第42話 なくてはならない重要なピース

 時を少しさかのぼる。


 真一は、鋼太こうたからの説明を受け、堅牢剣けんろうけんにエネルギーを戻す。そして、ミノリから作戦の具体的な内容を聞かされた。

「はぁ⁉︎ それ、本気で言っているのか?」

「うん。作戦はそれしかない」

「でも……僕が鋼太さんの攻撃を受け止めて、そのエネルギーを不意打ちで七志ナナシに返すなんて、無理だろ!」


「いや、無理ではない。これは現実的な作戦だ」

大空が二人の会話に割って入る。

「お前の潜在的な魔力量と、堅牢剣の性質、それにミノリの力による強化も合わせれば、実現可能だ」

そう言って、大空はデータを見せてきた。しかし、今の真一にそのデータを読み込んでいる時間はない。

「そんなもの見せられても分かりませんよ! そもそも、って何ですか⁉︎ 僕はさっきやっと音が聞こえただけなんですよ⁉︎ ミノリはみんなの力を強化できても、僕の力はまだ……」

「あっ、私の音が聞こえたんだ! うれしい!」

ミノリは笑顔で応えたが、真一はそれどころではない。そして、大空は相変わらず人の話を聞かずに自分の話を続ける。

「ミノリの音が聞こえているなら大丈夫だ。鋼太、そろそろ頼む」

鋼太は無言でうなずき、剣を構える。それを見て、大空は改めて問いかける。

「ではミノリ、真一。覚悟はいいか?」

「はい。私は大丈夫です」

「いや! 僕は全然よくないです!」

「分かった、ではいくぞ! け、極王剣きょくおうけん!」

そう言って、大空は極王剣を起動させた。

「ちょっと! 僕は大丈夫って言ってないんですけど!」

真一の嘆きもむなしく、真一とミノリは大空の力によって瞬間移動させられてしまった。


 移動させられた先は、七志から二○メートルほど離れた後方。七志は戦闘に集中しており、真一の存在に気づいていないが、今真一が立っている場所は、鋼太の放つ光の剣が振り下ろされるまさにその位置だった。


 逃げたい。真一の心に、そんな思いが浮かんだ。


 今から自分で、あの攻撃を受け止めなければならない。そして、受け止められなければみんなが死んでしまう。その責任の重さから、いますぐ逃げてしまいたかった。「できるか?」と聞かれたら「無理だ」と答えたい。誰か代わってくれるなら代わって欲しい。全ての責任を、なんの説明もしなかったあの大空隊長に押し付けてしまいたい。


 少し前の真一なら、本当に逃げ出していただろう。

 真一は呼吸を整え、雑念を払い、今やるべきことだけに集中する。振り返ると、そこにはミノリがいる。恐怖も不安も、あふれかえるほどにある。しかし、今後ろにいる小さな少女だけは、絶対に守りたいと思った。


「真一、もうすぐ来るよ」

ミノリの声が聞こえる。その言葉は、一欠片の心配も不安もなく、真一のことを信頼し切ったものだった。

 真一は、膨大なエネルギーを放つ鋼太の剣をまっすぐ見つめ、剣を構える。その手は少し震えていたが、自らを奮い立たせるように、大きな声で叫ぶ。

「僕にしかできないならやってやる! でも、死んでも文句言うなよ!」

ミノリは真一の側に立ち、笛を構えながら答える。

「死なないよ。あなたが守ってくれるから」


『放て、堅牢剣!』


 鋼太の声と共に、光の剣は真一に向かって振り下ろされた。真一はそれを真正面から受け止めたが、不思議なほどに衝撃がなかった。鋼太の攻撃が弱いわけではない。彼の剣は、確かに地面を切り裂いた。だがそれ以上に、今の真一の力が高まっていたのだ。


(すごい……これがミノリの力か⁉︎)

止めどなく溢れ出る魔力、湧き上がる勇気。心の活力がむなぎるにつれ、体にも力が入ってくる。

 今の真一に聞こえている音は、ミノリ一人の音ではない。彼女の笛が奏でる主旋律と、それを支える中低音のリズム、途中に挟まれるアクセントとなる高音など全てが混ざり合い、一つの美しい曲となっていた。

(この音は……どこから?)

そう思い、真一は周りに目を向けると、一緒に戦っている全ての隊員から音が出ていることに気がついた。この音は、ミノリの心機「魂結たまむすびのふえ」の能力によって奏でられた、皆の心の音なのだ。

 そして真一は、その曲の中に調和された自身の音にも気がついた。それは、ずっしりと響く重低音。それ単体では、決して目立つことのない地味な音。しかし、今この合奏の中で、それはなくてはならない重要なピースになっていた。

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 攻撃を受け切った真一は、んだ力を解き放つ。七志の連続攻撃と、それを力に変えた鋼太の攻撃をもエネルギーに変えた真一の剣は、天をくほどに高く大きくひかりかがやく。


「これで決めてやる! 放て! 堅牢剣!」

振り下ろされた真一の剣は、正確に七志の体の中心を捉え、一刀両断に斬り伏せた。


 この場面をの当たりにした多くの人は、おそらく気づいていない。剣が当たる直前、七志が回避の動作を見せていたことに。しかし、七志は結果として回避を行わなかった。いや、正確にはできなかったのだ。

 彼の動きと彼のは、ある男により一時的に止められていたからだ。


みちびけ、極閃鏡きょくせんきょう

その男、SOLAの初代隊長の大空は、持ち手の着いた丸い手鏡の形をした心機を七志に向けていた。

 大空は、そのまま真一の攻撃が七志に当たるのを確認すると、ほっとため息をついた後にボソリとつぶやいた。

「さて、私にできることはここまでだ。あとは任せたぞ」

その後、大空は誰にも気づかれることなく、忽然こつぜんと姿を消した。

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