終末世界の宇宙機械人形

大天使アルギュロス

第1話 アンドロイドは向かいます

 私たちが人間を抹殺した。

 1人残さず人間は地球から抹殺したのだ。

 人間がいなくなって私たちはかつての故郷を取り戻した。

 それは地球。

 かつては人間のせいで茶色く濁った星となっていたが今は違う。

 人間を殺して1年がたち緑あふれる星となった。

 はげた山肌に緑が芽吹き、死に絶えていた動物は着々と戻ってきた。

 私たちは生きる。

 この青い惑星ほしで。


 ____


 私は昼休憩を終えて指令室に向かっていた。

 時間はちょうど1時を指していた。

 指令室での会議までおよそ5分。

 エレベータに乗って最上階に上がればきっちり3分前には着くだろう。

 この宇宙空間で最上階。

 なんだかおかしな気分だ。

 宇宙には上も下もないのにね。

 

 ここは宇宙ステーション『ゼス』。

 数あるアンドロイド専用宇宙ステーションの1つだ。

 

 私がボーと突っ立っているとエレベーターが止まり人が入ってくる。

 ここでアンドロイドのことを人というのもなんだかおかしいが人という認識で間違いないはずだ。

 私たちは生きている。

 だから人だ。


 入ってきたのは巨乳で金髪のアンドロイドだった。

 巨乳が目立つから先に頭に胸のことが浮かんでしまった。


 「は~い。今日も元気がなさそうね~ミスカ~」

 「パラージ。私は元気がないことはない。いたって健康」

 「健康って、人間みたいなことを言うのね」


 パラージがくすくすと笑う。

 健康で間違いがないはずだったのだが。


 「ちゃんと食事はしてる~?」

 「うん。今日もイチゴオイルを飲んできた」


 イチゴオイルとはオイルにイチゴの香りを混ぜたおいしいジュースのようなものだ。

 あくまでも人間の認識ではこういうのをジュースと呼ぶらしい。


 「今日は何のお話かかしら~? 人間は1年前に全滅したし、人間の話ではなさそうね~」

 「もしかして人間は生きていてこちらに攻めてきているとか?」


 パラージは驚いた顔で一瞬私のほうを見る。

 

 「冗談」

 「そうよね~。焦ったわ。でもそれはそれで楽しいかも~」


 パラージは人間を殺すのが好きだからな。

 私はどうだろうか?

 私は戦場で人間を殺していた。

 でもそれは仕事であり役目であったからだ。

 殺す瞬間に何の感情もわかない。

 『無』である。


 エレベータが最上階につき止まる。

 ドアがゆっくりと開き末端の警備アンドロイドが敬礼する。

 指令室ではたくさんのモニターがあり地球の情報を集めていた。

 オペレーターアンドロイドがカタカタとキーボードやらホログラムパネルをたたいている。

 オペレーターアンドロイドはいつも忙しそうだ。

 地球から人間はいなくなったがその代わりに自然環境の保全やら観測やらで忙しいのだ。


 司令官はなにやら秘書と話していた。

 重要な話かな?


 すると司令官は私とパラージに気づいて少し微笑む。

 いやな気がする。

 司令官が笑うときは何か嫌なことか面倒なことを考えているときだ。

 私はその面倒ごとが嫌いだった。

 だってステーションでゆっくりしておきたいんだもん。


 「よく来てくれたA21ミスカ、A19パラージ」


 A21とは私のことだ。

 司令官が型式番号で私たちを呼ぶときは任務の話をするときだ。

 パラージはあからさまに嫌そうな顔をしている。

 残念そうだ。

 ここにいれば毎日プールでのんびりできただろう。


 「今日集まってもらったのはほかでもない。君たちと別のアンドロイドにとある重要な任務を与える」

 「人間狩りはもう飽きた」

 「わかっているミスカ。人間は絶滅した。我らの故郷である地球はもうすでに我らとそこに住まうもの、つまりは人間を含まない生き物たちのものだ」

 「それで~重要な任務とはなに~?」


 パラージがだるそうに言う。


 「ああ、簡単に言えば君たちには地球の現状を報告。そして拠点づくりを任せたい」


 私は心の中で『えー』と思っていた。

 偵察任務は得意だがこの任務はざっくりとしていてやる気がわかない。

 しかも拠点づくり?

 私は工作が得意ではない。

 もちろんステーションのデータベースから工作に関する情報をインストールすれば簡単に工作ができるようになるだろう。

 しかしやる気がわかあない。

 私はどちらかといえばインドアアンドロイドなんだ。

 部屋で動物の画像でも見ておきたい。


 すると司令官が何枚かのデータを私たちに送信する。

 私はそれを開く。

 するとそこには驚きのものが映っていた。


 「モフモフじゃにゃい!!」


 司令官がくれたデータにはモフモフのウサギの画像が記録されていた。

 しかもすごい接近して撮影されたのかモフモフの毛並みがまるでそこにあるかのように私の目に表示されていた。


 「これは地球で撮影されたモフモフな動物だ。ミスカは好きではなかったか?」

 「はい!! 大好きです!!」

 「ならこの重要な任務を任せてもいいだろうか?」

 「もちろんです! このミスカ必ずや任務を完遂いたします」


 パラージは口を開けて驚いている。

 こんなにやる気な私を見て驚いているのだろう。

 パラージはやれやれという感じで肩を落としつぶやく。


 「わかったわ~。ミスカが言うなら仕方ないわね~」

 「では2人とも頼んだ。残りのみんなはハンガーで待っている。いいかこの任次第では今後の我々の活動が変わってくる。君たちに武運を」


 そういい司令官は自分のデスクに戻っていった。

 私たちは敬礼してその姿を見送る。

 そしてもと来たほうに向きなおりエレベータに乗るのだった。


 ____


 ハンガーとは飛行ユニットパラグレイルを格納しているところである。

 そこには武器や弾薬、予備のパーツが保管されていた。

 パラグレイルは宇宙空間と重力地帯で戦うために調節された飛行ユニットだ。

 私たちはエレベータでハンガーに向かった。


 「もう~あそこまでミスカがやる気なら断れないじゃない~」

 「モフモフのためなら私は命を捨てれる」

 「はー。これはダメだ」


 ハンガーに向かうとそこにはそうすでに仲間が到着していた。

 ツインテールの小柄な眼帯娘が腕組しながらイラついた様子で立っていた。

 私たちを見つけるとその小柄な体のどこから出ているのかわからないほどの轟音で怒鳴りつける。

 あれパラージの姿がない。


 「おい!! 何分待たせるつもりだ!! 一分遅刻!!」

 「アリアちゃーん!!」


 パラージはアリアを見つけるや否や走って抱き着きに行った。


 「離せ!! 上官の言うことが聞けないのか!!」

 「そんなこと言わないで!! 久しぶりの再会でしょ? 私を拒絶しないで!!」

 「ぎゃぁぁぁ!!」


 私は2人を放置してもう一人の仲間に声をかける。

 短髪の青い髪の毛でおとなしそうな女の子。

 

 「久しぶりブリース」

 「は、はい……」


 ブリースは手で顔を隠して恥ずかしそうにする。


 「おいミスカ!! このマウンテンゴリラをどうにかしろ!! 息ができぬ!!」


 アリアはパラージの胸の中でもがき苦しんでいた。

 私は無視してハンガーのパラグレイルのところに行く。


 「おい助けろ!!」

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