第3話  婚約破棄 ~ side ゲイル ~

豊穣の宴。

国内のすべての貴族を招待してやって、旨いものが食えるパーティーだ。

年に4回も開くなんて金の無駄遣いでしかないと思うが、王家の偉さを分からせるには、こういうことも必要なんだろう。

お前ら、感謝しろよ!


うるさい父上と母上が揃って席を立った。

集められた貴族たちは、全員会場内にいるな?

よし、あの生意気な女に言い渡すのは、今しかない!


「マリア、今だ。行くぞ。」

「はい、ゲイル様。」


頬を染めた俺の可愛いマリアが、俺をうっとりと見つめてくる。

今直ぐ部屋に戻ってマリアを思うままにしたいが、我慢だ。

この裁きさえ終われば、俺はマリアとずっと一緒にいられるのだ!

俺はマリアをエスコートしながら、階段を上り、にっくき女に向けて言い放った。


「エレノア・ベイリンガル!貴様との婚約を破棄する!!」


エレノアは俺の言うことが理解できないのか、まったく表情が変わらない。

その自慢気な立ち姿に、苛立ちが募る。


「俺を立てることもできないお前のような不出来な女は、国母に相応しくない!」


そう言って、愛しいマリアの腰を抱いて引き寄せる。

いい匂いだ。

このまま貪ってしまいたい。

そう思いながら目線を落とすと、マリアは俺ではなく、エレノアを見ていた。

体が少し震えている。

エレノアが怖いのか?


「俺は真実の愛を見つけた!皆の者、聞いて驚け!このマリアは、異世界から転移してきた聖女なのだ!!!」


会場がざわつき始める。

そうだろう、そうだろう!

伝説の異世界の聖女が俺様の腕の中にいるんだ!

羨ましかろう!!


「あの!伝説の!『異世界から転移してきた聖女』だ!異世界の聖女が現れた国は、あらゆる外敵から守られ、栄えて金持ちになると言う、あの伝説の異世界の聖女なのだ!!マリアがいればこの国は栄え、贅沢の限りを尽くすことができるのだ!!」


そうだ、贅沢の限りが尽くせるんだ!

今俺が使える金はそれほど多くない。

だが、異世界の聖女の夫となり、国が豊かになれば、贅沢し放題だ!


マリアが俺の腕にその胸を押し付けて、肩に頭を摺り寄せてきた。

ああ、こんな裁きはさっさと終わらせて、マリアと・・


「マリアこそ、国王たる俺に相応しい!!!」


「エレノア・ベイリンガル!貴様は国外追放だ!」


エレノアに向けて、びしっと指を指しながら言ってやった。

決まった!

俺、カッコよすぎるだろう。


ここまで言ってやって、初めてエレノアの表情が変わった。

結婚できると思っていた俺様から婚約破棄を言い渡されたばかりか、国外追放を言い渡されたのだ。

俺様との婚約破棄が嫌で、惨めたらしく泣いているんだろう。

今更なにを言ってきても、俺様の心は変わらん!


「お父様、お母様、お兄様!」

「「「「「エレノア!」」」」」


このような貴族が集まる場で家族で抱き合うなんて、なんてみっともないんだ。

あ、婆が座り込んだ。

俺様に婚約破棄されて、未来が閉ざされてショックか。

惨めだな。

父上と母上が戻ってくる前に、最後の裁きを下してやろう。


「元婚約者、詐欺師エレノア!貴様は早くこの国から出ていけ!!そして聖女であると長年王族である俺を騙していた罪で、ベイリンガル侯爵家は、取り潰しだ!!!」


「畏まりました!失礼いたします!!」


エレノアが泣きながら会場を後にした。

は、ざまあみろ!

今まで散々俺を見下しやがって。


「謹んで承りました!長年この国に仕えさせていただいたこと、身に余る光栄でございました!!失礼いたします!!!」


身に余る光栄ねぇ。

やっぱり聖女を騙った罪で処刑することに・・・って、逃げ足速いな、おいっ!


エレノアの後を惨めたらしく追いかけて行った家族を見て、自分が優しすぎたことを後悔した。


「エレノア様が聖女?」

「どういうことだ。」

「誰か、事実を知っている者はいないか?」

「16歳のエレノア様が聖女なら、16年前からのこの国の繁栄も納得できる。」

「確かに。」

「待てよ、聖女のエレノア様がこの国から追放されたということは、この国はどうなるんだ?」


ベイリンガル侯爵一家が退場した会場から聞こえてきた声は、この後のマリアとの甘い時間を夢想していた俺の耳に届くことはなかった。

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