第6話 敵陣に呼び出されていたようです
このようなが園遊会ありまして、ただいまの議会の場へと繋がっていくのですが。
あれから私の家には訪問者が尽きませんで、忙しく過ごしておりました。
王家は、バウゼン公爵家は、もう見限られたのか。
皆様の興味はそこに尽きるというものです。
先に父と私で、ご訪問された皆様が心から安心出来るよう配慮したことも良かったのでしょう。
何かあれば我が家に味方すると、皆様最後にはそう仰いまして、我が邸を後にされました。
ところで、この議会。
集まっている方々のお顔を今一度確認しますと、我が家をご訪問されたお家の方はどなたもいらっしゃらないようですね。
臨時の招集でしたから、お声を掛けていないのではないでしょうか。
なんとも分かりやすい皆様です。
この国の貴族にはあまねく議会の参加資格がありました。
さらに参加するか否かの選択権も与えられています。
とはいえ、地方に領地を構える貴族の皆様がそう易々と王都の議会に参加出来るはずもないでしょう?
そしてまた、王都に数多くいらっしゃいます領地を持たない貴族の皆様は、この国を支える重要なお仕事をされている方がほとんどで、言うならば他国では文官のように働いていらっしゃる方々でした。するとそう易々と仕事を休んで議会などに参加している暇はございません。
さらに騎士の中にも、褒賞として爵位を与えられ貴族となった方、あるいは元から貴族の子息として家から爵位をひとつ、ふたつと譲り受けている方もいらっしゃるわけですが。こちらも日々のお仕事を優先されますので、議会などに興味の薄い方がほとんどだと聞いています。
それでも皆様、御自身に関係ある議題が出ると分かっている際には、議会には参加されているそうなのですけれど。
それは定期的に開催されている通常の議会の話です。
本日のような、特別に招集を掛けた議会に参加される方は、まず当事者をおいて他にはありません。
ですから考えようによっては、先からこの場で野次を飛ばす……いえ、ご意見を好き勝手に述べられている皆様は、本件の関係者であるとも言えるのです。
誰の関係者か?ですって。
それはもうお分かりでしょう。
だって皆様が好き勝手に発言されている内容がこの通りなのですもの。
「口を出さないなどと、なんと冷たい娘だ」
「元々あのように冷ややかな態度を取っていたらしいぞ」
「それでは不貞をされても仕方あるまいな」
「あぁ。あの娘がすべて悪いと言えよう」
誰も彼もが、私が悪いという結論に導きたくて仕方がないという言葉を繰り返しておりました。
実はそうではなく、これが本心ということもあるのでしょうか?
でしたら、ご家族の皆様には憐憫を頂いてしまいますわね。
だってそうでしょう?
婚約者が不貞をして、その不貞相手から婚約破棄だと命じられた私を悪いと詰られているのですから。
つまりこの方々も、皆様ご結婚されていたはずですけれど、御自身が不貞をされた際には、奥様が悪いのだと仰るのではないかしら?
それで奥様のせいとして離縁されるのかしらね?
あら、あちらの方なんて。
そのような噂が囁かれていたことがございましたね。
なんでも邸の離れに愛人を住まわせて、ご自身もそちらで生活されているとか。
周囲には不出来な妻だから仕方がないのだと説明していると聞いたことがございます。
あくまで噂ですから、真実かどうかはさておき。
むしろ愛人共々本邸から追い出されたのは、あの方の方ではないかしら?
後継である令息様から、早く爵位を譲れと焚き付けられていることも耳にしたことがございます。
他のご子息様、ご息女様全員からも、顔を見たくないと言われているとか。
ふふふ。嫌だわ。
その鬱憤を、この場で私にぶつけることで晴らされているのではないかと思えてきますわね。
けれども噂を用いてそのお気持ちを察することは、辞めておきましょう。
なんて、呑気に考えごとをしておりましたら。
公爵様が顔を真っ赤にされていて、怒鳴るように発言なさります。
「つまり、貴様は婚約者である息子を蔑ろにし続けたということだな!」
改めて観察しますと、公爵様はあの令息様とそっくりなのですねぇ。
親子ですから当然なのですけれど。
話し方や表情の作り方までよく似ておりますわ。
そして本意が分からないところもそっくりでした。
えぇ、どういう流れでそのような結論に導かれたのか。私にはさっぱりと分からなかったのです。
確か私は、「他者のすることに口を挟む信念は持たない」と伝えただけだと思うのですが?
あれこれ考えておりましたから、余計なことを言ってしまったかしら?
「息子から、貴様が婚約した当時から酷い応対をしていたことは聞いている。言い逃れは出来ぬと思え!」
何を怒っていらっしゃるのか。本当に分かりませんわね。
どうしたものかしら。
困惑する私を余所に、公爵様はますます熱く語られました。
「よもや貴様は、はじめから婚約破棄を望み、動いていたのではあるまいか?息子を冷遇し、不貞せざるを得ぬ状況に追い込んだのもの、あえて不貞を知りながら放置していたのも、すべてはそのためだったのだろう!」
公爵様は勝ち誇った顔でそう言いました。
同じ顔を返したい気持ちでしたが、ぐっと堪えて、淑女の微笑みを浮かべます。
すると公爵様は、思わず私が笑いそうになることを言いました。
「なんとか言ったらどうだ!今度こそ、答えられぬが答えとして受け取るぞ!」
似たお顔をされた方から聞いた台詞と重なりまして、淑女の微笑みを維持することが大変でしたわ。
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