異世界ローカル路線『馬車』乗り継ぎの旅100日間王国一周の賭け ~異世界でムチャな賭けに巻き込まれたおれたちは奴隷になりたくないから、ローカル路線『馬車』を乗り継いで頑張ってゴールを目指すことにした~
鷹司
第一章 異世界到着!
第1話 プロローグ ~修学旅行は異世界へ~
修学旅行中の東京七番高校三年7組の生徒30人が乗る大型の観光バスは交通ルールに則り、安全運転で山道を走行している。
大きなフロントガラスを背にして立つ、派手な雰囲気のバスガイドは高校生と年齢も近いこともあってか、話の運び方が上手く、車内の喧騒に一役かっていた。
一番前の座席に座る新卒でありながらある事情で担任を任されることになった女性教師も、旅の始めこそ表情が強張っていたが、今は高校生と同様に明るい笑顔を浮かべている。
誰もがこの賑やかな空気を楽しんでいた。それはこのクラスの学級委員長を務める
もっとも耀太は少しだけ緊張もしていた。この修学旅行期間中に二年間ずっと片思いをしている幼なじみのクラスメイトに告白するつもりでいて、そのことを考えていたのだ。
「ヨータ、何か悩みごとでもあるのか? せっかくの修学旅行なのに、なんだか浮かない顔をしているぞ」
隣に座る親友の
「な、なんでもないから。おれは委員長として、車内の風紀の乱れを気にしていただけで……」
「どうせ修学旅行中のどのタイミングで告白しようか、無い頭を懸命に使って悩んでいただけだろう?」
さすがは親友である。すべてお見通しらしい。
「告白? なんのことだよ? おれがいつ告白するなんて言った?」
わざとらしく明後日の方向に視線を向ける耀太。
「はいはい、そういうことにしておくよ。まあ、お前はそういうのに奥手だったから、オレとしてはヨータも成長したなって嬉しくもあるんだけどな」
修学旅行という特殊な雰囲気のせいか、はたまた慧真自身の人当たりの良い性格のなせる業か、耀太も苦笑を浮かべるしかなかった。
そんな様々な思いを秘めた東京七番高校三年7組一行を乗せた観光バスが険しい山道に入っていく。この山を越えれば、今日の目的地である世界遺産で有名な観光地に入ることになる。
ん? なんかバスの動きがおかしくないか?
なんとなく外をぼんやりと眺めていた耀太は窓から見える外の風景が、なぜか左右に大きくぶれているように感じた。
知らない間にうとうとしちゃって寝ぼけているだけかな……?
耀太が小首をかしげていると、隣からも不安な声があがった。
「おい、ヨータ、さっきからこのバスの動き、少しおかしくないか? なんだか酔っ払いが運転しているみたいだぞ」
慧真も違和感を持ったようだ。
「うん、やっぱりそうだよな。少し乱暴な運転になったような……」
二人はほぼ同時に前方に座る運転手の挙動に目を向けた。さっきまでは自然体でバスを運転していたように見えたが、今は体全体を使って必死に運転しているように見える。明らかに様子がおかしかった。
急に後方からけたたましいクラクション音が続けざまに聞こえてきた。
そのときなってようやく耀太は自分たちが乗っているこの観光バスが、激しい煽り運転を受けているのだと気が付いた。
「はあ? まさかこのバスに煽り運転をカマしてるっていうの? そんなことをするのはどこのバカよ!」
バスガイドさんがその容姿に似合わない強めの語気でつぶやき、さっと後方に眼光鋭い視線を走らせる。
「
さらに運転手にけしかける。
「ちょっと
生徒からはクミッキーの愛称で呼ばれることが多い担任の
女子生徒たちを中心として悲鳴染みた声があがる。男子生徒たちは煽り運転をする車に向かって怒鳴り声をあげている。
車内が一気に騒然とする中、観光バスは左右に大きく蛇行しながらも走り続ける。
フロントガラスの先に急カーブの案内を示す道路標識が見えてきた。
後方から再び大きなクラクションが聞こえてくる。さらに凶暴な獣が唸るようなエンジン音が続く。後方から煽り運転を繰り返していた車が我慢を切らしたのか、強引に観光バスを追い抜こうとしているらしい。
観光バスが急カーブに差し掛かった。耀太の席の窓から、猛烈なスピードで観光バスを追い抜こうとしていく派手な真っ赤な外国製スポーツカーが見えた。
そのとき観光バスの後方部分が大きく滑るようにして横にズレていった。
車内に響き渡る絶叫と、外から聞こえてくるバスの強烈なブレーキ音。
今まで感じたことがないような凄まじい重力加速度が耀太の体を襲ってくる。そして不意に訪れる静かな浮遊感。
これってガードレールを弾き飛ばして、崖下にバスが落下したんじゃ……。やめてくれよ……おれはまだ告白もしていないんだから……。死ぬのなら、せめて告白だけはしたかったよ……。
まさか自分が高校生活で一番楽しいはずの修学旅行中に死ぬことになるなんて思いもしなかった。咄嗟に片思い中の女子生徒の方に視線を向けようとした、そのとき――。
観光バス内に白光が生まれた。そして、その白光はたちまち観光バス全体を覆っていく。
まるで奇禍に遭遇した観光バスを守るかのように――。
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