第53話 上層を目指して……
上層を目指して、探索を進めていたけど、最初に見つけたのは、まさかの下り階段だった。
「下じゃ無くて、上に行きたいんだけどなぁ」
ちょっと覗いてみようかとも思ったけど、キティさん達と合流する事を最優先にしないと、私も危ないので、メモだけして引き返す。ここまでの地図は、かなり大きなものになっていた。いくつもの分岐があったけど、まだ、その全てに行けたわけじゃない。ライネルさんの言っていたとおり、末広がりになっているということを実感する。それに他の問題も存在した。
「結局、まだ食糧も取れてないし。これからは、ポーチに食糧を入れておこう。後の問題は……さっきのヤバそうな魔物かな」
ここに来るまで、多くのサハギンを倒してきたけど、途中で、今までのサハギンと全く違う姿のサハギンがいた。全身を鎧で包んだ一回り大きなサハギンだった。それを見た瞬間、ゴブリンキングと相対したような感覚に襲われた。つまり、ゴブリンキングと同じくらいあるいは、それ以上の強さを持っている可能性が高いということだ。多分、あれが、サハギンの上位種だと思う。
「ここじゃないとなると、前の分岐に戻る感じかな。ここまで、罠はなかったけど、油断しないようにしないと」
段々と、一人でこなしていくのにも慣れてきたけど、ここで油断しちゃダメだ。慣れた頃が、一番油断して失敗する可能性が高くなってくるから。慣れてきた今だからこそ、一つ一つの事を、しっかりと慎重にこなしていかないといけない。
「!!」
引き返している途中で、私の歩みが止まる。それは、目の前から、あの上位種のサハギンが向かってきていたからだ。ここは一本道なので、隠れる場所もない。私を追ってきたというよりも、偶々ここに来たという感じだろう。
「気付かれた!」
私に気が付いたサハギンの上位種が、三つ叉の槍を構える。その槍も、よく見れば普通のサハギンが持っている槍よりも上質なものだということが分かった。まともに戦って勝てないことはないだろうけど、確実に消耗させられてしまう。それも、ゴブリンキングと同じくらいに。
「ここは……逃げる!」
私は、下り階段に向かって、走っていった。キティさん達から離れることになるけど仕方ない。あいつとの戦闘は避けないと。あいつの気配は、なんとなく感覚で分かる気がした。私の事を追ってきている。速度的には、私の方が速いので、距離を離して、階層を下がる事が出来た。
「はぁ……はぁ……」
階段を降りた私は、階段から少し離れて、様子を確認する。あの階層特有の魔物なら、階層を跨いでの追跡はしてこないはずだ。追い掛けてこないように祈っていると、サハギンの上位種は階層を降りて、私を追ってきた。
「階層無視の魔物か!!」
私は、すぐに後ろを振り返って、駆けだした。私の方が速いのは、さっき分かったので、これで引き離すことが出来る。これで引き離して、相手の警戒範囲から脱する。その後に、あいつを避けて、上に上がればいい。
駆け抜けている途中に、サハギンの群れが現れた。その数は、これまでと同様に数十体いる。まだ、上位種の方が追ってきているので、止まることは出来ない。
「『グロウ・ピアース』!!」
仕方なしに、
「あいつの通路を作ることにもなるけど、仕方ない」
通路を駆け抜けていく。十字路を右へ左へと曲がっていく。逃げるのは、順調に進んでいった。このまま行けば、上位種から逃げ切る事も出来るはずだった。
「やばっ!」
通路の途中で、また落とし穴に引っかかってしまった。【疾風】を使っていたから、落ちる前に穴の縁に脚を掛ける事が出来たけど、バランスが崩れる。身体を丸めて、前転する事によって、どうにか頭をぶつけないで済んだ。けど、それ以上に不味い事態になった。
「くっ!」
その間に、距離を詰めてきたサハギンの上位種が、槍を構えて飛びかかってきた。すぐに雪白を振って、槍の攻撃を防ぐ。サハギンの上位種は、歯を剥き出して、威嚇してきた。
「戦うしかない……!!」
上位種の執着心は、かなり高い。それに、ここで追いつかれてしまったから、このまま逃げようとしても、逃げ切る事が出来ない可能性が高くなった。だから、戦うしか選択肢がない。私は、さっきのサハギンの群れに使った時と同じように、風を吹き荒れさせる。上位種は、その風の中でも踏ん張っていたけど、槍を突き刺す強さが段々と弱くなっていくのを感じた。
「やぁっ!!」
力を込めて、槍を弾き返す。風と私の力によって、上位種は、距離を取らざるを得なくなる。
「マイラさんのおかげで、何とか戦えてるかな」
体勢を立て直した私は、すぐに雪白を構える。向こうもすぐに槍を構え直した。私と上位種の戦いが始まる。そう思っていた。
「あっ……」
上位種との間合いを測ろうとして、少し脚を横にずらすと、本日三回目の落とし穴に引っかかった。最初と同じく、【疾風】を纏っていたわけじゃないので、落とし穴から抜け出すなんてことも出来ない。
「嘘でしょおおおおおおお!?」
私は、今回二回目の落下に、そう叫ばざるを得なかった。また、穴の中を落ちていく。そして、今回も同じく、穴はすぐに塞がっていった。
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