第38話 独白
私が眼を覚ましてから、一週間の時が流れた。ようやく脚が動くようになってきたので、機能回復訓練と共に、動き回る許可が下りた。ようやくスキルの
「はぁ……」
「どうしたの?」
今日は、サリアがお見舞いに来ていた。依頼で出ずっぱりになっていたみたいで、久しぶりに会った。
「まだ、スキルを使いこなせてないんだよね」
「そりゃ、そんな上位スキルを、その年齢で使いこなせるわけないでしょ」
「そうだけどさ。こう、二回とも入院することになると、もう少し真面目に特訓しておけば良かったよ……」
学校では、スキルを使いこなすための授業が存在する。私も、自分のスキルを使いこなすために、その授業を取っていたんだけど、あまり気乗りしなかったので、軽く流していた。
「元々、こんな激しい戦闘なんてする予定じゃなかったでしょ?」
「そりゃあね。お給料に目が眩んだ」
「いや、激しい戦闘云々は、給料関係ないでしょ? それと、一つ聞きたいんだけど、不眠症再発したの?」
私は、ギクッと肩を揺らす。今の私の眼には、濃い隈が出ている。もしかしたら、あの時の戦いで、悪夢を乗り越えた可能性があるのではと思っていたんだけど、入院をしてから、また眠れなくなった。一週間前に、悪夢が治っていないかもって思ったのがまずかったのかな。
「リリアさんと一緒に寝ると、見なくなるんでしょ? 一緒に寝てもらったら?」
「病室じゃ、きちんと休めないし。朝ご飯とか色々な問題があるから」
「リリアさんの性格だと、それでも泊まりそうだけど?」
「私が、頑なにダメって言ったら、引き下がってくれたよ」
サリアの言うとおり、リリアさんは、私の不眠症に気が付いて、一緒に寝てくれると言ってくれた。ここからだと、一旦家に帰って朝ご飯を食べるなどすると、時間が掛かりすぎる。それだと、リリアさんの仕事の邪魔になってしまうので、全力で断った。私はリリアさんを、リリアさんは私の事を思って、互いに言い合いになり、私が打ち勝ったのだ。
「薬でどうにかなってるの?」
「微妙……夢の中にキティさんは出なくなったんだけど、別の何かが出てくるんだよね……」
「別の何か?」
私が見る悪夢は、キティさんが絶対に言わないことを言って首を絞めてくるというものだった。でも、最近の悪夢は、キティさんではないドロドロとした何かが、首を絞めてくるのだ。キティさんの時とは、別の恐怖で眠れなくなってしまった。
「よく分からないんだよ。アンジュさんも分からないらしいし。ただ、キティさんではなくなったのは、キティさんが起きること知ったからかもしれないみたい」
「ふ~ん、よく分からないね。何かの
「私を呪う意味なんてないでしょ? そもそも呪われた覚えもないし」
「一応、検査受けといたら? 運が良ければ、解呪まで出来るかもだし」
サリアにそう言われて、少し迷う。呪いの検査だけは、病院では出来ない。街にある教会で受ける必要がある。ただ、料金がかなり高い。私の給料でも三ヶ月分くらいする。
「う~ん、お金が貯まるまでは、無理だと思う」
「基本的に教会は、ぼったくりだからね。病院でも受けられるようになればいいのに」
「無理でしょ。呪いに関する利権がなくなったら、教会の収益が寄付しかなくなるし。まぁ、呪いって確定したわけでもないし、その内、治ると思うよ」
ちょっと楽観的すぎるかもしれないけど、あまり深く考え込みすぎると、悪化しそうだからこのくらいが丁度いいと思ってる。そのせいで、私よりも私の周りの方が、深刻に考えている。私が疲弊していく姿を見ているからかもしれないけど。
「じゃあ、私は依頼を受けに行くから」
「うん。いってらっしゃい」
「リリアさんに心配掛けないようにね」
「え? あ、うん」
サリアは、手を振ってから病室を出て行った。急にリリアさんの名前が出てきたから、驚いてしまった。時計を見てみると、リリアさんがお見舞いに来る時間まで、まだ あるので、病室から出てキティさんのところに向かう。
目覚めの兆候が見えてから、キティさんは、通常の病室に移った。それでも点滴の管は、腕に繋がれているが、自分の力で生命維持が出来るようになっただけでも、大きな一歩だった。
「こんにちは、キティさん。ここに移ったって聞いて、来ちゃいました」
話しかけるけど、キティさんからの返事はない。目を閉じたまま静かに寝息を立てている。
「今日は、サリアがお見舞いに来てくれました。幼馴染みだからか、何の遠慮も無しに色々と話してしまうんですよね。でも、私の事を考えてくれるリリアさんにも、ちゃんと話したいんですよね」
これは、本音だ。サリアは、昔から仲良くしてたから、ちょっとした愚痴でもさらっと話せたりするけど、リリアさんには、まだ変な遠慮がある。一緒に住んでくれて、私の事も考えてくれているので、これ以上迷惑を掛けたらダメなんじゃないかと思うのだ。
「もっと、我が儘になった方がいいんでしょうか……? でも、ただでさえ、一緒に寝てもらってるのに、これ以上、迷惑は掛けられないですよね」
目覚めの兆候が見えたキティさんだけど、まだ完全に意識が覚醒していない。こうして、話をしているけど、キティさんは反応を示してくれないのだ。アンジュさんは、話しかけて反応を促して欲しいって言ってたから、これからも話しかけなきゃ。それに、手に届くところにキティさんがいるという現実が、私の心を少し楽にしてくれる。
私は、キティさんの手に自分の手を軽く重ねる。
「キティさんとも、色々話したいことがあるんです。私の身の回りの事や、キティさんの事、他にも他愛のない事とか……ずっと、待っていますから……」
私がそう言うと、キティさんの指がピクッと動いた。
「!!」
私は、すぐに立ち上がって、キティさんの顔を覗きこむ。すると、キティさんの瞼が少し痙攣する。まるで、瞬きをするように。
私は、ここが病院だということも忘れて、すぐにアンジュさんを呼びに走った。
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