ローバード・デュウニュウアーリー
おんぷがねと
第1話 お菓子
ドカーン! と大きな物音がした。
巨大なロボットが斧を振り上げた。その斧が男の右足に突き刺さる。
男は「ぐわっ」と声をあげた。だが良く見ると、突き刺さったところから血が驚くほど流れていなかった。
その場にしゃがんで、突き刺さったものを抜こうとしたが抜けなかった。
そうこうしていると途端に周りが暗くなった。
「どうした?」
しーんと静まり返った町を見回した。閑古鳥が鳴くようにまったく人の気配はなかった。
ドスン! と地面が揺れた。
「ぐわっ」
カラン……とどこからか鐘のなる音が聞こえてきた。
すると、どこかに隕石が落ちた地響きが男のいるところまで聴こえてくる。
辺りを見回すと外灯が見えた。そこまで歩こうと思い、スラリと立ち上がるとさっそうとそこへかけていった。
ベンチが見えた。ゆっくりと腰を下ろすと自動販売機が目に入り、缶コーヒーを買おうとそこへ向かうと、タバコの自動販売機だった。
「ちぇっ」
仕方なく、タバコを購入した。いっぷく吸うと空が白く見えた。白い煙がもくもくと青空へとのぼっていくのが見えた。
タバコを1本吸うと床に灰が落ちる。それを靴でもみ消す。
「……電話」
近くに電話ボックスがあるのに気がついた。そこへ恐る恐る歩いていきドアを開けた。
ガチャガチャ……ツーツー何も聞こえない。
「クソっ!」
ポケットに手を入れると、さっきのタバコでお金を使い果たしてしまっていた事に気づき、電話ボックスを後にした。
「仕方ない」
携帯電話に電源を入れた。電光掲示板の光が顔を映し出している。
ピーーンとその電光掲示板は真っ暗になった。電話の電池メモリがなくなってしまった。
「ふうっ」ひと呼吸して、またタバコにマッチで火をつけた。
途端に雨が降ってきて、せっかく点けたタバコの火が消えてしまった。
「あぁ」男は残念そうに顔をしかめた。
途方にくれてテーブルの上においてある掛け時計を眺めていると、秒針がちゃんと動いていて律儀に時を刻んでいた。
「夕方の4時か……そうか!」
と言って、いきなり街角へと走り出した。
レンガ風の建物を路側帯に沿ってゆっくり歩いていくと、見知らぬ女性が立っていた。白いドレスを着て茶色のカゴを持った女が男を見ていた。
「マッチはいかがですか?」
「マッチ? そうか、君はマッチを売っているんだね」
ズボンのポケットに手を入れながら男は聞いた。
「いくら?」
「おひとつ500円になります」
ポケットを探ると500円玉らしきものが男の手が触れる。
「はい500円」
「毎度ありがとうございます」
歩きながらタバコを吸おうと先ほど買ったマッチを素早くポケットから出した。
すると手が何かに引っかかりマッチを落としてしまった。
「あ!」
ポチャっと音が響いた。マッチはマンホールの穴へと消えていった。
地面を蹴ってもう一度マッチを売っている女のところへ戻ると、その女はニコッと男を見て微笑んでいた。
「も、もうひとつマッチをくれないか」
「ハイ! 500円になります」
男はもう一度ポケットを探って500円を取り出した。
「じゃあ、コレで」
女はカゴに手を入れると笑顔でささやいた。
「ごめんなさい、もう売切れてしまったの」
男は500円を握り締めたまま下を向いて残念そうに言った。
「そうですかぁ、わかりました」
ワンワンッ! いきなり犬が尻尾を振りながら駆け寄ってきた。
「なんだ? こいつは?」
男はそっとなでてやると犬は道に寝そべった。
それから近くにあった石を遠くへ放り投げると、突然犬はどこかへと駆け出した。
しばらく経って犬は戻ってきた。
「どごへ行ってたんだ? ん?」
見ると口には野球ボールをくわえていた。
男はまた近くにあった石を遠くのほうへ投げてやった。すると犬は勢いよく立ち上がり、くわえていたボールを地面に落とした。
「なんだ、またボールを取りに行ってくれないのか」
ピーンポーンとどこかで呼び出しの合図が鳴った。
――え~今から校庭に集合せよ。
見知らぬ男の声がした。その声が聞こえなくなると辺りは急に静かになった。
男はその声を聞き流して歩き出した。中央分離帯を歩いていると目の前に茂みが現れた。
「茂みかぁ」
男は手で茂みを掻き分けながら奥へと進んでいった。
草の根を掻き分けながら進んで行くと遠くのほうに看板らしきものが置いてあった。
「あれは!」
男はその場で勢いよく立ち上がり看板まで全力疾走で駆け抜けた。
バス停、看板にはそう書かれてあった。
辺りを見ると、バス停らしきものが目に入った。近くには屋根のついた停留所が配置してある。
男はそこまで歩いていきバスを待った。
しばらくして、エンジン音が男の耳に入ってきた。
「来たか」
法廷速度40キロでタクシーが走ってきた。
「タクシー?」
タクシーは男の目の前に止まってドアを開けた。
「乗れよ」
タクシーに乗っていたのは中年のオヤジ。その声がドア越しから響いた。
訳もわからず男はそれに乗るとタバコに火を点けた。
「南へ行ってくれ」
男は適当な行き先を運転手に言った。
「南ね」
そう言って運転手はアクセルを全力で踏みつける。
「ふぅ」と男の吐くタバコの煙が窓越しから抜けて勢いよく消えていく。
「ふふ、何者なんだ?」
ニヤリとしながら、バックミラー越しに運転手は言ってきた。
男はその場にタバコを投げ捨て靴でもみ消すと、怒気のある声で返した。
「ァんだと?」
「この町の人間には見えない」
お互いがミラー越しににらみ合いながら言い合った。
「この町は森が広かった、3番街には林があるはずだった」
「へぇ~どっからの情報だ?」
男は前のめりになり、タクシーのオヤジを脅した。
「話はおしまいだ。貴様の声と仕草は覚えたからな。もし誰かに話したら警察に通報する、いいな」
運転手は冷や汗を出しながら前を見てハンドルを握った。
「ああ、誰にも言わない……だがひとつ聞いていいか?」
「なんだ?」
「あんた名前は?」
男はシートに背中を持たせ、足を組んでタバコを吸い始めた。
「俺かぁ、ォれあ、ローバード、ヂュニュウアリー……ゲホッ! ……デュウニュウアーリーだぁ」
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