初恋〜復讐〜

緑のキツネ

第1話 初恋〜復讐〜

「誕生日おめでとう。圭」


7月2日、今日は私の息子の圭の誕生日だ。

私はずっとこの日を楽しみにしていた。

ケーキを食べれるのはこの日しかないからだ。

まあそんな事を圭に言ったら

絶対に笑われると思うけど……。

私ももうすぐ30歳。

昔は1年に5回ぐらいは

ケーキを食べていたのに……。

結婚して圭を産んでから

一気にケーキを食べなくなった。

圭はあっという間に成長して

もう今日で5歳になる。

子供の成長って早いんだな……。

そう感心しながらケーキを机の上に準備した。

ろうそくを5本立てた。


「さあ、始めよう」


「ママ、パパはどこにいるの?」


そういえばそうだ。

私はケーキで頭が一杯だった。

春樹は……。

カレンダーで残業かどうかを確認した。


「今日は……残業無いね」


「パパ、遅くない?」


「大丈夫よ。すぐ帰ってくるから待っとこう」


「うん」


それから2時間が経った。

ケーキの上に乗っていた

チョコレートが溶け始めた。

プルルル プルルル


「ママ、電話!!」


私はスマホを取り出した。

そこには知らない番号が羅列していた。


「もしもし……」


「もしもし、真中結衣さんですか?」


「はい、そうですけど……」


「旦那さんが交通事故に遭いました」


「え……」


突然の事で私はスマホを地面に

落としてしまった。


春樹……。


私は地面に落ちたスマホを取って

本当かどうか確認しようとした。


「本当なんですか?」


「はい……」


「今の様子は?」


「今は……眠ってます。息はまだあるようです」


息がまだある。その言葉が私を助けてくれた。


「すぐに向かいます」


病院の場所を教えてもらい、

圭を連れて急いで病院へ向かった。

もう22時を回っていて多くの家が

暗くなっていく。

圭も後部座席で寝ていた。


「待っててね。春樹」


それから30分経ってようやく辿り着いた。

少し迷子にもなったけど……。

圭を抱っこして病院の中へ入った。


「すいません。真中春樹はどこですか?」


「ちょっと待ってください。今、調べます」


看護師さんがファイルを見て調べ始めた。

早く会いたい。早く会いたい……。


「205室にいます」


「ありがとうございます」


私たちは急いで205室に向かった。

ドアを開けると春樹が眠っていた。


「春樹……大丈夫?」


「先程、亡くなりました」


私は絶望した。


「最後にこんなことを言ってましたよ」


『僕は結衣のことが大好きだよ……』


その言葉が頭の中で再生された瞬間、

私は膝から崩れ落ちた。

何で……誰が……。こんな事を……。


「誰が春樹を……」


「すいませんでした」


目の前に私と同い年ぐらいの男が立っていた。


「私の注意不足で……すいませんでした」


気がつくと私は男の顔を数発殴っていた。


「返してよ!!春樹を……」


「すいませんでした……」


どこかで見た事があるような気もしたが、

そんな事は関係無かった……。


「少し席を外させてもらいます」


男は部屋を出て行った。

これから私はどう生きたら良いの?

それから30分、病室で泣き叫んだ。

何とか正気を取り戻して家に帰ることにした。

圭が知ったらどうしよう……。

家に帰り、春樹の部屋に初めて入った。

机の上にノートがあった。

そこには『日記』と書かれていた。

私は日記を読み始めた。

2008年4月1日から始まっていた。

私と春樹が初めて出会った日だ。





2008年4月1日

今日は入学式だった。

俺の高校生活の始まりだ。

高校生といえばやっぱり青春だよな……。

彼女を作って思いっきり遊んで楽しむぞ。

勉強も頑張らないとな……。

そんな日に俺は早速

一目惚れをした相手がいる。

違うクラスの中尾結衣だ。


4月2日

俺は初めて結衣に声をかけた。

声が震えているのが自分でも分かっていた。

メアドも交換してくれた。

家に帰ってメアドを登録して会話を始めた。

まだ緊張するわ。


そこから空白が続いた。


4月10日

俺に恋のライバルが現れた。

あいつは入学式の日に結衣とメアドを

交換したらしい。

俺よりも頭も良いし運動神経も良い。

でも負けたくない……。


そこから空白がずっと続いた。


7月16日

将来の夢について先生から話があった。

あいつはサラリーマンになるとか言っていた。

サラリーマンなんて誰でもなれるわ……。

もっと大きな夢を持たないと。

俺は『世界一周するんだ!!』

そう先生に言うと鼻で笑われた。

『それは夢ではない。それは願望だ』

夢も願望も同じじゃねーかよ……。


7月16日

あいつが突然、

期末の点数で勝負しようと言ってきた。

あいつとは学年が1つ違うのに

どうやってやるんだよ?

そう聞いたらあいつは笑いながら、

『良いだろ?合計点で勝負だ。

勝ったら結衣とデートできるとかどう?

結衣もこの勝負に賛成してるし……』

そして、俺はこの対決に乗ってしまった。

俺とあいつ、学年は違うけど、

学力には天と地ぐらい差がある。

勝てるはずがないのに……。


また空白があり、


7月25日

ついに期末のテストが返ってきた。

国語は45点、あいつは85点。

数学は35点、あいつは95点。

英語は25点、あいつは98点。

世界史Bは95点、あいつの世界史Aは96点。

生物基礎は5点、あいつは50点。

もう何一つ勝ててない。

俺の方が年上なのに……。

俺の得意教科の世界史ですら負けてしまった。

『結衣は僕のものだね』

そう言って教室を出て行った。

僕は悔しかった。絶対に見返してやる。

この日から俺はガチで勉強を始めた。

あいつに勝って結衣と付き合うために……。


7月27日

結衣と公園で出会った。

結衣は何故だか泣いていた。

『大丈夫?』

声をかけてハンカチを渡すと

結衣は『ありがとう』と言って涙を拭いた。

この時、俺は改めて思った。かわいいなと。

結衣と結婚したい……。結衣が大好きだ。

『何で泣いてたの?』

『ちょっとデート中に喧嘩して……』

『あいつ……』

結衣を泣かしやがって……。許さないぞ……。

喧嘩した理由を探り始めた。


8月2日

あいつと結衣が喧嘩した理由、それは

結婚した時に子供を作るかどうかだった。

そんな先を見越して喧嘩していたなんて……。

あいつの意見は『2人でずっと過ごしたい』で

結衣の意見が『子供を育ててみたい』という

意見の食い違いで喧嘩になったらしい。

なんでそんな結婚まで見てるんだよ……。

まだ高校生なのに……。

高校生から結婚まで続く

カップルは3割もいない。

俺にはもう無理なのか……。

いや、まだ逆転できる……。


10月6日

明日の体育祭の

100M走であいつと当たることになった。

結衣は『私は正直どっちでも良い。

どちらか決まったら告白しに来てね』

と言ってくれた。

そうと決まれば、対決にも熱が出る。

『明日の100Mで勝った方がデートでどうだ?』

あいつはまた俺に挑戦してきた。

絶対あいつに勝ってやる!!

そして、初デートするんだ。

俺は帰ってすぐに外で走った。


10月12日

100M走の結果、俺が1位であいつが2位だった。

ついに俺があいつに勝ったぞ!!

俺は結衣の元に行き、デートの約束をした。

10月18日が俺と結衣との初デートが決まった。

嬉し過ぎて寝れそうに無いわ。


10月18日

運命の初デートの日。

俺は公園で待ち合わせをした。

少し遅れてしまったけど

結衣は笑顔で待っていた。

結衣にリップを渡した。

女は化粧品を渡しとけば

喜ぶとお父さんが言っていた。

だからリップを買ってきた。

結衣は笑いながら

『ありがとう』と言ってくれた。

その後、水族館に2人で行った。

それから先は何も覚えていない。

ただ楽しかったのだけは覚えている。

帰り際に俺が『世界一周しようぜ』

そう言うと結衣は笑いながら

『私も付いていくわ。どこへでも』

と言ってくれた。

『絶対に行こうな』

『うん』

『約束だよ』

『分かった』

俺と結衣は約束した。

必ず世界一周を2人でする。


11月10日

期末テスト2週間前になった。

あいつが真剣な顔で俺に近づいてきた。

『これで最後にしよう。

期末で負けたら結衣を諦めろ』

俺とあいつの最終決戦が始まる。

期末は合計点数ではなく

勝った教科の数で決まる。

夏休みからずっと勉強を頑張った。

その成果を見せつけてやる。


12月1日

期末テストが返ってきた。

国語は俺が75点、あいつが80点 0対1

数学は俺が80点、あいつが75点 1対1

あいつに初めて勝った。

英語は俺が50点、あいつが90点 1対2

生物は俺が35点、あいつが34点 2対2

ここまで互角に戦えている。

最後は俺の得意教科の世界史だ。

世界史なら勝てるぞ……。

世界史は俺が95点、あいつが……96点

こんだけ頑張っても努力は報われなかった。

『結衣はもう諦めろよ。僕が付き合うから』


2009年 2月14日

結衣からチョコをもらった。

俺は嬉しくて嬉しくて泣きそうだった。

箱を開けてみるとそこには

義理チョコと書かれていた。

手紙が隣にあった。

そこには『私はあなたの事が嫌いです。

もう勝負は付いてます。

あなたに勝ち目はありません』

ここで初めて俺は振られたと認識した。

期末が終わっても俺はどこかで

可能性があると思っていた。

でももう無かった。もう俺には……。

あの日の約束は……。

1人で世界一周なんて……無理だ……。


そこからずっと空白が続いた。

最後のページまで何も書かれていなかった。


2022年 6月30日

あの日から俺とあいつは何も話さなかった。

同じ部屋にいても話す事は無かった。

あいつは高校を卒業して上京した。

そして、今日あいつと再会した。

何を話していいか分からなかった。

『久しぶり……』

それだけ言って俺はこの場を離れた。

俺は……ずっと独身……。


2022年 7月1日

あいつとまた出会った。

あいつは『ごめん……』と謝りにきた。

その言葉を聞いた瞬間、

忘れていたはずの記憶が蘇った。

俺の初恋は……結衣。

結衣をあいつが奪ったんだ。

許さない……。もう俺は俺では無かった。

変わり果てた俺だった。

あいつに勝ちたかった。

あいつに勝つために勉強を頑張ったのに……。

全てあいつに奪われた。

夢も希望も初恋も……。

あいつを殺してやる……。真中春樹……。


表紙には名前が書かれていた。


真中祐希


テレビからニュースが聞こえてきた。


「先程、病院の屋上から飛び降りて

真中祐希29歳が自殺しました」


私は日記を破り捨てて、叫んだ。

近所迷惑とかそんな事は考えられなかった。

深夜の中、声だけが響き渡った。

どこまでも遠くに。

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初恋〜復讐〜 緑のキツネ @midori-myfriend

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