神の嫌がらせ〜オムライス作るから世界征服だけはやめてくれ〜
しゅう
第1話
俺は伊宮佑弦、何処にでもいそうな平凡なただの高校生だ。
だが、少し普通とは違うとこをあげるとすれば、両親がレストランを経営していることだろうか。
レストランといってもそんな洒落たところではないのだが。イメージとしては居酒屋とレストランを足して2で割ったような飲食店だ。
そんな飲食店を、俺は親の手伝いのために入りたい部活にもあえて入らず支えている。
別にきっと部活にはそこまで執着していなかったと思っていたので今となってはどうでもいい話なのだが、それにしても店の手伝いは毎日忙しい。
店の定休日は週に一度の月曜日の午後から開店、中々ハードなスケジュールなのだが両親は俺の青春を気遣って俺には週2の休みを与えてくれている。
それでも客が少ないわりには毎日忙しいのは変わらない。
そして今日も学校帰宅後、店の手伝いをするために二階の私室で準備中だ。
家は一階が店で二階が自宅となっている。
二階に登るには階段を上って裏の扉から入る。別に店の入口から入ったって構わないとは思うが、これも万が一お客とすれ違ったりしてぶつかったり迷惑になった際の事故を防ぐためだ。
「はぁ」
俺は店のユニフォームに着替えながら大きなため息をつく。
別に店の仕事が嫌いだとか、嫌々しているなんて微塵も思ってはいないが長時間手伝うというのはあまり気分が乗ったものではない。
一番上のボタンまでつけたのを確認し、俺は一階にある店内に向かった。段差高めの階段を慣れた速さで下っていき、会計レジに立つ母さんとぴたっと目があった。
「あら佑弦〜」
母さんが「丁度いいとこに来たわね」とでも言いた下げな表情で微笑む。母さんが何か頼む時はいつもこうだ。
「母さんお会計で忙しいから、良かったら今日の晩御飯を作ってくれない〜?」
「わかったよ」
俺は呆れ気味に母さんのお願いを聞いた。
作るのはいいのだが、何を作るってことが一番重要だ。まあいつも「あれ」って決まっていたのだったが。
俺は二階のキッチンに向かう。一階の調理場は厨房みたいなものなので家での食事は厨房が空いていない時は大抵二階で料理を済ます。
さっき下りてきた階段を早足で駆け上がり、私室の隣にあるキッチンに着いた。
俺は冷蔵庫の中を覗いて食材を確認した。
「この材料ならあれ作れるな…」
そう、「あれ」というのは―
「完成」
俺はオムライスを包んだおかず版クレープを持って独り言を呟く。
中々の出来だ。今日は特に調子が良かったようで、オムライスの卵生地も、包具合も絶好調だ。
ついでにうちの店特性のケッチャップが香りを引き出させる。
ちなみにこのオムライスの名は「オムライスクレープ(ケッチャップ増々)」
正直そのまんまだが、ケッチャップ増々というのは俺的にはとても重要だ。
もちっとしたクレープ生地の食感と、甘い卵に包まれたケチャップがよくきいたケチャップライスは相性抜群なのだ。
ケチャップと香辛料のいい香りで部屋が充満した。
何故これを作ったのかと問われてしまえば困るが、何故かいつもこれを作ってしまう。そこまで思い入れがあるわけでもないというのに。もしかしたらこれが得意料理だったりするのかもしれない。
俺は三人分のオムライスを作ったので早速母さんの元へ向かう。
「母さん、ほら」
「やっぱり佑弦のオムライスは美味しそうね〜」
俺が母さんにオムライスクレープを差し出すと、母さんは聞き慣れた褒め言葉を言ってみせた。
正直この言葉は聞き飽きた。別に他の言葉で褒めてほしいという訳ではないが、何事にも褒め言葉をのせてくる両親が、過保護で少しもやっとした気持ちが俺の心に張り付いているのだ。
そんな母さんたちの手伝いを後にして俺は私室に戻って先程のオムライスクレープを食べて人暖楽しようと思う。
今の内に夕食を済ませておかないと後々タイミングを逃してしまうかもしれない。
今なら客足も少ないし、食べていたって問題はないだろう。
「……」
今日の出来を確かめるべく、俺はじっとオムライスを眺める。
今日のオムライスクレープは見た目は普段以上だったが、味は大して変わらなかった。
いつもこうだ。見た目が良くても中身はいつものままなのだ。
確か、そのことを少し前に父さんに聞いたことがあった。何故味に変化がないのかを。
その時父さんは言った「気持ちが足りてないんじゃないかなぁ」と、勿論そんなことよく知っていたが料理に込める「気持ち」とは何なのだろうか。青春も部活も奪われた料理という単語に俺が何を感じるかなんてわかったいるはずだ。
「気持ち、か…」
そんなことを考えていると―
「いい匂いなのだ…」
「え?」
聞き馴染みのない声のする方に視線を向けると、窓枠に一人の少女がひょこと座っていた。
もしかすると、このオムライスの香りにつられてやってきたのかもしれない。
その少女は短めポンチョのゴシック黒ワンピースに白髪のショートボブ、頭には黒リボンという中々目立つ豪奢なお嬢様のような白黒な格好をしていた。
容姿的には小学生くらい、若干ツリ目で口調からしても気が強めなのがよく伝わる。
その少女は窓から下り、俺に近づいてきた。
「聞くのだぞ?……ごほん…今からマーシャは世界征服をするのだ」
世界征服…聞き慣れない言葉だ。
ゲームや漫画などではありがちな展開だったので、その時の俺はただの小学生のいたずらに過ぎないのだろうと思っていた。
「世界征服か…」
「ふふん、どうよ?恐ろしいであろう?」
「頑張れよ」
「え?」
この少女が俺にどんな反応を求めたのかはわからないが、彼女の顔は驚きを隠せないようだった。
その後、俺を嫌な目つきで凝視して今度は俺に人指し指を突き立てた。
「マーシャは女神、マリナ・クーノ・デビルなのだ」
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