第3話

とある部屋

 佐原春乃と早見跳彦が通う県立浜風高校……の、とある一室。

 40人クラスの教室の半分ほどのこじんまりとした部屋の窓は、全て黒いカーテンで閉じられ、薄暗い。


 部屋の奥、高級感のある革椅子に、1人の細身の男がふんぞり返って座っている。

髪はきっちりした七三分け。不気味に光る銀縁メガネ。男は、メガネの奥から鋭い眼光をのぞかせ、手元のスマホ画面に集中している。


「こい……こい……棒……こい……」


 男は、先週インストールしたテトリスのアプリに夢中だった。

 男はどちらかというと、こつこつと1,2本ずつ消していくよりも、あえて一番端のラインだけ空けてブロックをためていき、棒が来たら一気にそこに入れてまとめて消すことに快感を覚えるタイプだった。


 ひたすら棒が来るのを待つ男の両脇には、無表情で直立した男が2人、ボディガードのようにどっしりと構えている。右側の男は赤、左側は”緑色”のハチマキをしている。どちらも高身長で体格が良く、白衣にサングラス、という奇妙な格好だった。


ガララ!

 と部屋のドアが勢いよく開き、1人の男が慌てた様子で入ってきた。この男も、白衣を纏い、目にはサングラス。額には“黄色”のハチマキをしている。そして、両すねが真っ赤に腫れていて、よほど痛いのか、体を少しかがませ、両手で両すねを優しくさすっている。


「ご報告いたします!ブルーがやられました!」


 黄色ハチマキ男がそう言うと、部屋の奥でふてぶてしく座っていた銀縁メガネ男が、ぴくりと反応し、テトリスのプレイ画面から視線を上げる。

「ブルーが……?」


「はい、私がここへ戻る途中、……1階の廊下で、生気を失っているのを確認しました」


「生気を失った?……返り討ちにされたということか?」

「はい、おそらく」

「ふん……面白い。まだ生徒の中に生き延びている奴がいるとはな……ンフフフ」


銀縁メガネ男は、不敵に笑う。


「というかイエローよ、お前……そのすね、どうしたんだ、めちゃくちゃ痛そうじゃないか」


「あ、いやちょっとその……私も“残党狩り”の途中で返り討ちにあってしまいまして……ブルーをやったのも、きっと同じやつです」

さすさすと手ですねをさすりながら、黄色ハチマキの男が申し訳なさそうに答えた。


「どんなヤツだ、そいつは」

「竹刀を持った……女子でした。油断して……とらえ損ねてしまいました。」

「竹刀?女子?」


銀縁メガネの男は、少し驚き、そして何かに気づいたように、不敵に笑った。


「ンフフフ、面白い。そうやすやすと全滅してはくれんか…いいだろう、そろそろこの計画の首謀者である私も……直々に動くとしよう。ちょこまかと逃げ回っている残党なぞ一掃してやるわ……!そう、このテトリスのブロックのようになぁ!!ンフフフフ……ん?」


 銀縁メガネ男が高笑いをしながらスマホに視線を戻すと、画面の4分の1くらいまで、綺麗に平行に並べていたブロックの上に、縦に5,6個、L型やら凸型のブロックが終盤のジェンガのように不格好に積みあがり、もう画面の一番上へとぶつかる寸前スレスレだった。


「え、あ、話してるときに止めとくの忘れて…これ、あ…ちょ……」

たじろぐ男をよそに、デデ―――ンと冷たい電子音が鳴り、「GAME OVER」の文字が画面に浮かび上がる。


呆然とする銀縁メガネ男を、横にいた2人の白衣グラサン男が気の毒そうに見つめる。

「あ、中断ボタン押し忘れてる……って言えばよかったですよね……すみません」


男は、無言のまま、数秒間天を仰ぎ、言った。

「そうやすやすと全滅してはくれんか…いいだろう、そろそろこの計画の首謀者である私も……直々に動くとしよう。ちょこまかと逃げ回っている残党なぞ一掃してやるわ!!!」


「えっと……なんでもう一回言ったんすか?」

デジャブかな、と一瞬錯覚した黄色ハチマキ男の問いに、銀縁眼鏡は答える。

「いやなんか、気合入れなおそうと思って」


 「計画の首謀者」……と自らを称した銀縁メガネは、すくっと、革椅子から立ち上がり、白衣グラサン男たちを引き連れて部屋を出て、どこかへと向かった。


(第3話 とある部屋 おわり)



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