最強のギルド職員は平和に暮らしたい

月輪林檎

ギルド職員になった

第1話 職員になれた

 魔物が蔓延り、ダンジョンが乱立する世界。そこでは、冒険者という職業が出来ていた。そして、その冒険者をサポートし、魔物の情報やダンジョンの情報を統括する組織が出来上がった。

 その名前は、冒険者ギルド。全ての冒険者はギルドに登録しないといけない。ギルドに所属することで、様々なサポートを受けられ、冒険を円滑なものにする事が出来る。


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 私、アイリス・ミリアーゼは、十六歳を迎え、長年通った学校を卒業した。そして、目標であったギルド職員に最年少で採用される事になった。騎士団からのスカウトもあったけど、全力で断った。


 何故かと言うと…………ギルド職員の給料が、騎士団よりも良いから!


 それに、騎士団は自由に出来る時間が少なすぎる。それに比べて、ギルド職員は、ちゃんと休みがあるから、自分の時間を作る事が出来る。これが、選んだ決め手だ。


 学校の先生からは、


「戦闘系スキルを、それだけ持っているのにも関わらず、冒険者にならず、騎士団にも入らないのか? 勿体ない」


 と言われた。確かに、私は、戦闘系のスキルを多く持っている。でも、だからって、戦うのが好きなわけじゃない。私はもっと平和に暮らしたい。


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 今日が初めての出勤。生まれ育ったこの街スルーニアのギルドに向かう。スルーニアは、王都から少し離れた場所にあるいわゆる田舎の街だ。


 私は、ギルドの裏口から中に入った。そして、ギルドの制服に着替えるために、中にある更衣室に向かった。更衣室に入ると、制服に着替える途中の人が一人いた。


「おはようございます」

「おはようございます」


 取りあえず、朝の挨拶を交わす。そして、知らない人なので、自己紹介もしておく。まぁ、初出勤だから、基本的に初対面の人が多いんだけどね。


「今日からギルドで働かせて貰うアイリス・ミリアーゼです」

「あっ! 私の同期の人って、あなただったんだね。私は、リリア・アルメルだよ。よろしくね!」

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


 リリアさんと握手を交わした後、自分に割り当てられているロッカーを開けて着替えを始める。


「アイリスちゃんは、十六歳なんだよね?」

「はい。先月、学校を卒業しました」

「すごいなぁ。私は、二年頑張ってようやく採用されたのに」


 リリアさんは、笑いながらそう言った。嫌みのように聞こえるけど、実際は、私を褒めているだけみたい。


「私は、戦闘系スキルを持っているので、そこを考慮されただけだと思いますよ」

「えっ! じゃあ、補助金も出るの!?」

「そうですね。周辺調査の仕事が課せられたら、出るらしいです」


 ギルドの職員には、仕事がいくつかある。冒険者の管理が主な仕事だけど、中には街の近くにある森など、特定地域の調査も仕事になる。そこで、魔物の数、縄張りなどを確認する。特定地域の状況によっては、冒険者に依頼を出し、対応してもらう。


 そして、調査の仕事をするには、最低限の戦闘系スキルを持っていることが条件になる。スキルによっては、その職員には、荷が重いことがあるので、冒険者に頼むようになっている。


「そうなんだ。私には縁のないことだから、知らなかったや」


 リリアさんがそう言っているということは、リリアさんは、戦闘系のスキルを所有していないんだ。意外と、戦闘系のスキルを持っていない人は、多い。通っていた学校でも、半分くらいは、戦闘系スキルを持っていなかった気がする。


「それだと騎士団からのスカウトもあったんじゃないの?」

「そうですね。でも、全部断りました」

「えっ!? どうして!?」


 騎士団は、戦闘系スキルを持つ人からすれば、冒険者以上に憧れの対象だ。基本的には、スカウトでの入団が基本で、志願での入団は、かなり厳しいみたい。なので、スカウトを断る人は、実家の家業を継ぐ人などだけで、ほとんどの人は、断ることはない。なので、私は、騎士団のスカウトを蹴ったと聞いて、リリアさんが驚いたのだ。


「こっちの方が給料がいいので。それに、そもそも戦うのは、あまり好きじゃないので」

「そうなんだ。確かに、ギルド職員は、高給取りって言われるもんね」

「はい。それに、騎士団に入ってしまったら、自分の時間が、ほぼ無くなってしまいますから」

「ああ、なるほどね。基本的に、訓練で毎日が終わるみたいだもんね」


 これには、リリアさんも納得してくれた。戦闘系スキルを持っていないので、私の意見に共感しやすいのかも。戦闘系スキルを持っている人に言うと、理不尽に怒られる事もあるから。それだけ、騎士団に陶酔している人が多いって事なんだろうね。


 そんなことを話している内に、ギルドの制服に着替え終わった。ギルドの制服は、膝丈スカートと黒いタイツ、そしてショートパンツだった。万が一、スカートがめくれてもパンツが見えないようにという配慮らしい。上着も胸元が開いているということはなく、きっちりとしたものだ。正直、ショートパンツを履くならスカートが必要ないんじゃと思ったけど、何かこだわりがあるのかな。


 鏡で身だしなみが、しっかりしているか確認する。


 鏡には、赤毛を肩まで伸ばした黄色い眼をしている私が映し出されている。リリアさんは、私が着替え終わるまで待っていてくれた。


 リリアさんは、茶色い眼で茶色い髪を背中の半ばまで伸ばしている。すごく綺麗な人だ。


「わぁ、アイリスちゃん可愛い!」


 制服を着た私にリリアさんが抱きつく。少しスキンシップが激しい人なのかも。まぁ、嫌だとは思わないから良いけど。


「リリアさんも綺麗ですよ」


 なんとなく、私もリリアさんを抱き返す。リリアさんは、年上だからか、私よりも胸があった。というか、私が年齢のわりに胸が小さいのかも……学校でも小さい方だったし……


 リリアさんの話では、同期は、私とリリアさんだけみたい。倍率が高いとは聞いていたけど、採用人数がここまで少ないとは思わなかったなぁ。募集人数は、五人くらいだったはずなのに。基準を満たす人が少なかったって事かな。


 着替え終わった私とリリアさんは、更衣室を後にして、仕事場に向かう。すると、仕事場に繋がる扉の前に、一人の女性が立っていた。


「おはよう。今日から、あなた達二人の指導役になるカルメア・バーランよ。まずは、裏での書類仕事から始めて貰うわ。付いてきて」


 カルメアさんは、金髪碧眼で、長い髪を後ろで畳んでバレッタで留めている。服装は、私達と同じ制服だけど、その制服を押し上げる双丘は比べものにならない。リリアさんも大きいと思ったけど、それ以上だった。


 カルメアさんは、淡々とそう言って、先に歩いて行ってしまう。全体的な説明から始まるかと思いきや、早速作業から入るみたい。


 カルメアさんに案内された部屋には、多くの人がいた。その人達は、机に向かって一心に何かを書いている。


「このメモに書かれたものを、こっちの紙に清書して欲しいの。依頼書だから丁寧にお願いね」

「「分かりました!」」


 私とリリアさんは、それぞれ別々の机に座って、依頼書を書き写していく。少し雑に書かれている方は、ギルドに保管するもので、私達が清書している方は、ギルドの掲示板に掲示するためのものだ。これは、冒険者の方々が見るので、丁寧に書かないといけないみたい。


 私達は、無言で作業をしていく。丁寧に文字を書き写しているうちに、段々と時間を忘れていった。そして、カルメアさんに肩を叩かれるまで、今がどのくらいの時間帯なのか分からなかった。


「お疲れ様。お昼休憩に入ってもいいわよ。午後からは、他の作業を見学してもらうから、そのつもりでね」

「「はい!」」


 カルメアさんは、そう言うと、別の部屋に歩いていった。


「アイリスちゃん、一緒にご飯食べよ」

「はい。リリアさんは、お弁当ですか?」

「うん。アイリスちゃんも?」

「はい。休憩室で食べましょう」


 私とリリアさんは、ギルドの裏にある休憩室に行って、同じテーブルに座りご飯を食べ始めた。互いのお弁当の中身が気になるからか、互いにちらっとお弁当箱を覗いていた。


「アイリスちゃんのお弁当、美味しそう!」

「リリアさんのお弁当も美味しそうですよ」

「これ自信作なんだ。食べてみる?」

「いいんですか? じゃあ、私のこれと交換しましょう」


 私の肉団子とリリアさんの卵焼きを交換する。


「この卵焼き、しょっぱい方の味付けなんですね。美味しいです」

「アイリスちゃんの肉団子も美味しいよ。甘ダレなんだね」

「はい。うちでは昔から、この味付けだったので」


 おかずの交換をしながら、楽しくお昼ご飯を食べていく。そして、午後の仕事場説明が始まる。

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