第13話 初めての死闘

 森の中を駆けていく。木々によって、少し速度が削がれているけど、それなりに早く走れている。


 スキル【俊敏】。素早さと瞬間的に思考速度を大幅に上昇させる。


 金級の冒険者でも一人では、苦戦すると言われているジェノサイドベアを、キティさんは、一人で二頭を相手にしている。まだ、ジェノサイドベアが追ってきてないということは、キティさんが耐えている可能性が高い。


 走り続けていると、遠くで戦闘音が聞こえてくる。


「急がないと……!」


 段々と戦闘音が大きくなっていく。もうそろそろ、キティさんのところに近い。大きな音が森の中に響き渡る。そのタイミングで、急に戦闘音が消えた。そして、私の視界に戦場が映し出される。そこには、血まみれで木に寄りかかって座っているキティさんの姿があった。


 綺麗な白色だった髪の毛、耳、尻尾が、真っ赤に染まっている。一気に私の喉が渇いていくのを感じる。ジェノサイドベア二頭が、瀕死のキティさんに近づいていく。


「っ……!!」


 私は、地面を思いっきり蹴って、ジェノサイドベアに近づいていく。


 スキル【疾風】。脚に風を纏うことで、脚力の強化をする事が出来る。さらに、それを利用することで、初速度から超人並みの速度を出すことが出来る。


「っ!!」


 手に握った雪白で、ジェノサイドベアを横薙ぎに斬り裂く。かなり踏み込んでの一撃だったのに、付けられた傷は浅かった。斬りつけた姿勢のまま佇むようなことはせずに、すぐにステップを踏んで、移動する。

 今の攻撃のおかげで、ジェノサイドベア二頭の気が私の方に向いた。赤い四つの眼に見られて、背中に嫌な汗が流れる。でも、キティさんから、気を逸らすことは出来た。


「っ……! こ、こっちに来い!」


 私がそう言うと同時に、ジェノサイドベアが二頭とも、私を目掛けて迫ってくる。その内の一頭が、そのままの勢いで体当たりをしてくるので、横にステップを踏むことで避ける。その避けた先に、もう一頭のジェノサイドベアが腕を叩きつけようとする。それを、雪白で斬り払うことで軌道をずらして、生まれた隙間に身体を潜らせた。そして、そのままジェノサイドベアから距離を取る。


「斬り落とすつもりで斬ったのに……」


 実は、軌道をずらせたのは偶々で、実際には、腕を斬り裂くつもりで雪白を振っていた。


「私には、ってこと?」


 どうしようもない焦燥感が襲ってくる。お母さんが昔、黒い熊を一刀両断したことがあるって言っていた。そのお母さんが使っていた雪白を使用しているにも関わらず、私には傷を付ける事しか出来ない。


「はあああああああああああ!!」


 私は、ジェノサイドベアに対してヒットアンドアウェイの戦法で、対応していく。ジェノサイドベアが、私を引き裂こうと腕を振ってくる。それをステップで避けて、生まれた隙に小さな傷を負わせる。真っ白だった雪白が段々と赤く染まっていく。それだけ、ジェノサイドベアを傷つけることが出来ているということ。


「うぐっ……!」


 でも、私も全ての攻撃を完全に避け斬れているわけじゃ無い。防具に守られていた部分も裂かれて、額からも出血している。ただ、深傷は負っていない。


 痛い。すごく痛い。今すぐにでも泣き叫びたいくらい。でも、それ以上の怪我をキティさんは負っている。私を逃がすために……


 だから、ここで退かない。キティさんを生きて街に帰すんだから!


「やあああああああああああああああ!!」


 私は、死ぬ気でジェノサイドベア二頭と戦い続ける。ステップを踏んで、流れるような動きで攻撃を避け、雪白で斬り続ける。当たりに血飛沫が飛び続ける。ジェノサイドベアと戦っていて気が付いたけど、ジェノサイドベアの額や身体のあちこちに少し深めの穴が開いている。その大きさは、キティさんが使う矢と同じ直径だ。


 つまり、キティさんの攻撃が深手を負わせているということ。


「だったら、そこを狙う!」


 私は、キティさんが傷を付けた位置に勢いよく雪白を突き刺す。さっきまでと違って、すんなりと突き刺すことが出来た。


「ガアアアアアアアアアアアア!!!」


 ジェノサイドベアの叫び声が響き渡る。ようやく、重傷を負わせる事に成功した。その代償として、もう一頭からの薙ぎ払い攻撃が直撃した。凄まじい衝撃を受けるけど、雪白は手放さない。


「げほっ! ごほっ!」


 勢いよく飛ばされた私は、木に叩きつけられて血を吐き出す。それでも、立ち上がらないといけない。このまま倒れたら、キティさんも死んでしまうから。一頭のジェノサイドベアは、刺された箇所が悪かったからか、地面に伏したまま動かなくなった。後は、一頭だけ。


 私は、勢いよく駆け出すと、思いっきり地面を踏み込んで、斜め上に跳び上がった。ジェノサイドベアは、空中で私を捉えようと上方向に向けて腕を振う。


 その腕を踏み台にして跳び、ジェノサイドベアの背後にあった木に両脚を付けて畳む。足の周りに風が纏わり付いた瞬間、勢いよく身体を射出した。そして、こちらを振り返ったジェノサイドベアの額……キティさんが傷を付けた場所に、そのままの勢いで雪白を突き立てた。少し勢いが付きすぎて、その場で止まることが出来ず、雪白を手放して地面に転がる。まともな受け身を捕る事が出来なかったので、身体が地面に叩きつけられ、重い衝撃が身体を襲う。


「ごほっ! ごほっ!」


 肺の中の空気が出て行って、大きく咳き込む。でも、これで、ジェノサイドベアを倒す事が出来た。キティさんを助けることも出来たはず……


 ジェノサイドベアに負わされた怪我と地面に叩きつけられた衝撃で立ち上がれない私は、這いずってキティさんのところに向かう。


「キティさん?」


 呼び掛けたけど、返事がない。力を振り絞って身体を起こし、キティさんの頬を触る。まだ、少し温もりがある気がする。でも、キティさんの胸に手を当てるけど、鼓動がかなり弱い。医療の知識はないけど、危ない状態だということはわかる。


「このままじゃ……」


 私は傷だらけの身体に鞭を打って、立ち上がる。痛みが身体中を駆け巡るけど、その一切を無視する。そして、ジェノサイドベアから雪白を回収する。その後、自分の服の一部を斬り裂いて、長めの紐にし、キティさんを背負って、紐を使って身体に固定をする。


「よし……急がないと……」


 キティさんを背負った私は、街に向けて歩き出す。悲鳴を上げる身体に鞭を打ちながら……

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