第99話 何度もゲームオーバーになっては
真一は再びバーチャル空間へと入る。
先ほど
『おいどうした真一? 制限時間のことを忘れたか?』
バーチャル空間に入ってから動かない真一を見て、
「うるさい、分かってる!」
真一はそう言って、剣を構える。もう考えなしに突進するようなことはしない。
今度こそ、冷静に。絶対に一矢報いてやる。
「あら、来ないのね? なら、こちらから行くわね」
御月は手にしたナイフを振りかぶる。
どういうつもりだ? 真一の頭に疑問が浮かぶ。
真一と御月との間の距離は数十メートル。短いナイフ一本では到底攻撃が届く距離ではない。ではナイフを投げるつもりだろうか。いや、どれだけ速く投げられたとしても、所詮は直線的な攻撃。防御を得意とする真一には当たらない。
何かが来る。そう考えて、真一は防御の構えを強くする。そんな彼を前に、御月は叫ぶ。
「放て! 堅牢剣!」
御月のナイフが金色にきらめき、その光は長く巨大な刀の姿を形取る。
「行くわよ!」
御月はニィっと笑い、そのままナイフを振り抜いた。すると、巨大な刀は無数の光の刃に姿を変え、真一に向かって襲いかかる。真一はその光景に圧倒されながらも、堅牢剣を眼前に構え、防御する。
それは一瞬の出来事だった。しかし、真一ははっきりと認識していた。
飛ばされてきた最初の刃を真一が防ぐと、次の瞬間には真一の剣は吹き飛ばされていた。御月の放った刃の威力は、衝撃を吸収する堅牢剣の能力がまるで意味をなさないほどの圧倒的な攻撃力だった。その後、真一はなすすべもなく数の刃によって八つ裂きにされ、気づいた頃にはシミュレーターから排出されていた。
「……」
戻ってきた病室で、真一は一人、言葉なく目を見開いていた。色々な感情がないまぜになり、心を整理しきれない。
御月の持っていたナイフは、超小型サイズの堅牢剣だった。彼女はそれを今日初めて使ったと言う。それなのに彼女は自分以上に堅牢剣を使いこなし、一瞬にして二度も倒されてしまった。
しかし、不思議と嫌な気持ちはしない。
真一は再びシミュレーターを起動させる。そしてバーチャル空間に入るなり、モニターに映る
「晶子さん。僕がシミュレーターから排出されるようなダメージを受けた時、毎回現実でシミュレーターを起動させなくても、瞬時にこちらに戻ってくるように設定することはできますか?」
それを聞いて晶子は一瞬驚いたような顔をしたのち、
『えぇ、もちろん可能です!』
「では、そうしてください。一分一秒が惜しいので」
『分かりました。……設定完了です!』
「ありがとうございます」
この時、真一はある意味ではすでに諦めていた。今の自分では御月に勝つことはできないと。しかし、それは前向きな諦めだった。真一はワクワクしていたのだ。決して勝てない相手に、一体自分はどこまで食い下がれるだろうかと。それはまるでゲームの攻略をするように、何度もゲームオーバーになっては、作戦を立て直して再挑戦するような精神状態。幸いなことに、御月の武器もまた堅牢剣。彼女にできることは、おそらく真一にも可能だ。ならば全力で彼女の能力を引き出し、それを全力で吸収してやる。
残り時間はあと七分。やれることは全てやる。
「これからが本番だ、行くぞ! 御月さん!」
「えぇ、かかっていらっしゃい、真一くん」
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