第4話 婚約破棄の命、謹んでお受けいたしますわ

 お二人の先を憂い、黙っておりましたら、公爵令息様に怒鳴れました。


「何を黙っている!なんとか言ったらどうだ!」


 ここで「なんとか」と返したら、激怒されるのでしょうね。

 騒ぎを大きくすれば、誰か別の、もっと話の分かる王家の方、あるいは黒幕の誰かが現れないかしら?と期待してしまうのですが。


 せっかくの園遊会の場を、これ以上乱してしまってはいけませんね。


 ですので、私は回りくどいことを止めて本心を言いました。



「私としましては、国外追放で構いません」



 淑女の仮面を張り付けたまま、そう伝えましたところ。



「は?」


「え?」



 公爵令息様と王女殿下は驚いた顔をして、しばらく口をあんぐりと開けて固まっておりました。

 お二人は本当に貴族と王族に身を置いていらっしゃるのかしら。



 あらあら。

 周囲の皆様の顔色まで悪くなったように感じますわね。


 あら?

 帰り支度を始めた方もいらっしゃるようだわ。


 急いで帰って、家の方に伝えねばというところでしょう。



「国外追放で構わないですって?」


「強がりだろう!そんなことを言って、あとで後悔しても知らないぞ!」


「強がりではございませんし、国外追放とされましても私としましては何の問題もございません。ご下命を賜りましたら、すぐにでもこの国から出ることをお約束いたします。いかがいたしましょう?」


 あえて問い返してみましたら。

 王女殿下は真っ赤な顔をしてこれを否定しました。


「私が慈悲を与えてやると言っているのよ!たかが侯爵令嬢のあなたが、王女である私の気持ちを拒絶すると言う気なの?」


 まぁ、凄い。

 侯爵という身分を、たかがと言い切りましたわ。


 この方は本当に王家の方なのでしょうか?


 主催でありながら、園遊会の招待客リストにも目を通していないのかしらね。


 それでも私を国外追放にしてしまったらまずいと分かる頭はお持ちのようです。

 それでどうして一貴族の婚約を破棄する命など出せたのかしら。


 何を考えていらっしゃるか、理解出来ない御人だわ。

 この王女殿下には聞いてみたいことが山ほどできましたわね。



 けれどもあまり刺激することも良くなさそうです。

 感情を隠せない方のようですから、ここで私があまりにつついてしまっては、この先何を言い出すかが読めません。

 不敬罪となって今日すぐに牢獄行きは勘弁して頂きたいものですからね。

 それはそれで、とっても面白いことになりそうですが……。


 こちらとしましても準備の時間は欲しいので、仕方がありません。


 それに裏で誰が動いているか。

 これが分からないうちは、今この場で私がお二人に乗じて騒ぐことが得策とは言えないでしょう。


 あとあと何に繋がっていくか、分かりませんものね。

 ここはおとなしくこの国らしい淑女になっておくことを選びます。



「とんでもございません。王女殿下のお気持ち、有難く受け取らせていただきます。ちなみに此度の件は、すべて王女殿下のご命令として受け取ってよろしいのですね?」


 あえて確認することで、お気付きになることも考えましたが……そうはなりませんでした。

 この方々の行く末を私がいくら憂えても、仕方がないようです。


 振り翳してしまった権力のその後始末、ご自身で対処していただきましょう。



「もちろん、私の命ですわ!もう今後はお金であなたの好きにはさせませんことよ!」


 王女殿下は躊躇いも見せずに、きっぱりと言い切りました。

 私はすぐに周囲を見渡します。


 皆さま、しっかり聞いておりましたわね?

 視線の意図を汲み取って、頷いて返してくださる方も何名かいらっしゃいました。


 覚えておきましょう。



「かしこまりました。慈悲深い王女殿下に感謝して、ご命令に従います。婚約破棄の件、承りました」



 私は淑女としてこの場で出来る限りの礼を示しましたわよ、王女殿下?

 ですからあとのことは知りません。






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