第90話 少しずつ進む調査
探索を再開して、しばらく歩いていると、毒溜まりでは無く綺麗な湖を発見した。
「あれ? 毒溜まりじゃなかったでしたっけ?」
「ん。報告だとそう。でも、どう見ても、綺麗な湖」
アルビオ殿下の部下の方々が、湖の近くまで行って、調べ始めた。
「殿下! 毒溜まりが無害化しています!」
「そうか。これも、アイリスの『グロウ・サンシャイン』の効果なのか?」
「え~っと、そうなんでしょうか? 私は瘴気を無効化するとしか聞いたことないですけど」
私がお母さんに聞いたのは、瘴気を無効化するまでで、毒溜まりなども無害化するとは聞いていない。お母さんが伝えていないだけで、そういう能力もあるのかもしれない。
「そういう能力か、あるいは瘴気を元から浄化してるのかもしれないな」
「毒溜まりを瘴気の元として浄化しているって事ですね。それなら、お母さんが言っていた事に繋がっていますし、その通りだと思います」
つまり、私の『グロウ・サンシャイン』は、瘴気を元から浄化させる効果を持つという事だろう。【剣姫】を保有していたお母さんが亡くなっているので、
他の保有者がいれば別だけど、スルーニアに私以外の保有者がいるという話は聞いたことがない。だから、確かめようがなかった。
だから、分からないものは少しずつ確かめていく必要がある。お母さんが生きていれば良かったんだけど。
「ここの特性は、アイリスがいたら全く気にならないものだね。アイリスがいてくれて良かったよ」
「ふふん。もっと感謝してくれても良いんだよ」
サリアが褒めてくれるから、胸を張ってそう言ってあげたら、ドヤ顔にむかついたのかサリアのどつきが脇腹に刺さった。
「うぐっ……」
「全く……調子に乗らないの。キティさん達といるときは、そんなじゃないでしょ?」
「サリアが相手だからじゃん……」
やっぱり、幼馴染みのサリアとリリアさんやキティさんでは、私の態度というかノリは変わってくる。別に、リリアさんやキティさんが嫌いだからとかではない。
だから、キティさんもそんな悲しそうな目で見ないで欲しい。
「あんた達、何か修羅場みたいになっているわよ?」
そんな私達の様子を見ていたマインさんが半目になりながら、そう言った。
「別に、修羅場ではないですよ。マインさん達も中央に来ていたんですね?」
さっきまで別行動だったけど、マインさんとミリーさんも私達と同じ中央までやって来ていた。
「あんたを守るためよ」
「アイリスさんを中心に、守りの陣形を取ることになりましたから、遠距離攻撃をする魔法職と回復職が周りに集まることになったんですよ。サリアさんは、もしもの時のために、一応傍にいるという感じですね」
「なるほど。
サリアが傍にいた理由は、『グロウ・サンシャイン』を使っている状態では
私を守るためなら、結構完璧な陣形かもしれない。
「よし! 先に進むぞ! 出来る限り先の方まで向かう!」
『はっ!』
湖の調査を終えたところで、私達は移動を再開した。そして、一時間程探索を続けると、下り階段を見つける事が出来た。
その間にも、何度か戦闘が起こった。森の暗がりに溶け込む黒い体毛をした魔物達だったけど、私が常に『グロウ・サンシャイン』を使っているせいで、丸見えになっていた。おかげで、遠距離攻撃によって、ほとんどの魔物が倒される事になった。
「完全にアイリスの
「まさか、ここまで刺さるとは思わなかったけどね」
「ん。でも、浄化持ちと光魔法を使える人がいれば、同じ事が出来る。さすがに、アイリスのような広範囲とはいかないけど」
キティさんの言うとおり、このダンジョンの攻略には必ずしも私の力が必要なわけじゃない。私のように広範囲を浄化しつつ照らすことは難しいかもだけど、ミリーさんのような浄化が出来る人と光魔法を使える人が組み合わされば、真似は出来る。
「浄化の範囲をもう少し広げられると良いんですけど……」
ミリーさんが肩を落として落ち込む。自分がもう少し範囲の広い浄化を使えれば、私に負担を集中させる事にならなかったと思っているのだと思う。
「やっぱり、浄化魔法は難しいんですか?」
私自身に魔法の才能がないので、習得などがどのくらい大変かは分からない。ましてや、使うのがどのくらい難しいかなんて見当も付かなかった。
「難しいですね。冒険者の中で使える者は、かなり限られています。私は、教会出身なので使えますけどね」
「え!? そうだったんですか!?」
まさかの事実に驚きを禁じ得ない。これには、私だけでなくキティさんとサリアも驚いていた。
「じゃあ、呪いとかについても知っているんですか!?」
元教会関係者という事で、呪いについても私達より深く知っているのではと思いそう訊いた。
すると、ミリーさんが首を横に振った。
「私は下っ端でしたので、呪いに関しては関わっていません。私が出来るのは、瘴気の浄化くらいなものです」
「そうでしたか……」
思わぬところで、呪いに関する新たな情報を手に入れられるかと思ったけど、そこまで都合の良い展開はなかった。
私達は、そんな話をしつつ先へと進んでいく。そして、次の階層を三時間程探索して、下り階段と安全部屋を発見する事が出来た。
私が使っている『グロウ・サンシャイン』の効果が切れる頃合いになってきたので、一度安全部屋で休む事になった。
「安全部屋まで来ましたけど、本当に『グロウ・サンシャイン』を解いて大丈夫ですか?」
ここで
「今までのダンジョンでは、安全部屋まで瘴気などが発生する事はなかったと聞いている。正直、ここも同じとは限らないが、恐らく大丈夫だろう」
「分かりました」
私は、『グロウ・サンシャイン』を解く。すると、辺りを照らし、浄化していた光が消え去った。そして、元々の暗い雰囲気が戻ってきた。それは、闇が私達に襲い掛かってくるかのような圧迫感を内包していた。
「……精神衛生のためにも、あった方が良いな」
アルビオ殿下も同じ事を思ったのか、周囲を見回しながらそう言った。
「休んだら、また使いますか?」
「いや、さすがに、こんな事のために使わないで良い。また、探索を再開させる時まで、取っておけ」
「分かりました」
アルビオ殿下との話を終えた私は、テントを設営しているキティさんのところに移動する。
キティさんは、既にテントを張り終えていた。そして、ご飯を作るために焚き火を熾していた。
「お疲れ。ご飯にする?」
「ご飯にします」
「ん」
キティさんは手早く鍋を火に掛けて、スープを作り始める。その間に、私は干し肉を囓っていた。
「キティさんの家事力って、こういうので身に付けたんですか?」
「……ん。多分そう」
キティさんは少しだけ考えてからそう答えた。どうだったか思い出していたんだと思う。
「やっぱり、やらなきゃいけない状況で生活していると、自然に身に付ける事になりますよね」
「ん。一人暮らしをしていたのも大きい」
私は両親が亡くなってからの生活で、キティさんは戦闘職員としての仕事の中で、それぞれの家事力を付けていった。こういう点では、私とキティさんは似ていないでもない。
「私、キティさんの作るスープ好きですよ」
「ん。嬉しい」
私達は、食事を済ませた後、テントの中に入っていった。見張りなどは、アルビオ殿下の部下の方々が交代で行ってくれるので、私達はゆっくりと長く休める。
それに、私は今回の探索で重要な役割を担っているので、しっかりと休むのも大事だ。
私は『グロウ・サンシャイン』で、大きく魔力を消費したので、すぐに眠りについた。当然、キティさんも一緒に眠った。
新階層の調査は、まだ始まったばかりだ。
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