作品1『母の日のけち』

安乃澤 真平

作品1-1

 その昔、私は手製の写真立てを母に贈ったことがある。年の頃など覚えてはいないが、小学生の頃であることは確かであるから、そう思えばこれは余程遠い日のことである。


 写真立てとは言っても、それは母の日のために家庭科の授業で私が発泡スチロールの器と布で作った粗末なものであった。カッターで入れた切れ込みは、所々くの字になって真っ直ぐではないし、縁を覆った布は花柄で綺麗ではあるが、その裏を見ればどこもかしこも布の端々が雑に貼られてあって醜い。

 そもそもその器は、授業のある当日の早朝に、母に無理を言って都合してもらったものであった。なんでも直前までささみが入っていたらしいから、いくら洗剤を使って洗ってもらったとは言ってもその生々しい臭いはしばらく残っていた。だから随分と嫌った記憶がある。




 不幸なのは、大小二つの器が必要だったことである。一つしか持って行かなかった私は、忘れたことが恥ずかしく、いざ授業となって創作が始まってもそのことを言い出せずにいたのであった。

 そのことを察したらしい先生は、

「こちらへ来なさい。こっそりとね。」

などと気を遣ってくれたのであるが、そういうことをすぐに嗅ぎ取って騒ぎ立てる者が組に一人はいるもので、結局、私はその喧騒の中を皆の視線を集めて教卓のあるところまで歩かねばならなかった。母の日の贈り物であるその写真立ては、この時よりすでにけちがついていたように思う。

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