑女の微笑みを越えて微笑んでしまいました。

 この御方、本当に可愛らしい旋毛をしているのです。


 遠くから「こほん」と咳払いが聞こえましたね。

 音のした方を見上げましたら、ばっちりと父と目が合ってしまいました。


 いけませんでしたね。

 こんなときに旋毛に見惚れていては。



 議長様のお言葉によって周囲の囁き声は見事に静まり、それは皆様の呼吸が感じられるほどでした。

 その静まった空気の中で、議長様は顔を上げられますと、またしても私を見てにこりと微笑まれたのです。



「少しだけあなたの時間を頂いてよろしいでしょうか?」


 はい?

 

 議長様がまた突然に、突拍子のないご発言をされました。

 私の時間がどのように欲しいのでしょうか?

 その答えは問わずとも、すぐに議長様から示されます。


「至極個人的な話をする時間を頂きたいのです。まずはお尋ねしてもよろしいですか?」


「もちろんでございます」


 断ればよかったのかもしれませんが。

 この議長様が私に個人的に聞きたいことは何か、という興味に負けて、すぐに応じてしまいました。



 すると議長様は、跪かれたままに、私を見上げて今度は満面の笑みを見せられたのです。

 私に質問が出来ることがそれほど嬉しいのでしょうか?


 もしかすると王女殿下へ繋がる何かの答えを私の口から聞き出そうと──。



「あなたが先ほど言っておられた、『他人のすることに口を挟む信念は持ち得ていない』というのは、本当でしょうか?」


 え?それですか?


 私はしばしこの質問の答えがどのように王女殿下へと繋がっていくか、よくよく考えてみましたけれど。

 自身の発言を今さら訂正したところで意味はありませんし、そうしたくもないと思いましたので、すぐにお答えすることに決めました。



「えぇ。私に二言はございません」



 すると議長様は「素晴らしい」と呟かれたあとに、そっと手を伸ばされて、私の右手を取られたのです。

 流石に私もぎょっとしましたが、それを淑女の微笑みで隠します。


 ここまでは隠せていたと思いたいのですけれど──。



「では、ギルバリー侯爵令嬢殿。どうか私と結婚してください」



 はいいい???




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