その3 第2稿とその補足

アバン省略(初稿と同じのため)



 第1章 不治山富士



     1


 二四時間屈強な門番兵の人に胡子栗を丸投げしようとしたが、それもあんまりなとばっちりなので思い直して。改めて、上下する箱に放り込んで奴の根城であるB2へ厄介払いしようとしたところを。

 ガンを飛ばされている。

 ことに気づく。

 道路を挟んで向こう側の自販機の前に。

あからさまな未成年が。

 それっぽい座り方をして、ここいら界隈で夜限定で煌めくどなたかの出待ちだか入り待ちをしている。

 23時23分。

「駄目だよ」こんな深夜に。「駅まで送ってあげるから」

屈強な門番兵の人に頼んで、だが。

 重力をはじめ地球上すべての現象に逆らわんとする髪の流れ。その色だっておおよそ自然界に存在し得ない。

 黒地に蛍光ピンクのラインのジャージ。

 しゃがんだまま僕を眼で射殺そうとする。

「あ?」

「だからね?こんな時間にこんなところで」

「てめえに用なんざねんだよ。引っ込め」

 この手のタイプは。

 頭ごなしに言っても無駄だ。

「ケーサツ呼ぼうか」

「呼べよ。呼んでくれりゃこっちもしてやったりだがな」

「自分で出頭すればどうかな?」

 少年が立ち上がる。存外大きかった。

 僕の眉間に眼力を注ぎ込める高さ。

「俺あなんも悪ィこたしてねんだよ。わかったか?あ」

「こんな時間にこんなとこをうろうろしてることが悪いことなんだけどなあ。わかってもらえないかなあ」

「わかりたかねえな。つーか、てめえにゃなあ」用がない。とばかりに僕を振り切った少年は。

 あろうことか、

 エレベータ待ちの胡子栗に突進していって。

 抱きついた。後ろから。

「会いたかったす」

「こっちは特に会いたくもないけど」胡子栗はまったく動じていない。コバンザメを引っぺがしもしない。「生き別れのママかなんかと勘違いしてない?」

「忘れねえでくださいすよ。オレすよ、トヲル。すんげえガキんときにガチで世話んなった久永幕透すよ」

「誰かと見間違えてるね。誰も世話した覚えはないけど」

「見間違えなんかあり得ねえすよ」少年は、胡子栗の腰を周回して対面に踊り出る。「あんた、オズさんすよね?しょーねん課の」

「人違いだよ」

「でも」

 エレベータが到着する。

 ドアが開く。

「違うね。知らないの?君の言うしょーねん課のオズなんたらってのはね」胡子栗が自発的に箱に乗り込んで。「殉職したらしいよ。ポカやって」

ドアを閉めた。

「じゅんしょく?なんすかそれ」少年がドアをどんどん叩く。「なんすか?じゅんしょく?て」

 彼は、殉職した事実に異を唱えているわけではなく。

 ただ単に、殉職の辞書的な意味がわからなかったようだ。

「死んだってことだよ。仕事中にね」親切な僕が教えてあげるも。

「てめえにゃ聞いてねえっつってんだよ。うっせえな」

 この始末。

 始末に負えない。

「失せろ。カスが」

「僕の名前はカスガさんじゃないよ」

「いちいちいちいちうっせーな。大体てめえはなんだ?」僕に当てこすりまでする始末。「なんなんだわけだ?あ?オズさんの」

 ああ、そうか。僕に対して沸点が低い理由。

「てめえみてえなもやしにオズさんは」

「また明日おいでよ。明るいうちに。今夜は遅いから」

「ぜって認めねえ」

 もっと粘るかと思ったが。

 案外素直に引いた。門番兵が仲間を呼んだからかもしれない。

 異状を感知してぞろぞろぞろぞろと。

 待機中の屈強がわらわらわらわらと。

 正直僕も耐えきれない。このガタイに取り囲まれたら。

「あの、解散で」謹んでお願いをした。

 地上3階、地下2階建てのこのビルに引っ越してきて早二ヶ月。

 どうにも慣れない。慣れたくない。

 慣れるもんかと固く決意した僕がいる。

 2Fの事務所に胡子栗のケータイを置き去りにして。

 よし。これで帰れる。帰ろう。

 修羅場にエントリィされる前に。

「そうはいかない。ムダムダなムダくん」胡子栗が現れた。

「お先に失礼します」

「あんなおぼこ範囲外だからね」それは言い訳なのか。

 聞いてほしいのか。

 あんな未成年に手を出した犯罪供述を。

「明日有給もらいたいんですが」

「俺はオズ君じゃないからね」

「はあ」オズ君だろうに。本名は。

 本部長がそう呼ぶ。

「殉職したんだよ。ポカやって」

「はあ」ポカというか。自業自得というか。

 祝多出張サービスの初代店主から。

 対策課前課長を寝取って。

「いないわけだから。そこんとこ間違えないよーに」

 面倒くさい。

 究極に面倒くさい。

 胡子栗は、ついさっきまで。本人の言葉を信じるなら囮捜査として。集団暴行の被害者を買って出て。地面に転がっていたにも関わらず。シャワーを浴びる気配も、況してや着替える気配すらない。仕事上の女装。

「参ったなあ。なんでバレたんだろ」

「オズ君の頃からやってたんですか」女装にて囮捜査。

 少年課で?

 それよりもなによりも、胡子栗が。

 元警察官だったとかのほうが。

 しかも少年課。

「帰るんじゃなかったの?」胡子栗が有給申請用紙をくれる。「てゆうか休んで大丈夫?気になって気になって夢に出てきちゃうんじゃない?」

「殉職した人の過去を掘り返す趣味はありませんので」

「それがさあ、殉職してないんだよね」

「知ってます」

「んでね。さっきの非行的ガキの名前」

 久永幕透。

「そいつは死んでんの。どしよ?誰あれ」

「知りませんよ」

知るか。

 どうせあんたの、連綿と続く爛れきった性生活の犠牲者だ。

「忘れらんなくて成仏できないんでしょうに」

「うわー、ゆーれいとヤれって?超感覚」

 明日の日付を書いて、僕の名字を捺して。

「帰ってよろしいでしょうか」申請用紙を提出する。

「これのついでだったわけね」胡子栗が承認の押印をする。「ちなみになんで休みたいの?事後申請だってよかったわけだけど」

 奴はどうしても、この夜を。僕が奴のために割いたと思い込みたいらしい。

 勝手にしてくれ。明日のために僕は、

 さっさと帰って眠りたいんだ。

「ははーん。さてはおデイトだね?」

「ほとんどそんなとこです」僕に拒否権の類はない。

 このビルの所有者、

 祝多出張サービス二代目店主、

 スーザちゃんが。なぜかどういうわけか明日の便で。

 実家に帰るらしい。



      2


「わたくし、実家に帰らさせていただきますわ」

「どうぞ。それはもう」

いってらっしゃい。という意味だったのだが。

 スーザちゃんは不満たらたらとばかりに口を尖らせる。

「そうではありませんわ、ムダさん。わたくしが実家に帰るということは、二度と戻って来ないこともあるのかもしれないということを」

「呼び止めろってこと?」

「止まりませんわね」

 出発は9時ちょうど。

 あと一時間以上ある。

 眠いしだるいし。空港まで車で70分もかかった。

 絶対に電車のほうが便利で速いのに。

 スーザちゃんは、電車が嫌いだという。

「お暇ですわね」ベンチで脚をぶらぶら。

「お土産でも買ったら?」

「わたくしが何をしに実家くんだりまで出掛けるのかご存じでないからそのような発想に至るのですわ」

「機嫌悪いの?」

 スーザちゃんが立ち上がる。

「ねえ、あの言葉。もう一度仰ってくださいな」振り返る。「必ずやわたくしを捕まえてくださると」

「いいけど」様子が変だ。

 自信に過剰を累乗した通常営業の立ち居振る舞いと。打って変わって。

 弱々しい。装っているだけかもしれないが。

 前例があるからほいそれと信じられない。

「ゆってくださいな」

「君は僕が捕まえる」ことはできない。を呑み込んだ。

 だって僕はすでに、

 逮捕権を行使できる身分を失った。

「ありがとうございますわ。元気が出ました」スーザちゃんは微笑んで見せて。「これでわたくしは、何としてでも生きたままここへ戻って来なければならなくなりました」

 何をしに行くのか。

 聞くべきなのだろうか。聞いたら、

 戻れない気がする。どこへ戻るのかもわからないが。

 スーザちゃんは、いつもの無地ワンピース。色は黒。

 黒のカーディガンを羽織っている。

「法事?」

「宗教が違いますわね」

 出発まで一時間を切った。

「もし留守の間、ボーくんがお命を無駄にするようなことがあれば飛び道具をお使いになってでも阻止してくださいな」スーザちゃんは、死体でも入ってそうな文字通り殺人級のキャリィバッグをごろごろ転がして。「わたくしが拾った命ですもの。わたくしのものですのよ」

 そうだ。昨日のあれ。

 知ってるのだろうか。

「ケーサツ官だったの?」胡子栗。「本部長と親しげなのはそうゆうこと?」

元部下とか。

「わたくしのお膝元でガキどもが飛びまくっているそうですわね」

「薬?」

「非行少年集団に明るいボーくんですから、一人で血眼で駆けずり回り暴走の挙句自滅するか、自分は非力で何もできないと嘆き蹲るかのどちらかでしょうけれど。あくまでボーくんの問題ですから、主人のわたくしがとやかく言ったところで」

「何が起こってるの?」

或いは、何が。

 起ころうとしているのか。

 スーザちゃんが国外逃亡しようというその裏で。

「復讐とか?」自分を捨てた恨みをいまこそ。「碌な死に方しないよ絶対」昨日だって路上で野垂れ死に寸前。「拾いに行かなかったらあのまま朝まで」

 スーザちゃんの表情にヒビが入る。

 しまった。失言。

「ごめん。そういうんじゃないんだ。本部長が」

「構いませんわ。ええ、構いませんとも」意地になってる。「ムダさんの嗜好が多少歪んでいるのは承知の上です」

 まずったな。

 これのせいで実家帰るんじゃないだろうな。

 関係が進んでいやしないか僕ら。僕の知らないところで。

「フライングエイジヤというガキ集団にご注意を」スーザちゃんがくれた餞別は。

 胡子栗、スーザちゃん命名・ボーくんを。

 暴君へとひた走らせた。



      1不死


 暴君なんて呼ばれていた。

 事実、暴君だった。暴君以外の何者でもなかった。

 暴君以外になる気もなかった。

 俺は、暴君だった。

 あいつに、あの人に。

 会うまでは。

 皆に暴君だと暴言を吐かれたところで暴君なのは。

 わかっている。

 好きで暴君をやっている。とでも思ったか。

 お前らが、てめえらのその足りない頭が。

 好き勝手なことしねえためだよ。

 俺が暴君になってお前らをコントロールしねえと。

 てめえらは、

 クズ以下だ。クズですらねえ。

「解散させるつもりはない?」あの人はこう言った。「君が暴君として君臨してるなら君の命令は絶対なはずだよ? 従わなかったらここにいられない。最も恐れてることは居場所を失うことじゃない?違うかな」

 あの人の言うことはもっともだ。俺だってできればそうしたい。

 でも、解散なんかしたら。あいつらは、

 どうすりゃいい?

 どこ行きゃいい?

 そもそも行くあてもないような奴らが寄ってたかって。気づいたらこんだけデケェ集まりになってた。

 これは結果だ。集まろうとして集まったんじゃない。

 こいつらの、俺の、

 フライングエイジヤは。

「君の手で終わらせてあげないと。だって君は」

 暴君だから。

「ある日突然終わらせたところで暴君なのは変わらない。暴君なら最後まで暴君で演じきって見せてよ。君が選んだのはそうゆう末路だよ」

 そうして俺は、あの人の言うとおり、

 あいつらを。

全員集めて。全員だ。本当に全員集めた。

集まってくれたのだ。

この俺のために。

暴君でしかなかった、俺の話を。

聞くために。

ああ、やっと。

今日、この時をもって俺は、

暴君を、

降りれる。

集まったところで俺の。

 記憶が途切れてる。



      3


 性犯罪被害者支援団体。

 イブンシェルタ。そこの代表が、

 代表を降りたらしい。

「ルシユさんが自ら命を絶ってしまい」前代表・我孫スイナは手元を見つめている。「トウタさんも調子を崩してしまいました。このまま代表代理を務めあげていく自信がなくなって」

「新しい代表はどなたが?」ムダくんが要らぬ質問をする。

「それは」我孫スイナが言い淀む。案の定。

「で?なんだっけ。用事があったんじゃないの?」助け船を出してやる。

 何しに来たかは。わかってる。

 ムダくんへのサービスだ。

 依頼人の口から聞いたほうが納得するだろう。

「地場リフラさんを知ってますよね」前代表が言う。

「ええ、はあ。すれ違った程度ですが」ムダくんが答える。「元気ですか?新しい仕事は」

「直接聞いたらいーんじゃない?」

 ムダくんは、地場李花のケータイ番号を知ってる。あれから彼女が番号を変えていなければだが。繋がることは可能。

 聞けるわけないだろ。そうゆう顔でムダくんが俺のいる方向を目線で攻撃する。

「ええっと、それで?地場さんがどうか」

「昨夜、その、被害を受けまして」

「ひったくりですか」

 ムダくんの脳は予定外の早朝覚醒に耐えられない。朝からスーザちゃんのお見送りで、ただでさえ蓄積してるであろう疲労が。彼に正常な思考をさせずにいる。

「いえ。その、言いにくいのですが」

「ああ、はい。あーえーとその」察したらしい。「大丈夫なんでしょうか。ケーサツには」

 駄目だ。

 有給取らせてやった意図を理解していない。

「ムダくん。帰っていーよ」

「どういうことでしょうか」ムダくんがあからさまにムッとする。

「だいたいね、君は今日有給取ったんじゃないの?さっさかお家に帰って惰眠を貪ってなさい。課長命令」

「帰れって。帰れるわけないでしょう。眼の前で困ってる人がいるのに。自分だけ休んでるわけに」

「有給は有給。あとで返せっても返さないよ」

「結構です。返上で働きますので」ムダくんは痛ましい表情で。「わかりました。これからそちらに伺って」

「あのねえ、伺ってどうすんの?」

「どうするもなにも、被害に遭ったときの状況を」

 溜まりに溜まった疲労のせいだ。

 これが疲労のせいでなければ、

 なんだというのだろう。こんなにもムダくんは、

 使えない部下なのか。

「伺えないでしょ?」なんでこんなことを言わせるんだ。「イブンシェルタは男子禁制。忘れちゃったわけ?」

「事情が事情です。これ以上被害を出さないためにも」

「ムダくん。はやる気持ちもわかるけどね、地場リフラは被害に遭ってるんだ。遭ったばっかなんだよ。そこにずかずかと押し入って一から十までそのこと思い出させるの?悪逆非道極まりないね」

「だったらどうするというんですか」ムダくんが食ってかかる。「あなたはいいですよ。イブンシェルタに入る権限とやらを持ってるから」

「行かないよ」

「どうしてですか?困ってる人を」

「困ってるのは地場リフラじゃない。よく見て。誰が来てる?どこの誰が、対策課に足を運んでくれたわけ?」

「そんなの。本人が来れるわけないじゃないですか。だから代理で前代表が」ムダくんはそこまで言ってようやく。

 依頼人を見る。

 前代表は顔を上げられない。手元を見たまま。

「代理でいらっしゃったんですね」ムダくんが言う。「僕らがそちらへ出向けないから」

「他にないでしょ。前代表。新代表に言ってないんですね?」

「ええ、はい。私の独断で。だってこれ以上、見ていられなくて。五人です。五人目なんです、リフラさん」前代表の肩が震える。項垂れて、声も。「代表は何もするな、状況は把握していると。そんなこと言ったって。あんまりです。このまま黙って見ているなんて私にはとても。二代目にお願いしようとも思いましたが、二代目ではその、繰り返してしまう。もう、あんな思いは」

 この夏。ムダくんが対策課に左遷された最初の事件。

 阿邊流秋。

 祝多出張サービスへ依頼し、結果。自殺。

 因果関係は証明できないが、事実として。

祝多出張サービスが依頼を完了させたその夜に、自殺。

前代表が躊躇うのも無理はない。

「何とかしていただけないでしょうか」前代表が顔を上げる。「被害者については専門なのですが、その、加害者のほうは」

「被害者に知られないように加害者を捕まえてそれ相応の処罰を下せと?まさに専門ですね、前代表。ここはそうゆう部署です」

「任せてください」ムダくんも力強く頷くが。

 オーヴァワークで倒れられても困る。

 スーザちゃんがいない。必然的に課長の俺が、

 全指揮を執らないといけない。

「やったのは、ガキどもですね?」

「知って」たのか。前代表もバカじゃない。

 俺と新代表がほぼ同罪だということに。

 知っていて何もしなかった。

「承りました。これ以上の被害は出ないでしょう」

「どうしてそんなことが」言えるのか。言い切れるのか。

 新代表は、知っていて何もさせなかった。

 課長は、知っていたから何もしなかった。

 そこの違いだ。

「薄々気づいてるんじゃないですか?今回の、新代表が一枚噛んでますよ?いんや、一枚どころじゃないですね」

「代表の座を奪い取るために?」ムダくんはすぐ陰謀説に傾く。

 前の職業柄仕方のない思考パターンかもしれないが。

「まだいたの?早く帰って寝なさい」

「スーザちゃんから直々にあなたの暴走を止めるように言われてるんです。昔取った杵柄だかなんだか知りませんが、どうせあなたの補導し損ねた少年たちが善悪の区別がつかないままやらかしてる、いわばあなたの不始末なんでしょう?ご自分の尻拭いを部下にさせるわけにいきませんもんね」

えらい皮肉だ。

 いちいち取り合ってられない。

「新代表は、砂宇土ヨウヒですね」

「すべて知ってたんですね」前代表が言う。肩の力が亜空間に吸収される。「そうです。ヨウヒさんが、リフラさん、イルナさんとともにイブンシェルタを」

「乗っ取った。どうして?」ムダくんは陰謀説を棄てられない。「どうして砂宇土さんたちが?」

「祝多出張サービスと対策課がご指名でケンカ売られてるわけよ」

お前らが、

 何もしないから。

 何もする気がないのなら、こちらがやるまで。

 殺してやる。

 私たちを搾取するすべての人間を。止めてみろ。

 止められないだろ。

 そうゆうメッセージだ。

「安っすいケンカだから無視してたけどさ」

ご自分のお仲間を、便利な駒くらいにしか思ってないところが戴けない。

 ここで対策課が対局に応じなければ、

 樫武イルナが襲われる。

 そして、それでもリングに上がらない場合には。

「しばらくは表を出歩かないほうがいいですね」

「私はどうなろうと構いません。ですが、私を頼って来てくれた皆さんを裏切りたくないのです」前代表が言う。再びあの女神的オーラを取り戻した。「お願いできますか」

「一つ条件がありまして」酷だとは思うが。「進捗状況を逐一報告しませんので、事態が収束するまでおとなしく待っていてもらえますか」

「口を出すなということですか」

「対策課が何とかできるのは加害者側だけです。被害者が、つまりそちらのイブンシェルタ側のごたごたの解決まで責任は負えないとそういうことですね」

代表の座をめぐる権力争いだとか、イブンシェルタの進むべき今後だとか。そうゆう面倒な政治は、俺の知ったこっちゃない。

 俺が買うのは、砂宇土ヨウヒの挑発じゃなくて。

 ムダくんの言うとおり。

 過去の清算。

「ヨウヒさんを捕まえるのですか」前代表が言う。

「庇う理由はないはずですよ」

「前代表は砂宇土さんも救いたいと思ってるんですよね?」ムダくんが口を挟む。

「静かになったから帰ったと思ってたけど」

「砂宇土さんだって被害者だ。違いますか」

「俺に言ってる?」

 ずっとずっと。永らくわかりやすい悪の形をひたむきに追い続けていた真っ直ぐな経歴の、ムダくんには向かない。

こうゆう、善悪のないまぜになった後味のよろしくない事件は。



      4


「ホンモノだったって?」女にしか見えない。

 肩甲骨を覆うストレイトの黒髪。くりくりと大きな眼。

 短いスカートから太ももが。

 カウガール。と言ったらいいのかその格好は。

 こいつが、

斬り込み隊長。

「女じゃあ、ねえ?せーてんかんしちゃったってこと?」

「外だけだ」男でしかない。

 前髪を下せば年相応に見えるのだが。

 周囲よりも少しばかり身長が高いお陰で。

 他の奴らより少しばかり上の視線を獲得できる。ヤンキー。

 こいつが、

現リーダ。

「抱きついて確かめたんだからよ」

「次の手だけど」女のほかあり得ない。

 肩に掛かるややくせ毛の黒髪。芯の通った眼差し。

 この国の生粋とは言い難い、褐色の肌。

 一番小柄だが、彼女の本体は頭蓋に収まっている。

 南国リゾートで路上ダンスでもしそうな風体だが。

 こいつが、

 策略中枢。

「お待たせ、出番だマイナ。リーダは引き続き内から揺さぶってほしい。思い出させるんだ、もっと強く強烈に」

 そんなことくらいで、あの人が。

 どうこうなるもんでもないだろうが。

「僕らは復讐する」ヨルヒコが言う。「僕らを搾取する大人たちに。その犠牲になったトヲルのために」

「トヲルくん」マイナが言う。

「トヲルさん」リーダが言う。

 三人が、

 俺を見る。

「無駄だって」それに、トールってのは。

 あの人が引き継いでくれたわけだし。それはすなわち、

 あの人がまだ、

 俺を憶えてくれているという。なんという、

 甘美な。

 忘れてくれてない。忘れてくれていい。

「俺じゃないって」トールは、

 久永幕透は死んだ。

 死んだんだ。少なくともあの人は、

 そう思っている。それでいい。そのほうが、

 あの人の中に、

 強く強烈に残れる。





 第2章 キングN



      1


 スーザちゃんがくれた置きみやげ。

 フライングエイジヤについて。

 胡子栗が教えてくれないので自分で調べた。9時32分。


 カテゴリ:非行少年集団


 創設者による結成を宣言されてメンバが集められたわけではなく、自然発生に近い。居場所を求める少年たちが横のつながりを求めてもがき足掻いた結果、それはいつの間にか形を持った。

加入条件は未成年であること。審査もなければ紹介も必要ない。入りたい旨と年齢を告げれば、即日メンバを名乗ることができる。シリアルナンバも証明書も発行されない。メンバである証は、少年たちの心の内にのみ存在する。

 構成人数は無数。というのも、彼らが活動するのは主にネット上の世界だけ。いわゆるオフ会と称する生身の顔合わせはないに等しい。

 それにもかかわらず、彼らが非行少年とされている理由。

 虞犯ではなく。

 5年前に解散を余儀なくされた。当時のリーダの死をもって。

「何を遠慮がちな背中を晒しているのかと思えば」

後ろを取られ声を掛けられても尚、寒気と鳥肌が追いつかない。

 にこりともしないことで有名な、県警本部長。

 額に巻いているしゃれこうべ柄の手拭いにツッコんだら二階級特進は確実。

「何遍頭を下げさせられたんだね。担当がそばにいるというのに」調書をまとめた人物の名。本部長が指さす。

 小頭梨英。

 課長の本名、だろうか。初めて見た。

「頭を下げて知れるのなら容易いですね」

当の担当者は、頭を下げようが何をしようが口を割らない。ありもしない黙秘権を貫く。

「強情だなオズ君も」

「解散時のリーダって」名があった。

 久永幕透(11)

「死んだんですよね?」

「オズ君が看取っているよ」

 リーダは、解散を宣言したことにより、

 解散を宣言するために集められた無数のメンバにより、

 集団暴行に遭い、

「オズ君が発見した。すでに手の施しようがなかったそうだよ。無念だったろうね」

 リーダを助けられなくて。

「奇策が功を奏しなくてね」

そっちか。

「あの集団はいずれとんでもない力を生む」本部長は部屋の出入り口を睨みつける。

 連れ戻しに来た金魚のフンを機能停止させた。

「力動がばらばらなうちに手を打とうと思ったんだろう。あの数が同じ方向を目指せば、何が起こるかわからない。何を起こすともわからない」

 しかし、その何かは、

起こってしまった。そしていままさに、

起こりつつある。

起こってしまっている。

「起こさまいと」お子様意図?「打ちこんだ楔がまさか眠れる悪意を呼び起こすきっかけになるなど。策の失敗も含め、最悪の結果を招いた、その発案の責任を取って彼は」小頭梨英は。「ここを去った。止めることは彼への」

「本部長が課長を評価しているのはよくわかりました」

金魚のフンが待ち構えているところで、○禁ワードを発表させるわけにいかない。本部長率いるケーサツの威信にかけて。

「私から協力を命じてもいい」少年課。「オズ君にはいい顔をされないだろうがね」

「むしろ余計なお世話だと思いますよ」ファイルを元あった場所に戻す。「貴重なお話ありがとうございました。この借りはいずれ課長のほうから搾り取ってやってください」

 もう一人の、完璧に関係者の。

 国立更生研究所。

 まで足を延ばす手間を惜しんで。電話を掛ける。

 10時34分。

「そろそろ来ると思っていた」瀬勿関先生は鼻で笑う。「甘味料の暴走はいまに始まったことではないがな」

「そのころからの知り合いなんですか」

胡子栗が、

 ケーサツで少年課だったころの。

「奴がケーサツを辞めたのは、何も責任云々だけじゃない。他にやりたいことがあったんだ。ケーサツにいてはできないような」

「リーダを暴行した少年たちはどうなったんですか」

 調書には書かれていなかった。

 小頭梨英が書いていないということ。

「まさか」

「やはりムダくんは勿体ないな。うちに来ないか。なんなら副所長の座を用意するぞ」

「勿体ないお言葉ですが」

僕はどうしても、

 対策課を離れるわけにいかない。

 スーザちゃんを捕まえるまでは。

「約束がありますので」

「そうか。気が変わったらいつでも言ってくれ」瀬勿関先生は、本気なのか社交辞令なのかわからないところがある。「そうだよ。奴はリーダの」

「復讐ですね」

「フライングエイジヤの完全消滅だ」

え、そっち?

「復讐と呼べるまでリーダの少年に入れ込んでいたようには思えないな。あの頃は理想を信じた真面目な青年だったからな。染まりやすいガキどもの眼を覚ましてやろうとでも思ったんだろう」

「何をしたんですか?具体的に」

「私はどこの所長だ?奴と初めて会ったのはそのときだ」

「更生させたんですか」国立更生研究所。

「奴の得意技は何だ?」囮捜査。女装で。「想像を絶するよ。夜な夜なガキどもを引っかけながら情報を集めて、あの日あの場所にいたすべてのガキを問答無用で連行するわけだ。頭がおかしくなきゃ出来ないし思いつかない芸当だな」

「何人いたんですか。ぜんぶ、連れて」

「来たんだよ。ぜんぶな」瀬勿関先生が、深い溜息をつく。「リーダが死んだことでサイトは閉鎖されていたからな。そこから辿るんならともかく、毎日自分の足で文字通り身体張って。何人だったんだろうな。私のところが未成年も対象なら」

「どういうことでしょうか」

未成年が、

 対象外?

「捕まえた数十、数百のガキどもがどうなったかは、悪いが把握していない。ただ、命の類は残っていないだろうが」

「殺したと」

殺したのか。そんな、

 国立更生研究所を凌ぐ、恐るべき人体実験研究機関が。

まだ、

 この国には存在するのだと。

「どうして。なにも殺さなくとも」

「殺さなければ、代わりに奴が殺してた。誰がやるかの違いだ」

「でも、そんな何十何百の少年が一気に消えたら」

「すまないが、ガキどもの末路についてはわからない。本当に知らないんだ。単なる推測に腹を立てられても困る」

瀬勿関先生にも、触れ得ない領域があるということか。

 まだ上がいる。この一連の、試験的事業には。

 僕なんかがとても踏み込んではいけないような巨大な。

 でもそこに、おそらくは、

 僕が長年追い続けていた巨悪が潜んでいると。囁く。

 いるのだ、そこに。

 彼女が。

 悪の巣窟。

「それで、消滅したんですか」フライングエイジヤ。「消滅させたあと、エビスリは」

対策課を立ち上げて、殉職して。

「それが、現状ではないかな。どうなってるんだ?いまムダくんたちがやろうとしていることは」

「あ、はい」

消滅していない。消滅したと思われていたが、

 水面下でひたすらに機会をうかがっていたのだ。

 復活のときを。

 復讐のときを。

 どう考えても胡子栗が危ない。死ぬだろう。

 今度こそ本当に正真正銘、殉職だ。

 スーザちゃんが危惧してたことがようやくわかった。

「そうだったんですね」

「そういうわけだから」国立更生研究所が未成年は対象外。「私は今回あまり力にはなれない。だが、甘味料の心的外傷くらいはべらべらとバラしてやれる。分析も任せろ」

「先生の得意技ですね」

脳の形而上医学的解剖。

「いいか、ムダくん。朱咲の代わりなんて務めようと思うな」

瀬勿関先生の親切な忠告を、

 しっかりと受け止めつつ。玄関横付け。

 イブンシェルタ。

 地場さんのケータイにかける。11時45分。



      2


 特急電車が通る。線路に臨む霊園。

 胡子栗茫では初めてかもしれない。

 花を買う気力が湧き起こらなかったので、線香をたく。風が強くてなかなか火が落ち着かない。松明のように燃え上がる。

 しゃがんで手を合わせる。彼が、

久永幕透が、

 本当にここに眠っていることを確信して。

 彼は死んだのだ。

 死んだ。それは確かに、真実。

 昨日のガキが真っ赤なニセモノだということもわかっている。

 昨日のガキが真っ青なホンモノを確認しに来たこともわかっている。透を殺したにっくきケーサツの一味なのかと。

 ここで寝てるってんなら、頼むから、

 静かにしててくれ。祟るなら俺だけにすればいい。

 成長途上のガキどもを巻き込むな。

 よく見ろ。お前の墓前に誰がいる。

 のうのうと手なんか合わせてるこいつが、

 お前を殺した張本人だ。

 俺に復讐せずに誰にする。

 不意に人の気配がして立ち上がる。背を向けて歩き出す。さも他の墓へ参ったふりを。しても、無駄だ。動かぬ証拠に煙が立ち上って。

「やっぱりあなただったんですね」聞き覚えのある。

「人違いです」裏声。

「待ってください」追ってきた。「ご無沙汰しています。相談したいことが」

「どなたかと勘違いしているのでは」裏声。

 枯れ草が滑る。斜面に高い踵が刺さる。

 車まで、こんなにも足がもつれる。

「オズさん」すぐ後ろで。「オズさんでしょう?間違えてません」

「彼は殉職しました」

 轟音。

 電車が通り過ぎる。

 のを待って、色黒の少年は口を開く。

「兄が生きているかもしれないんです」

 ドアのロックを解除する。

色黒の少年が助手席と後部座席と迷っている。

「俺を殺したいんなら隣がいいよ」少年を家に送り届ける。それだけの距離だ。「早く乗って」

 平常心が持つかどうか。

「生きてるわけないよ」

俺が殺したんだから。

「生前兄を慕っていた方々に会いました」

「幽霊でも見たんじゃないの?」

 色黒の少年は、俺の後頭部を見ている。

「僕は別に兄の弔い合戦なんか望んでいません。それを知っておいてもらいたくて」

「でもそいつらは、君の望まぬ君の兄の弔い合戦をすると。君を勧誘に来たわけかな。遺族代表の君こそが、憎悪の度合いが一番深いんじゃないかって」

「相変わらずです。父も母も最初から兄のことなんか見ていない。変わってないんです。兄が生きていたときも、死んでしまったあとも。僕も相変わらず、生きてるんだか死んでるんだか」

「止めてほしいわけ?」復讐を。「君だって、俺なんか死んだほうがいいんじゃない?遺族代表としてはさ」

「兄は」色黒の少年はじっくりと言葉を選んでから。「幸せだったと思います。誰からも必要とされない、誰の眼にも映らない自分が、最後に誰かの役に立てるのなら、喜んで命なんか捧げます」

 羨ましい、と。

 バックミラーに映る。

「僕の命がご入り用のときはいつでも」

「君らの狙いは何?」

 久永幕透に、

 弟なんかいない。

「言ったじゃん。俺を殺したいんなら」助手席のシートの下から。

 取り出す。

 発射する気なんかないが。

「残党?生き残り?」

「前を見てください」色黒の少年は眉一つ動かさない。

 お見通しの展開だった。というよりは、

 撃ってくれて構わない。という、洗脳。

「兄は、あなたにこんなところで死んでほしくはないはずです。僕なんかと心中してしまったら」

「あいつは死んだ」

 死んだんだ。確かに俺の眼の前で。

「生きてるわけが」

「信号赤でしたけど」

 路肩にハザード。するには犯罪的な車内。

 このまま透の弟気取りを連れてって吐かせるか。

 人質。

 こいつを返してほしくば。駄目だ。

 ガキどもに横のつながりはない。奴らをつないでるのは、絆とか友情とかその手のホットな概念とは隔絶された。

 快楽。

 その場限りの。刹那的な。

 いまこの瞬間さえよければ何だっていい。

 つい昨日文字面だけで話をした赤の他人が死のうが苦しもうが。

「兄は、あなたに感謝していたと思います」

 横断歩道を渡る歩行者を待っていた。

 やけにガキが多い。右から左から。

 視線。

 集まる。しまった。囲まれる。

 ぐるりと。

 無理に発進すればガキを四、五人死後の世界へ送ってしまう。

 ガキどもがべたべたとウィンドウに指紋をつける。

 銃口を、

 色黒の少年の眉間に突き付ける。

「お前も殺してやろうか。大好きな兄貴んとこへ」

「感謝していますよ」トールさん。少年が笑う。「僕らのつながりをここまで強固にしてくれたのは、あなたの存在あってこそだ。そのお礼と言っては何ですが」

 フライングエイジヤ

復活の、

「現場に招待しましょう。残念でしたね。ケーサツ辞めてまで僕らを滅ぼそうと東奔西走したらしいですが」

無駄ですよ。色黒の少年の合図で、

 後部座席のウィンドウが下りて。そこから、

 有色の煙が。

 外には出られない。ドアを外側から押さえられて。

 助手席側にも。

 バックミラーにすでに、

 色黒の少年の姿はなく。

 ボンネットに跨りフロントガラスに顔面を密着させた、

 砂宇土ヨウヒ。

 ああ、そうか。なんで気づかなかった。

 意識が、

 途絶える。



      2王


 トールには本当の名前がある。

 小頭梨英。

 私がオズ君と呼ぶと彼は嫌そうにする。

「近々その名前の人は殉職するんで」

 止められない。止めない。

 彼が全人生を棒に振ってでもやり遂げたかった復讐を。

私にできるのは、

 彼に、こう言って、

連日の非行をやめさせることくらいのものだ。

「そんなに待ちたいなら私を待ちなさい」

 彼は私を見上げていた。

 虚をつかれたような虚ろな表情で。

 若者の笑い声。

 眩しい電飾。如何わしい有象無象。

「あの、どういう意味ですか」彼はようやくそれだけ言った。絞り出すような声だった。

「なんだ。私を待つのは不満か」

「待つと何かいいことがあるのでしょうか」

「当てどなく誰かを待つのはつらい。だったら形のある私を待ったほうが現実的でないかな」

「別に現実的なことをしたいわけじゃ」彼は困惑の表情になる。

「君が待っているのは、形がなく非現実的なものなんだろう?」

 パトカーのサイレン。

 私を連れ戻しに来た。

「連れて行きたいなら最初からそう言ってください」彼が俯く。「悪いことをしてるのはわかってます。でも、こうするしか」

「足に自信はあるかね」

「え?あ」

戸惑っている彼の腕を掴んで。「夜の散歩といこう。ちょうど月も綺麗だ。見たことないだろう」

 こんな光も差さないビルの合間に立っていたのでは。

 見えるものも見えない。彼には、

もっと、

 光り輝くものを見てほしい。彼自身が、

 いかに光り輝いているか知ってほしい。

 私のその連日のお節介が功を奏したのか、彼は。

 夜の歓楽街に立ち尽くすことをやめた。

 代わりに私を待ってくれているかどうかはわからないが、

 ほかに、

 待つものができたのだろう。喜ばしいことだ。

 しかし、待てども私は帰らない。都合のいいことだけを言っておいて。言い逃げの。そんな私の背中を追って、

 私と同じ職業に就かせてしまったのならば。

 謝らなければならない。



      3


 地場さんは電話に出なかった。当然だ。

 出るわけがない。最初から期待はしていない。

 僕が用があったのは、

「砂宇土さんですね?」

イブンシェルタ新代表。

「どうも。毎度御馴染み対策課の徒村です。このたびは就任おめでとうございます。いや、乗っ取りですか。実はいまそこまで来てるんですよ。もしよろしければ、僕とお昼を兼ねてデートでも」

 笑っている。僕の渾身のナンパがあまりにも拙かったせいか。

 違う。

 違う笑いだ。

「その節はお世話になりました」夏の事件。

「初めて声を聞いた気がしますね」

「喋ったのは初めてですね」新代表が言う。「二代目はお元気ですか。近いうちにご挨拶に行こうと」

「それがいいかもしれませんね」社交辞令。

「リフラは、不甲斐ないそちら対策課の致命的な落ち度を僕らに提示してくれました。身を持って」

「身を持たせて」言い換える。「次は樫武さんですか」

「怒りの矛先が間違っています」新代表は動じない。「経験の浅いあなただからこそわかるはずです。対策課も祝多出張サービスもなんの役にも立たないことを」

「いま何が起こっているのか、或いは起ころうとしているのか教えてくれませんか。経験の浅い僕に」

 イブンシェルタの入り口は閑散としている。ガラス張りの外壁から内部の人工ジャングルが見えるのだが。暗くないか。

 照明が。

 落ちている。

「もしかして定休日でしたか」

「そちらも有給では?」新代表が笑う。「課長命令は聞いたほうが」

 前代表との話は、

 新代表に筒抜けだ。前代表は、

 新代表に自由を拘束されている状態とみていい。とするなら、前代表の独断に基づいたあの勇気ある密告は。

 新代表のお遣いでしかなかった。

 盗聴器付きの。

「課長が音信不通なんで、指示が仰げなくてですね」ここからは僕の推測だが。「代わってくれませんか?部下には寝てろと言っておいて自分こそが寝たかっただけという」

 雑音。

 複数の声。複数の気配。

「元は俺のもんだったわけよ」会話相手が代わった。「てめえみてえなわけのわからねえ奴にどうこう言われるような」

「昨夜はどうも」胡子栗の。「元カレさんですか」

「今日中に女転がす」

「人間ボーリングですか」これはまた。「シュミの悪い」

「っせえな。てめえらにはなんも対策できねえっつーことを思い知んな」

切られた。

 そして被害者が出た。6人目。

 23時24分。

 ○○公園。シンボルとなる噴水の溜め池に。

 浮かんでいた。

 少女。名を、

 降走満否という。

所持していた生徒手帳で確認。着衣を、

一度乱暴に剥ぎ取られたあと、再び、

剥いだときを凌ぐ暴力で、

無理矢理着せられて。水の中に捨てられた。

少女は命に別状はなかったが、

百戦錬磨の瀬勿関先生でも思わず顔をしかめるような。

ひどい。

ありさまで。集団暴行。

「こんなときにどこをほっつき歩いてるんだ甘味料は」瀬勿関先生は車を見送ってから吐き捨てる。

少女を国立更生研究所へ。

「案外人質ってたり」

 メールが来た。地場さんのケータイから。

 写真添付。

 どっかで見たことのある上司が。

「見ますか」

「甘味料の恥体くらいで課金されたら堪ったものじゃない」

「ほいほい取り立てにやって来てくれるかもしれませんよ。架空請求の」

本当に何をやってるんだ。

 本部長に報告するぞ。いや、それはそれで戦争になるか。

 戦争。

 或いは、その予感。

「荒種を呼べ」本部長のこと。「戦争だガキどもの」

 23時59分。

 その一分後、本日未明をもって。

 祝多出張サービスのあるこの町に、

 物々しいおっさんたちが徘徊することになる。



      4


 5年ぶりに会ったあの人は、

 姿も形も変えて。性別まで変わっちゃったのかと思ってびっくりしたけど、ヨルヒコが。

 踏んづけて散々罵ってたから。

 違うんだろうと。思うんだけど。

「いまどき身代金もないよね」あの人が咳き込みながら言う。口の端に血が流れる。

 赤い。

 緋い。

「痛ったぁ。これナカでイっちゃってるよ絶対」

「主賓のあなたには最高の席をあげたいので」ヨルヒコが、

 僕を見る。

 僕を見て。そうゆうメッセージを眼に込めて。

「しばらく動かないでもらいたいんです。手足を縛ったって引き千切るでしょう。かといって気絶させたら観戦できない」

「だからってさ、ここまでするこたないんでない?」あの人は、

 地面に這いつくばされて。

 ついさっきまでヨルヒコの高笑いをBGMに。

 あんまり言いたくないけど、なんてゆったらいいのか。

 暴行?

 されていた。暴力と凌辱と。

「当分動けないよ。糖分くれないと」

「すげー面白いっすね」リーダが棒読みする。椅子の背もたれに頬杖をついて、つまらなそうにあの人を眺めていた。

 されるがままなされるがまま、一切抵抗のての字もない、

 あの人を。

 助けるでもなく傍観者として。

「不満なら混ざればよかったのに」ヨルヒコが嫌味を言う。

「俺あ、あのクソガキどもとあ違えよ。なあ、俺らがやりたかったことってよ」

「君はリーダなんだから。ずっしり構えててもらわないと」

「そーなんだけどよぉ」リーダがちらりと、

 あの人は。

 積み上げられた家電量販店さながらのモニタの山を。

 監視している。

 監視カメラの映像だ。この町にある主要な。

 未成年や少年やガキが屯っている。

 夜。

 国家権力を笠に着た大人たちが駆け回る。

「あいつら、全部」リーダには結末が見えている。

「陽動だよ。囮じゃない。囮はこっちの」ヨルヒコが靴の先で蹴飛ばす。「ヘンタイ女装ケーサツ」

「だから、殉職したんだって」あの人はまだまだ余裕。

 眼、以外は。

 もしかしたら僕に気づいているのかもしれない。なんて、

 そうだったらいいな。

「戦争をしよう」ヨルヒコが言う。モニタに向けて。

 未成年と少年とガキを鼓舞するように。

「負け戦は確実だ。だけど君らは戦わなきゃいけない。大人たちに歯向かわなきゃいけない。君らはまだ」子どもだ。「束になるほかはない。勝機は我らになし。さあ、散っていってくれ。僕のために。僕らの」

フライングエイジヤは、ここに。

「復活した」

 見ていてくれているか。

かつてのリーダの僕に視線を送りつつ、

ヨルヒコが周波数を合わせる。

「迎え撃ってくれるみたいだよ。課長サンのアイジンは」

「優秀な部下がいるんだけどさ」あの人が言う。「彼、なんかしてくれてる?対策課として、課長の僕がいなくても」

「あのムダな人?」ヨルヒコが答える。「壊滅的なんじゃない?僕の正体にも気づけてないくらいなんだし」

「訊きなおすよ」あの人が眼球を動かして、

 ヨルヒコを捉える。

「僕の優秀な部下は」

「せいぜい殉職しないように見守ることだね」ヨルヒコが聞いている盗聴音声を、

前リーダ特権でちょいと盗み聞かせてもらった。

ムダくんと呼ばれているあの人の新しい部下は。

ここに向かっている。

陽動にも囮にも惑わされることなく、

真っ直ぐに。

生前僕がリンチに遭ったこの吹き溜まりに。

たった一人で。

「ムダくんがムダなのはいまに始まったことじゃないよ」あの人はわかっている。信じている。

 僕のこともそうやって、

 信じていてくれていたんだろう。でも僕は、

 無駄死にしてしまった。

 役にも立てず。逆に、

 フライングエイジヤを暴走させるきっかけを作ってしまった。

 そして、いまも。

 フライングエイジヤを再結成させたヨルヒコたちを。

 野放しにしている。

 死んだ僕に今更できることなんて、

 ないかもしれないが。

 すでに死んでいるんだ。失うものは何もない。

 それこそが、

 僕の強みだ。

「こんな場所でおんなじ目に遭わされるなんてね」あの人が呟く。

 ヨルヒコには聞こえていない。リーダにも。

 僕には聞こえた。それが聞けただけで、

 充分だ。

 僕は。

 幸せこの上ない。




 第3章 ルビィ姐さん



      1


 フライングエイジヤ一斉補導は明け方まで及んだ。

取りこぼしも時間の問題。なぜなら、

 本部長が本気だから。

 この人が本気になれば、タクラマカン砂漠の砂の中に紛れた鳥取砂丘の砂も見つけられるんじゃないかと。

 赤いランプ。

補色がちらつく。煩いサイレン。

耳鳴りがする。

3時12分。

 群衆になりたくなかった少年たちを、

 群衆でしかない大人たちが。連れていく。

 彼らがやったのだ。正確には、彼らのうちの何人かが。

 連続婦女集団暴行事件。

「荒種には悪いが」瀬勿関先生が僕に耳打ちする。「頭と手足は別物だ。頭は手足に命令したかもしれないが、手足は手足で好き勝手やっている。頭のほうも無限に手足を補充でき、頭は頭にしか見えない狙いや目的を描いている」

「じゃあ陽動だとわかっていて」

戦争とやらに応じた。

「もう帰ってもいいか」瀬勿関先生が本部長に言う。「眠くて仕方がない。過労死しそうだ」

「先生は私の指揮下にはない。ご協力感謝する」本部長が敬礼。

「ついでに言えば、ムダくんもそっちの指揮下にはない」瀬勿関先生が僕を見る。「帰してやってくれるか。上司がうるさいんでな。ただでさえ働きすぎな彼を酷使するなと」

「徒村くん」本部長が言う。

 久々に本名を呼ばれて。しかも、僕の名前なんか知らないであろう人から呼ばれたもんだから。

 吃驚して。声が出なかった。

「君にしか頼めない。連れ戻してくれ」オズ君を。を省略した。

「県警本部にですか」ジョークのつもりだったのだが。

 やはり、

この人はにこりともしない。

「任せたよ」

 そんなこと言われても。

「荒種。働かせるなと」帰ろうと歩き出していた瀬勿関先生が大声をあげる。

 僕を気遣ってくれるのはうれしいが。

 秋真っ只中の風は冷たいというのに。いまだ変わらず、颯爽と白衣をなびかせて。その美しい太腿や膝や脛を外気に曝しているお姿を。拝めただけで、

 休んでなんかいられない。

 上司だって攫われている。たった一人の部下の、

 僕が連れ戻さずに誰が。

 半分は義理みたいなもんだけど。

「わかりました。場所に心当たりは」

「ムダくん」とうとう瀬勿関先生は引き返してきた。「君に倒れられたら甘味料に、朱咲に合わせる顔が」

「ドクタストップですか」

するならしてみろ。そういう意味で受け取ってもらっても構わない。

 働きすぎでもなんでも、僕は。

 行かなきゃならない。

「きちんと有給消化しろ」

「すべて片付きましたらお言葉に甘えて」すれ違いざまに本部長から指の骨を折る勢いで握らされた紙切れを参考にせずとも。

 奴らのアジトなんか。

 すぐわかる。

 要は弔い合戦なんだろ?この盛大なセレモ二ィは。

 だったら、

 場所は一つ。死んだリーダが、

 死んだ場所。

 万年建設中の空き地。

 通りに面しており、隣の区画は空きビル。

 ブラインド代わりの白い柵が張り巡らされているが、

 立ち入り禁止にしては心許ない。容易く侵入を許す。

 4時39分。

 眩暈。

 ここまで来て。こんなところで、

 地面を歪めている場合じゃない。

 ごつごつの砂利敷き。

 何度も躓きそうになる。錆びついたドアノブまで。

 えらく遠い。

 空き地が庭で、空きビルが家。

 いるだろう。

 雨や風がしのげる屋内に。

 小型ライトの明かりがやけに眼に刺さる。見た目ほどドアは重くはなかった。開けたり閉めたりを、つい最近も繰り返している。

 剥がれ落ちた壁。スプレィの落書き。

 少なくとも3階以上。窓が三つ上下に連なっていた。

 最上階では逃げ場がない。

 2階か、1階か。

 大人しく補導される意思があるのかどうか。

 ないな。ないからこそ、

 胡子栗なんかを拉致した。

 廊下はほどなく突き当たった。両側にドアが並ぶ。

 どちらか。

 どちらも違うのか。上か。

 階段は見当たらなかった。

 外?

「着替えくれぇはしたほうがいんじゃね?」後ろだ。

 いつの間に。

 眩暈。急激に向きを変えたせい。

 利き手に力が入らない。

 利き手を掴まれていることにも気づけない。体たらく。

 あのときの、

 上下ジャージの少年。

「なんかすんげぇトコ出身だっつってたからよ」

小型ライトをはたき落される。

明かりが転がっていく。

「だいじょーかぁ?」

「どうもこんばんは」

何と言うことはない。僕の利き手は、

 時と場合に応じて交代する。

 鼻先。

「撃てんのかよ」

「逆恨みもほどほどにしてよ」体勢を徐々にこちら側へ。「特になんでもないんだって。上下関係しかない」

眼が慣れた。

 遅い。

 疲労と睡魔が僕の足を引っ張る。

「なんなら君らのお仲間とおんなじ眼に遭わせたっていい」

「仲間ぁ?」少年は息で笑う。「ガキどもあ俺の手駒だ。プレイヤの俺がどう使おうが俺の勝手つーわけよ」

引くように見せかけて、

 踏み込む。

 銃口を遠のける。

「だっせぇの」

「上司を返してもらいに来たんだ。不必要にべらべらくっちゃべってうるさいんじゃないかと思ってね」

 照準が合わない。

 手と眼の不随意運動。

「いねえ、つったら?」

「知ってそうな人間を捕まえて案内させるだけだね」

止まれ。

 ここ一番で情けない真似を晒すな。

 オーヴァワークだが。過剰労働だか知らないが。

 おんなじ意味だ。

 この一ヶ月家に帰っていない。

 対策課で寝泊り。何をしていたのかと聞かれれば、

 左遷されるまで、いや左遷されてもまだ尚ずっと追っていた悪の巣窟であるところの彼女が。

 本当に死んでしまっていたとしても、彼女が。

 属する組織が死んだわけではない。むしろ彼女を糧にして、

 さらに肥大を続けている。

 その証拠に、彼女を殺したと言い張る二代目。

 スーザちゃんが、

 実家に呼ばれた。これはもう、正式にスーザちゃんが、

 彼女の後継者に認定されたという。

 だから僕はこんなガキども相手に、

 手こずってる時間なんかない。

「どこだって?」

課長の居場所。

「知らね、つったら?」

「直接こっちに訊くとするよ」

照準、記憶野。

「吹っ飛ばされたくないよね?大切なものがいっぱい詰まってるはずだから」

「酷でぇの」少年が諸手を挙げる。「こーさん。あんた、悪人ヅラだね。うちのボスもたいがい極悪人してっけど、あんたもそーとー」

 僕が、

 悪人?僕は正義だ。だって、

 悪の巣窟を捕まえようとしてるんだから。

 正義のほか。

「黙って案内してくれる?機嫌悪いんだ」

 少年の後頭部に密着させて歩かせる。

 表に出た。

 時刻の確認をしたいが、眼が霞んで。

「どこだって?」

「無様なまでにカッコいい姿だね」新たな敵影。

 見えない。

 光る。フラッシュ。

 見えるまでの時間が致命的。もし相手がなんらかの武器を所持していたら。

 幸か不幸か、武器はケータイだったが。

「公開しておくよ。リーダの勇士だ。励みになる」

 誰だ。

 小さい。首にストールを巻いて。

 奇抜なデザインのパンツを履いている。

 ことはわかるのだが、肝心の顔が。

「んなノンキしてねえで助けてくんね?」少年が言う。

「助けたら助けたで借りがどうだとか面倒くさいしね」誰だ。「ごくろーさん。交代だ」

 衝撃。手の甲と、

 みぞおち。

 速い。

 捕捉できない。のは、少年の戦闘能力じゃない。

 僕の、

 パラメータが軒並みレッドアラート。

 銃を手放すのだけは回避したが。

「君がボス?」脳天を見下ろされているという絶体絶命の。「極悪人て有名だよ」

「まだ気づかないんですか」闇が晴れる。

 夜も、

 明ける。

「僕ってそんなに印象薄いですかぁ?」

 パンダの呻き声。

 ドップラする。

「飛んで火に入る秋の」

 夏だ、とツッコむだけの親しさは僕らにはない。

 イブンシェルタ新代表。

 どうして。

 突然、

 全身の力が抜ける。地表に吸い寄せられる。

 頭は清々しいほどに冴えきっているのに。

 身体だけが、

 首から下がゆうことを聞かない。お前らは、

 唯々諾々と脳の命令を聞いていればいいんだ。

 なんで無視する。

 抜けていく。全身の、

 力という力が。

 意識はこんなにもはっきり。

「掛け持ちで大変ですね」

この眼球でラスボスの姿をくっきり捉えているってのに。

 何もできない。

 動け。どうして、

「そちらの人殺し女装課長は用が済み次第返します。ただ、用が済んだあとに使い物になるかどうかはわかりませんけど」唇が三日月のように歪む。

 砂宇土夜妃。

「ここまで巡礼に来てくれたお礼に一つ」サンダルを履いている素足。「イブンシェルタは本名を名乗りません。知ってますね」

「お名前は」

 塑堂夜日古。

「後夜祭も派手になりました。あなたのお陰で」新代表兼ラスボスは、カーテンコールのごとくお辞儀をして。

 立ち去る。のを、

 ただ黙って何もできず見守ることしかできなかった。

 ざまあない。

 瞼が重い。



      2玉


 店主は常習的に朝帰りする。その仕事柄。

 ドアの前で待ち伏せていた。

 疲れた顔がエレベータを降りる。話しかけてくれるなと言わんばかりの。

しかしこちらとて「話が」あるのだから。

 店主は聞こえていないふりをして事務所の中へ。

 追いかける。

「ガキどものことなんですが」

「セキに訊いたって?」店主は、俺に構わず服を脱ぎ捨てる。歩いた道筋に仕事着が点々と。「お風呂入りとーてかなん」

外したメガネをテーブルに載せる。

 たかが女の裸くらいで。

「どこに収容れて」

「どこかてええやろ」店主がバスルームに消える。

 開け放つ。

「どこへやったんですか」

 店主は脳天から全身にシャワーを。

 ノズルを奪う。

「返しぃ」手も伸ばさない。視線も向けない。

「答えてください。ガキどもをどこへやったんですか」こっちは視線を合わせようと必死だってのに。

「殺した」

「全員ですか」

「嘘や。ウソ」ノズルを持つ俺の手を覆う。「せやからセキに訊いたらえええやんか」

「あそこにはいません」湯が掛かって服が濡れる。「いるはずがない。いるわけない」

「見てきたみたいやな。おらんかったん?」

「あそこは更生可能な奴しか容れない」

 店主が嗤う。

「そか。治らんのか」

「治らない場合は、どこに行くんですか」

 店主はノズルを奪還することを諦めてバスタブの縁に腰掛ける。

「知ってますね?」

「知らん」蛇口に切り替えて湯を溜める。「出てってくれんかな。アチはお風呂は一人でゆっくりしたいん」

「生きてますか」

「殺す価値もおうへんて?」

 お湯の出ないノズルを壁に戻す。

「あれだけの人数がいなくなれば大騒ぎになります」

「あれだけの人数戴いといてなにをゆうとるん?」店主はバスタブの底に足をつける。縁に腰掛けたまま。「大騒ぎになっとるんか?大騒ぎになるだけの価値はおうへんよ」

「どういう意味ですか」

「そんだけの存在ゆうこと」店主は濡れた髪を払う。「いてもおうへんでもどないでもええような存在やゆうこと。捜索願もなあんも出てへんて。哀れなガキや」

「親も誰も捜してないと?」

「いらんて。あないな出来の悪い汚点」

 店主の肩を掴む。

 冷たい。

「アチが悪いんか」

「どこに行ったのか教えてください」

「知ってどないするん?助けるんか。あんたが?てっぺん殺ったんどこのガキ集団や。その復讐と違うたんか」

 手を離す。

「他を」

「他を当たり尽くして茫然と立ち尽くしとったのと違うん?ええのか。アチを追い詰めんで」

「追い詰まりますか。俺くらいで」

「すっかりつまらんおぼこやな。価値おうへんかったやろ?復讐。気ぃ済んだか」

 バスルームを出ようとしたところを押さえられて頭を、水浸しの床に。天と地が反転する。

「ついでにアチと戯れてんか」長くコシのある黒髪が、俺の顎から首にかけてをくすぐる。「話があるんはあんただけやない。アチのだいじなもん、どないにしてくれたんやて?」

「だいじなものなら名前を書いてください。所有権がいまいちわからなかったもので」枯れ枝みたいな指が身体中を這いずり回る。「妖怪露出狂のものじゃなかったんですね。すいません、てっきり」

 不快感。

 異物感。

「この落とし前、きちんと払うてくれんのやろ」

「ここで?ですか」3Fで。

「下の下の下の下でもええねんけど」B2の。

「そっちを選んでも結局はいまここで落とし前とやらをつけさせられるんですよね?元はと言えばあっちが条件出してきたんだけどなあ。真実の見返りとして」

「その真実頼りにアチを揺さぶりにきよったんか」

「あれ?揺さぶられてます?もしかして、もしかしなくても」膝を立てる。小突く。

 挟まれる。

 さながら、すりこぎで粉々にされている胡麻の気分。

「地位も人生もなんもかんも棄てて復讐が、女装してガキに犯されまくる方法やゆうて聞いたときは、ここのネジの吹っ飛んだアホや思うたけど」枯れ枝が俺のこめかみを撫でる。「ここまでのずアホやとは思われへんかったわ」

「そろそろ殉職どきですかね」

「なにをゆうとるん?死なせへんよ。アチのもん寝取った罪は、あんたのつまらん命一個で償えるようなもんやない」店主は本気で怒っているらしかった。

まさかこんなに容易く逆鱗に触れることができようとは。

 あの下半身脳のどこがそんなにお気に召したのか。泣いてご教授願いたい。

 そのあとのことは、思い出すだけ容量の無駄遣い。

 でもひとつだけ。

 泥の底のような暗黒の中から、再び俺を単一の個体だと認識させてくれた強烈な一撃。光であり稲光であり。

 あのとき確かに小頭梨英は殉職したが、その代わりに。

 蘇った。

 わけのわからない死に損ない。そいつが、

 生命復活の起源たる雷撃に畏怖やらなんやらを抱くのは、

 当然至極であり。

「ごきげんよう。お初にお目にかかりますわ。わたくし」その少女は、死体よりひどい俺をくんずほぐれつの渦から拾い上げて。

 人体改造を施すことにより、とかく自分好みの、

 正義のヒーローを生み出すマッドサイエンティストを気取りたいらしかった。

「あなたは本日このときよりわたくしのものですのよ」

 ボーくん。

 少女が付けてくれた名前は、きっと。

 暴君でなく。

 亡君の。ほう。



      2


 俺の命で償えるのなら、とっくに殺している。

 殺さないのは、

 殺して終わりにしたくないからだ。

 強姦に死刑。を掲げるイブンシェルタの新体制とは、

 矛盾しないだろうか。

 強姦に永劫の苦しみ。を推進するセナセキの実験場・国立更生研究所の意に沿っている。

 これ以上の苦しみがあろうか。

 死んだはずの透が、

 地べたの俺を見下ろして。

 手を貸してくれている。起きあがれと。

 こんなところで寝転がっている場合ではないと。

 いよいよ幻覚を見だした。

 死期が近いか、むしろ反対に遠ざけられているか。

 塑堂夜日古は、覗き見と盗み聞きで眼と耳が塞がっている。

 幽霊なら声を出さずとも会話ができるか。

 成仏できなかったの?

 透は首を振る。声は出せないようだった。

 なんで俺に会いに来たわけ?呪いに?

 透は首を振る。心なしか悲しい表情で。

悲しい表情だと思い込みたいだけだ。

「怨んでないの?」塑堂夜日古が言う。もしかしてもしかしなくとも、幽霊に話しかけている?「手なんか貸す必要ない。汚れるよ」

 透は何かを言いたげに。

「帰せ?どうして。一番憎んでるのは」

「独り言の途中悪いけどさ」独り言じゃなきゃなんだ。「対策課が生ぬるいってんならどう?やってみる?課長、譲ったげようか」

 塑堂夜日古がヘッドフォンを外して。

 椅子を回転させる。

「二代目も同じセリフを言ったそうですね。相手はスイナだったけど」

「二代目の座を奪いたいなら相談しておくよ。課長の椅子だっておんなじだ。君らがやりたいことってそうゆうことじゃないの?」

 塑堂夜日古は、俺を睨んでいる。

「二代目の座は相談しておくとして。課長の椅子はあげる。だからフライングエイジヤ解散してくんない?復活したばっかで悪いけどさ」

「お前はまたそうやって」塑堂夜日古が立ち上がって。

 俺を視線の重力で押し潰せる距離まで来る。

「僕らの居場所を奪う。居場所のなくなった僕らがあのあとどうしたか。どんな思いで今日まで生き抜いてきたか」

「わかった。君らが拘泥するのはフライングエイジヤそのものなわけだ。そこまでだいじなら、なんでガキにあんなことさせたの?おっかないお巡りさんたちがうようよしちゃってるじゃん」

「奴らをメンバと認めた覚えはない」

「あれ?責任転嫁? ガキどもはかの憧れのフライングエイジヤの一員としてあんなことやこんなことに手を染めちゃってるわけだよ?」

いける。落とせる。

 やはりガキはガキだ。塑堂夜日古。

「いまごろお巡りさんにあることないこと訊かれて自信満々に堂々答えてるんじゃない?俺らはフライングエイジヤとしてクズな大人どもに制裁を、とかって」

「うるさい。黙れ」

「誇りあるフライングエイジヤの看板を穢されたくなかったら即刻自首するこったね。それか、ホントにやってみる?課長」

 塑堂夜日古が顔を歪めておし黙る。

「解散。すべきなんじゃないかなあ」

「そうやってトヲルを唆したんですね」塑堂夜日古が言う。怨霊に取り憑かれたような裏返り音量で。「しません。解散は。解散なんかしたら」

「居場所なんか他にいくらでも作ればいーよ。もっと楽しいことをしよーよ。せっかく若いんだから」

 塑堂夜日古の視線が上方へ吸い寄せられる。

 透の幽霊がいる。

「本当に満足だったわけ?そんな、だけど」

「んなわきゃねーだろーがよ」リーダが戻ってきた。食料の買い出しに行ってきたのだ。「なにほだされてんだよ。くだらね。トヲルさんはそこに転がってるヘンタイに殺された。そんだけだろーが」

「ヘンタイってのは酷いね。これ、仕事でしかやんないんだよ?」

「てめえはこいつでも食って次の手考えろ」リーダが中華まんを手渡す。「マイナがタイマン張って最前線で戦ってんだ。俺らがバックアップしねえでどーするよ」

「ごめん。おいしい」塑堂夜日古が中華まんにかぶり付く。中身はこの位置から見えない。

「もの欲しそうだな。おらよ、口開けろ」

「毒入りじゃないだろうね」

「食ってみりゃわかんじゃね?欲しかったんだろ糖分」リーダが、俺を仰向けにひっくり返す。「てめえまだ芋虫してんのかよ。そんなにヨかったのかぁ?」

中華まんを二つに割って。

 中の、こしあんが。

 俺の下腹部に落ちる。

「うーわ、汚ったね。しっかり口開かねえからだぜ?」

 視界が点滅する。

 絶対ミミズ腫れに。

「そうゆうオヤジギャグは倦厭されるよ?女の子相手には使わないほうがいいね」

「まだ足んねえみてえだな、糖分がよ」リーダは中身を割りばしでほじくり返して。

 下腹部のさらに下部に落とす。

「おいおい、ヘンタイにもほどがあんぜ?見苦しいからこうしてやるよ」中身が完全になくなった中華まんの外部を、

 下腹部のさらに下部に被せる。

「ひっでえ。ちょい、ヨルヒコ。お前写メ撮れよ。傑作」

「将来ねちっこいオヤジになるね」

「俺らにしょーらいとかねえだろ」リーダの顔が真面目に。「しょーらいなんざ。俺らには」

「そうだね。僕らには時間がない」塑堂夜日古も頷く。

 ここでいきなり不治の病持ちとか余命数日数週間とか言わないよね。

 そうなの?空気がしんみりする。

 なんだかなあ。

「そっか。最期まで悔いがないようにね」百パ嘘だと思うけど。

「そうだな。最期まで悔いが残らねえように」リーダが、

 俺の下腹部の下部に座る。

 両足を持ち上げる。

「悔いは残しちゃいけねえよなあ。そこで見てる自縛霊みてえになっちまう」

 リーダにも見えているのか。

 死期が近い奴には見えるらしい。

「ゴム買ってきた?」塑堂夜日古が気のない注意を。食料を脳の栄養にすべく勤しんでいる。「輪姦わさせてるときは乗り気じゃなかったと思うけど。待ってたの?」

「だってこいつ穴1コしかねえんだもんよ」



      3


 夢の中でも時刻を確認していた。

 果たしてその時刻が夢の外とも合っているのか、はたまただいぶずれているのかを確認したくて。

 覚醒する。いつもの目覚め。

 6時33分。

 夢の中は、

 6時30分。3分進んでいる。

 落ちていたのは3分だけか。

 身体中が軋む。

 空が見えない。

 おかしい。記憶に残る最後の体勢は、

 うつ伏せだったはず。

 空が見えないのは、ああそうか。うつ伏せなら空は見えない。

 が、砂利も見えない。痛くない。

 背中が柔らかいものに包まれている。

 手でつかんだのはどうやら毛布のようだった。

 どこだ?

 フライングエイジヤのアジト?にしては、メルヘンな。

 新代表というかボスとやらの趣味か。

 砂宇土夜妃。

 塑堂夜日古。

 彼女は僕を殺さなかった。ということか。

 殺す価値もないか。

 ラスボスを前にして疲労にやられるなんて。

 反省はいい。課長奪還作戦は失敗したわけだから。

 瀬勿関先生の言う通りだ。

 本部長の言う通りにできるわけがない。

 課長の安否が危ぶまれるところだが。どうして自分から逃げようとしない。逃げられないような拘束がなされている。監禁。

 するだけの価値が、奴にはある。

 フライングエイジヤの初代リーダが殺されるきっかけを作った、

小頭梨英には。

 甘んじて殺されるつもりなのか。冗談じゃない。

 いったいどこの部下が、

上司の死体を片づけると思っているんだ。

 面倒と手間を残して死ぬな。腹が立ってきた。

「ああ、よかった。このままお目覚めにならなかったらわたくし、キスでもしようかと思いましたのよ?」スーザちゃんの声。

 スーザちゃん?

「よかったですわ。本当に」

「ちょっと待って」どう見てもスーザちゃんだった。「なんで?実家帰ったんじゃ」

「飛んで帰ってきましたわよ。飛行機ですけれど」スーザちゃんは灰色のワンピースに山吹色のエプロンをしていた。

 そういえば、いいにおいが。

「なんか作ってたの?」

「ムダさんがお目覚めになったとき、お腹をすかしているといけませんもの。いまお持ちしますわね?」

 ご飯とみそ汁と焼き魚と和えもの。

 家庭科の教科書から飛び出してきたみたいな典型的な朝ごはんの図だった。案外そうかもしれない。写真に魔法をかけて実物にしたとか。

「どうぞ?お召し上がりくださいな」

「これ、スーザちゃんが作ったの?」魔法じゃなくて。

「まあ、失礼ですわね。せっかくの新婚気分が台無しですわ」

 新婚だったのか。

 そろそろ反論しないと勝手に婚姻届けとか提出されかねない。

「いただきまーす」

「お代わりもどんどんなさってくださいね?もう、三日も飲まず食わずでお眠りになってたんですもの。三日分お食べにならないと」

「え、なんだって?」みそ汁が変な所に入りそうになった。「三日も寝てたの?」

「ええ、空き地に転がっていたムダさんを拾ってここに運んで来てから」

三日経っている。

 日付まで見ていなかった。確かにそうだった。

 三日経ってる。

「胡子栗は?どうなったの?」格段に生存確率が減った。

 三日だ。

 三日も何もせずに。

「僕だけ拾ってきたの?」

「落ち着いてくださいな。ボーくんは鋭意捜索中ですわ」

「捜索中って。わかんないの?GPSは」

 わかっていたらとっくに捜している。

 そんなことわかっている。

「大丈夫だよね?」

「人質の価値は交渉の意思があるか否かですわ。ボーくんを人質にし、わたくしのここ」祝多出張サービス。「並びに、対策課の解体を求めているとは考えられませんわね。攫う相手を間違っていますもの。あのボーくんを囚われのお姫などにして」

「でも囚われの姫なら」殺さない。殺す意味がない。

 なぜならば、囚われの姫は。

 交渉道具の域を超え。

 姫を捕らえることそれ自体に目的があるのだから。

 その美しすぎる姫を力づくでも我がものに。

「殺すために攫ったとしたら如何です?」

「拷問とかされてるね」苦しめて苦しめて苦しめたその結果、

 結果としての死。

 ああ、死んじゃった。という。

 使い物にならなくなる云々はそういう意味か。

「あの空き地なんだけど」先代リーダ最期の地。

「ええ、わたくしも」フライングエイジヤのアジト。「ですが、すでに撤収されたあとでしたの。ムダさんが殴り込まれる直前までそこに本陣を構えていたと思われるのですけれど」

 他に移ったと。その場所がわからないと。

 胡子栗は死ぬ。

 時間をかければかけるほど無残な姿で発見される。

 いや、むしろ自分の犯した罪の重さに耐えかねて、

 さっさと命を手放しているか。

 死ぬも已む無しと。

「ほんとに見つからないの?」

「お食べになって」スーザちゃんが息を吐く。「まずはそれからですわ。また倒れられては、わたくしもう」

「心配掛けた?」

「ええ」

「ごめん」

「わたくし以外に謝ってくださいな」

 働きすぎだった。

 こうなることがわかっていたから。

 瀬勿関先生。

 胡子栗課長。

 僕は私怨に支配されすぎている。

「ごちそうさま」すごく美味しかった。

 睡眠もそうだけど、

 食事だってまともに採っていなかった。

 害されないと気づけない。なんて愚かな。

「はい。ええ、わかりましたわ」スーザちゃんは電話をしていた。

 僕と眼を合わせる。

「どうしたの?」嫌な予感しかしない。

 課長が変わり果てた姿で。

「見つかりましたわ」

「生きてるの?」

 スーザちゃんは、うんとも違うとも言わずに。

 ビルの外へ。

 7時14分。

 見覚えのあるいつものワゴンがやってきて。

 中から、

 ぼろぼろのぼろ雑巾みたいな。

 変わり果てた姿には変わりなかった。胡子栗が。

「早く。セキさんを」スーザちゃんが叫ぶが。

「ご心配おかけしました」胡子栗が深々と頭を下げて。「お早いお帰りで」

誰とも眼を合わせないようにするための。

 中身のない謝罪だ。

「この度の報告をしたいのは山々なのですが、一日だけ戴きたいのです。今日一日で構いません。処分もそのあとで必ず」

「何をするおつもりですの?それによりますわ」

「この下らない命はスーザちゃんのものです。それはわかってるつもりです」

「つもりでは困りますわ。わたくしのものです。勝手にどうこうしようなどと、許されることではございませんのよ」

 生命の証が感情だとは言い切れないが、とにもかくにも感情をどこかに置いてきたり。根こそぎ奪われた、というよりは、

 表出すべき感情を。

 表出されないように抑え込んでいる。その手の表情だった。

 僕には横顔しか晒さない。

「一日でいいのです。今日一日だけ。お願いします」自分の要求が通らない限り頭を上げないだろう。

「一日だけ放っておけと?監視も盗聴も付けずに」

「死ぬことだけは最低限避けます」

「当然ですわ。わたくしの拾った命ですもの。ボーくんは、その思想ごとわたくしの所有物ですのよ?お名前も書いてありますのよ。憶えていて?」

「了承していただけますか」

「死んでいなかったと?」

 フライングエイジヤの前リーダ。

 小頭梨英が看取った。

「生きていたとでも?そんなの」

 幽霊。

「スーザちゃんは幽霊って信じます?」胡子栗が、

 時間差で僕を見る。

 幽霊でも見たような顔で。

「ムダくんは?いると思う?生霊でもいんだけどさ」

 やっと視線が合ったと思ったら、こんなふざけた質問。

 ふざけるなよ。

「幽霊だ?いるわけないでしょう」

「それがいたんだよ。困ったことにね」胡子栗が引き攣り苦笑い。

「それを確かめに行くと?もう一度」スーザちゃんが言う。「次はその程度では済みませんわ。今度こそお命が」

「なんでわざわざ殺されに行くのさ」胡子栗がビルの出入り口へ向かう。エレベータの↓を押して。「もうヤんなっちゃったわけよ。生きてるのも死んでんのも。このよくわかんない仕事も。だから一日だけサボらせてってそうゆうことです。そんじゃま、おいとま」

箱の中へ消える。

 B2へ下りてった。奴の根城。

「どうすんの?」追うのか、それとも。

「幽霊というよりは亡霊かもしれませんわね」スーザちゃんは、お面なし部隊から受け取ったメモリをちらつかせる。「お目覚めになったらお伝えしようと思っていたのですけれど」

 フライングエイジヤ前リーダ・久永幕透。

「三日ほど前にダイオさんが地引網をなさった際に引っかかったすべてのお子様が、自分こそが」

 フライングエイジヤ現リーダ・久永幕透。

「そう主張されているとのことでして」

「ちょっと待って。誰?発光ダイオードさん?」文脈から何となく誰のことかはわかったが。「え、なんでダイオ?」

 電話が鳴る。

「大丈夫かね」絶好のタイミングで連絡を寄越してくれたダイオさん。もとい本部長は相も変わらず。「オズ君は。戻って来たと聞いたが」

「有給だそうです」ダイオキシンの略か。「あの、スーザちゃんに聞いたんですけど」

 フライングエイジヤのガキどもが。

 揃いも揃っていまは亡きリーダの名を唱える理由。

「どうなっとるんだ」本部長が言う。

「死んでないんですよ」ガキどもの中では、

 生きている。

 生ける伝説となって。フライングエイジヤは死んでない。

 死なない。

 それを信仰している。

「不滅ってことでしょう」

「わたくしはそうは思いませんわ」スーザちゃんが言う。「このままではモグラ叩きも同然。さあ、ムダさん?わたくしの手をお取りになって? いざ、亡霊退治に参りましょう」

「具体的に何するの?」

「取り調べですわ。お得意でしょう?」

 またこの展開だ。




↓↓↓






エリストマスク 第2稿 補足という名のツッコミ


 はい。案外激しい展開でしたね。こっちもすっかり忘れてたので、え、ここで終わり?つづきは??とか思ってしまった。いや、本稿読めよってゆう。

 スタンドプレーが目立つ胡子栗課長はこの段階からあったようですね。そんなことしてるから殉職するんだよって言いたくなりますが。本人喜びそうですけど首輪必要ですね。

 本部長の出番多いですね。準レギュくらいのポジがちょうどいいかなと思いますが。

 初稿のときもそうでしたが、祝多出張サービスが入ってる雑居ビルのB2階がきちんと機能している(シャワー使ったり)のが驚きですね。あすこ、○○劇場じゃなかったっけな。

 初稿には謎のなっしーが出てましたが、第2稿は本稿と同じく、少年課のオズさんは殉職したことになってますね。

 有給取得の仕組みが謎ですね。この部署そうゆう書類必要なんだろうか。

 第2稿でもスーザちゃんは実家に帰ろうとしますが。この空港はセントレアでしょう。電車が嫌いなスーザちゃんですが、単に乗ったことないからではないかと。こっちでも黒ワンピに黒カーディガンですけど、あれ? 四聖獣と季節の対応を勘違いしてたのかしら。

 やっぱりムダ君の新人臭さというか無能っぷりが拭いきれていない。そこらへんが初稿と第2稿のボツ原因のような気がしてきました。内容と展開如何というよりは。

 フライングエイジヤの成り立ちが本稿とだいぶ違いますね。胡子栗課長がなんでフライングエイジヤにこんなにこだわっているのかていう動機部分の補強としては、やっぱり創始者だからってところに落ち着いたんだと思います。

 本部長の巻いている手ぬぐいは、胡子栗のプレゼントなんでしょうね。本稿だとリンゴ柄だったかな。なんでリンゴだったのかは、サブタイトル解説にて。

ムダ君結構県警本部に出入りしてますね。それに本部長的にはムダ君のことは百害あって一利なしな敵対関係なはずなんですけどね。割とフツーに話しかけていて吃驚。

胡子栗が墓参りしている場所なんですけど、ここだけ名古屋じゃないです。いや、場所は架空の名古屋のどこかなんでしょうけど、モデルにした場所が、筆者の地元のとある墓所です。線路と墓所がホント近いんですけど、如何せんローカル線なのでそんなに電車来ないです。

 瀬勿関先生が本部長のことを名前で呼んでますね。大王ってゆうアダ名付けたのが先生だったはずなので(4作目参照)ここらへんも関係性が定まっていませんね。

 クソガキに悪ってゆわれたくらいでイラついてるムダ君が初々しいですよね。ムダ君がそこらへんのガキ相手に後れを取っているのは、どうやら過労で身体的にも精神的にも限界が来てるからっぽいですね。ああ、それで、休めとか有給だとか言われてるのかな? 状況設定がいまいちわかりませんが。何してたんだろう? 祝多さんのケツ(比喩)でも追いかけてたのかな?

 章の合間に入るフラッシュバックシーン(数字の後ろに漢字一文字がひっついてる断章のことです)は割と本稿にそのまま引き継がれていますね。

 囚われの胡子栗が幽霊の透くんと話してるシーンですけど、ガチで幽霊なのか、単なる幻覚なのか、どうだろうかなと。本稿でもそんな感じで迷いに迷って、結局どうなったか。本稿振り返りのときに分析してみますね。

 穴が一個の件は、胡子栗の身体の性別がどっちなのかっていうことを間接的に表現しただけなんですけど、ただの下ネタになってるのは、筆者の力不足以外の何物でもないとゆう。この場を借りて謝罪を致します。

 実家から飛んで帰ってきたスーザちゃんのワンピの色が灰色で、山吹色のエプロンてちょっと可愛い。本編では着てない色なので新鮮。スーザちゃんの、本部長の呼び方も独自性ですね。本稿では大王様になっているはず。ダイオ(―ド)(キシン)さんはちょっと面白いかもしれない。

 ところで、胡子栗て「スーザちゃん」て呼んでましたっけ? 「ご主人」だった気がしないでもないですが。


 ざっと見ていくつもりでしたが、ボツ稿も掘りかえすと案外面白いですね。他の話でもボツ稿あったら積極的に公開していきたいと思います。

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