第29話 テディ 4

ベアトリスの許可が出たところで、エレノアは少しドラゴンたちに近付き、ドラゴンたちを囲んで剣を構えている男たちに声をかけた。


「クリス兄様、領兵のみなさん。ドラゴンから離れてください。これから少し規模の大きい魔法を使います。巻き込まれないようにできるだけ離れてください。」


エレノアの発言に、その場にいた全員が身体強化をかけて走ってドラゴンたちから離れる。

エレノアの大規模魔法の被害を、みんな身に染みて知っていた。


エレノアは両手を前に向け、風魔法と土魔法を発動する。

地面に縫い付けられていたドラゴンたちは、風魔法で宙に浮かされ、その下には地響きと共に巨大な穴ができた。

ドラゴンたちはゆっくりと巨大な穴の中に降ろされ、首だけを出した状態で土に埋められた。


「硬化。」


そして土は鉄より硬くなり、ドラゴンたちの体を包んだ。


シールド球形結界。」


続いて、今度は半透明の球形のシールドで、ドラゴンたちの地面に出ている部分を覆う。


ここまでしてから、エレノアはドラゴンたちに近付く。


「私たちと会話ができる、知恵のあるドラゴンさんですよね。私の言葉、理解できていますよね?」


ドラゴンたちは無言で、今の状況から逃れようと藻掻いている。


「私、ドラゴンさんの生態について知らないのですが、空気を吸って生きているのかしら?魔素を取り込んで生きているのかしら?なんにしろ、体全体を真空で覆ってしまえば問題ないですね。」


エレノアの言葉は聞き取れているがドラゴンたちは、エレノアを無視し続けた。


「それではシールド球形結界内を真空にしま~す。」


『『く、苦し・・この、卑怯者め・・!正々堂々と戦え・・!!』』


「なんだ。やっぱり話せるんじゃない。い~よ~。戦おう!!」


地中からドラゴンたちを解放したエレノア。


「「「「「エレノア様、なにをなさっているんですか!?」」」」」


領兵たちが叫んでいるが、エレノアは止まらない。

試してみたかった「ぼっこぼこにして弱らせてテイムする」気満々だった。


その後、すべての攻撃を防御され、多種の魔法で攻撃されボロボロになったドラゴンたちは、エレノアの前に平伏した。


「テイム。」


2頭のドラゴンとエレノアの間に光の鎖が現れ、しっかりと結ばれた。


「じゃあ、お父さんドラゴンがヒュー、お母さんドラゴンがシャーリーね。」


『『・・はい。ご主人様。』』


項垂れる2頭のドラゴン。


「やったー!!みんな~、このドラゴンさんたちが仲間になったよ~!!」


対照的に、満面の笑みで呑気に手を振るエレノアだった。




ドラゴンの素材は貴重で高価なものだった。

ドラゴンを討伐したのがエレノアたちでも、ドラゴンが居たのは隣国。

素材の所有権を主張されると面倒だ。

なにより、ドラゴンたちは生きている。


ということで、ベアトリスには、ベイリンガル侯爵領の領兵が、魔法でラゴンたちを焼き尽くしてしまったという幻術を、隣国の兵士たちに見せてもらった。


そしてエレノアとアレクスとベアトリスは卵を抱えてヒューに乗って、クリストファーと領兵たちは身体強化で走って、ベイリンガル侯爵領に帰って行った。


自分もドラゴンに乗りたいと駄々を捏ねてシャーリーに乗ろうとしたクリストファーが、ヒューに吹き飛ばされたのは、ご愛敬いつものことだ。






レアメタル鉱山のドラゴンが、隣国からの不法入国者によって討伐されたとの報告を受けた国王は、顔色を変えていた。


「に、2頭ものドラゴンを・・跡形もなく、というのか・・?なんと恐ろしい・・ドラゴンより恐ろしいものが・・この世界に存在するなどとは・・・そ、それでは、我が国の最重要資金源であるレアメタル鉱山は、隣国に支配されてしまったというのか・・・!!」


国王は自国の資金源の大半が隣国に奪われてしまった悲劇に、希望のない自国の未来に、頭を抱えた。


「あ、いえ。彼らはドラゴンたちを討伐し、そのまま自分たちの国に戻って行きました。不法入国してきたのは例の辺境の脳筋たちでして、彼らはドラゴンと戦いたかっただけのようです。あの山が鉱山であったことにも、それどころか我が国に不法入国していたことにすら気付いていなかったでしょう。」


国王は、思った。

藪をつつくのはやめようと。


「今後一切、あの国に関わらぬことを厳命する。二度とあの国に手を出すな!!」

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