第32話 クリストファー・ベイリンガル

ベイリンガル侯爵家の三兄弟の性質を簡単に言うと、

長男ブライアン・ベイリンガルは、視野が広く、真面目で勤勉な努力家。

次男クリストファー・ベイリンガルは、感覚派、単純、猪突猛進、一点集中型。

三男ダレル・ベイリンガルは、まわりが良く見える、腹黒策略家。


転生者のエレノアでも、幼い頃はクリストファーのことを、脳筋の思慮足らずだと思っていた。

気になることがあるとそのことに集中してしまい、まわりが見えなくなる。


これでよく戦場や魔物の討伐に行って生きていられたものだと思っていたが、クリストファーには、この短所を補って余りある戦闘センスがあった。


そしてこのなんにでも一生懸命になれる、永遠の子供のような性格を持つ男は、まわりの人々から愛されていた。


そんなクリストファーが、珍しくエレノアとドラゴンたちがこそこそしていることに気が付いた。


「なにをしているんだ?」


魔法石に魔力を込め、楽園ダンジョンのための魔力電池を作っているところを見つかってしまったのだった。


「魔力を魔法石に蓄えているのです。」


「なんのために?」


興味のあることにはとことん突き進むクリストファーは、自分が知りたいことを知ることができるまで、決して引かない性格だった。


「魔法石の再利用です。」


エレノアは、ちょっとだけ嘘を混ぜた返答をした。


「再利用?」


「明かりのために使われる魔法石は、力を無くすと捨てられてしまいますが、こうやって魔力を込めればまた使えるようになるのではないかと、実験をしているのです。」


とても明かりに使われる大きさではない魔法石を前にして、エレノアが答える。

「再利用」という聞きなれない言葉に興味をひかれてしまったクリストファーは、その違和感に気付かない。


「ほう・・面白いことを考えるな。」


「魔力はなにかしらの現象を起こしたり維持したりする力となります。明かりだけでなく、他のことにも利用できないかと、考えています。」


「うんうん。実に興味深い。例えば?」


「・・暖炉の代わりにお部屋を暖めたり、お風呂のためのお水を温めたり・・・食材を冷やしたり・・馬のない馬車を走らせたり・・・」


「ふーん、面白そうだな。」


無駄に集中力のあるクリストファーは、魔力電池を手に、動かなくなった。

そしておもむろに、自分も魔法石に魔力を込め始めた。


暫く数日魔力電池作りに夢中になっていたクリストファーだったが、そこから明かりの魔道具の分解と組み立てを繰り返し、独自の魔道具を作り始めた。


魔法が得意なエレノアであったが、魔道具を作る才能はなかった。

不器用すぎたのだ。

ただ、前世の記憶から、様々な仕様の電化製品についての知識はあった。

そのいくつかは、クリストファーの手により、今までにない魔法陣も付与魔法も不要な、魔石電池だけで可動する異世界仕様の魔道具魔石電池で動く電化製品として生まれることとなった。


ベイリンガル侯爵領改めベイリンガル共和国は、クリストファーとその妻子の生み出した、今までにない魔道具によって、生活水準が上がっていくことになる。

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