第29話 避難指示
スタンピードの対応に追われるギルド職員達。そんな中、私とリリアさんは、街の人達に避難指示をしに向かっていた。
「スタンピードが発生しました。貴重品だけをまとめて、隣町に避難する事になります。準備ができ次第、中央広場に集合して下さい」
「わ、分かりました!」
一軒一軒回らないといけないから、リリアさんとは別行動。さらに、他の職員も分担して、街を駆け回っている。
「これで、半分……急がないと!」
スタンピードが発生した場合、どのタイミングで魔物達があふれ出てくるか分からない。今回のスタンピードは、前代未聞の同時多発。ほぼ確実に街が巻き込まれる事になると予想が出された。結果、ガルシアさんの判断で、避難指示が出されることになった。
今から避難となると、夜の時間帯に移動することになるけど、仕方のない事だった。先に職員の一人が、近くの街にあるギルドに応援を呼びに行っている。それには、スタンピードの対応もそうだが、避難民の誘導も含まれている。
急いで次の家に向かい、扉をノック。事情を説明し、避難準備をしてもらう。中には、中々納得しない人もいたけど、何度も根気よく説明して、聞き入ってもらった。そうして、最後の家に辿りついた。
「すみません。いらっしゃいますか?」
扉をノックして呼び掛けると、少し時間を置いてから扉が開けられた。
「は、はい……」
中から出てきた人は具合が悪そうな女性だった。扉を開けるだけでも一苦労だったのか、そのまま倒れそうになっていた。
「!! 大丈夫ですか!?」
すかさず身体を支える。
「す、すみません……」
「いえ、中に入っても大丈夫ですか?」
「は、はい……」
女性の身体を支えたまま家の中に入る。
「ベッドはどちらに?」
「む、向こうです……」
女性が指さした方の扉に連れて行き、中にあるベッドに座らせる。
「お身体が悪いのですか?」
「今は、風邪を引いてしまいまして……」
「なるほど、そうだったんですか。実は、近くのダンジョンでスタンピードが起こってしまいました。その規模が、少し大きいので、住人の皆さんに避難して頂く事になりました。なので、避難の準備をしてもらおうと思ったのですが、他にご家族はいらっしゃいますか?」
「……ちょっと、待って下さい。スタンピード……ですか……?」
「は、はい、そうですが」
女性の様子が少しおかしい。
「わ、私の娘が……どこかに……」
「街のどこかということですか?」
「そのはず何ですが……」
女性がちらっと時計を見る。
「もうすぐ約束の時間なのですが、まだ帰ってきてないのです。もしかしたら……」
女性が、風邪などとは別の理由で、顔を青くする。それが何故なのか、私は察することが出来た。このタイミングで、こんな反応する理由は一つしか無い。
「街の外に出ている可能性が?」
「最近、絵本で、街の外には、薬草があるという話をしたばかりなんです。その後に、こんな状態になってしまったので、今考えると、外で遊ぶと言っていたのも、そのための可能性が……」
「……今、門の方でもバタバタとしているので、外に抜け出す事も出来たかもしれません」
スタンピードによって、門の方でも色々と動いている。モンスター達がどこから来るかによって、門の扉を封鎖出来るようにしないといけない。その関係で、門番の人も冒険者達と話し合いをしている。その結果、門を見張る目が疎かになってしまったかもしれない。
「…………」
女性は、言葉を発する事も出来なくなっている。
「ギルドマスターに相談してみます。うまくいけば、捜索隊を出せるかもしれません」
「あ、ありがとうございます!!」
「貴方の名前と娘さんの名前を教えてくれますか? それと、娘さんが家を出た時間を」
「はい。私は、ピアニャ・セリエーヌで、娘は、ニーアです。確か、十二時だったかと……」
「分かりました。ピアニャさんは、ここで待っていて下さい。職員が来て、避難準備を手伝ってくれるはずなので」
「はい。ありがとうございます……」
涙混じりにお礼を言うピアニャさんをベッドに寝かせて、家を出て行く。そして、一直線にギルドに戻る。ギルドの階段を駆け上がり、ギルドマスターの部屋をノックした。
「入っていいぞ」
「失礼します」
中に入ると、ガルシアさんは、報告書を読んでいる最中だった。
「アイリスか。どうした?」
「西地区の端に住むセリエーヌさんの娘さんが、街の外に出た可能性があります」
「何!? いつだ!?」
「十二時くらいだそうです」
ガルシアさんは、手元の報告書を机に置いて、別の報告書を引っ張り出した。
「くっ……その時間は、ちょうど門番に指令を飛ばした時だな。慌ただしくなれば、死角も生まれやすいか……」
「捜索隊は出せますか?」
「……正直厳しい。同時多発的に起こったスタンピードに対応するには、今の戦力でもギリギリだ。割くための人員がいない……」
ガルシアさんは歯噛みしていた。今回のスタンピードの規模から、街中の冒険者を集めないと対応出来ないと予測されているのだろう。このままだと、ニーアちゃんが魔物の被害に遭う可能性もある。
「なら……私が行きます」
「ダメだ!」
ガルシアさんは、立ち上がって首を振る。
「何故ですか?」
「お前が、その状態になった理由は分かっているだろ!」
「それでも、見捨てていい理由にはなりません」
「お前は、まともに戦えるつもりか!?」
「……戦います。私には、その力があります」
私のスキルは、戦闘系のものが多い。この前だって、ジェノサイドベアでなかったら、まともに戦えてはいたはず。今回、キティさんの援護はないけど、やってやれないことはない。恐怖に飲まれるということも無いと思いたい。
ガルシアさんは、頭を抱えていた。
「……なるべく戦うな。それが条件だ」
「分かりました。では……」
一礼して、部屋から出て行く。ガルシアさんには、精神的にも苦労を掛けてしまった。今度、きちんと謝礼を用意しないといけない。
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