第40話 暗闇を照らす光

「ふふフ……いいネ、キミたち。すさまじい心の力の高まりダ。……でも違う、違うんダ。ボクが探しているのはこの程度の心じゃないんダヨ」

七志ナナシは、手のひらに作った火の玉と同じものを、自分の周りにいくつも出現させる。そしてそれらは、どんどん巨大に膨れ上がっていく。

「だからもし、キミたちの中にボクががいるのであれば……見せてくれヨ! そのちからヲ!」

七志はその無数の巨大な火の玉を、全て真一たちに向けて放った。


「絶対に受け止めるぞ、真一!」

「はい! 鋼太こうたさん!」

鋼太と真一は、眼前に堅牢剣けんろうけんを構える。

「お前たちだけではないぞ。輝け、天極星てんきょくせい!」

二人の後方で、大空は天極星と呼ばれた水晶を掲げる。鋼太と真一の持つ二つの堅牢剣が発する防御の魔力は、大空の作った結界と呼応し、強固な魔力の盾となった。しかし、やはり七志の攻撃は強力だった。三人がかりで作った盾は、七志の連続攻撃の前にどんどんヒビが入っていく。


「うぐ……ああああっっ!」

今までに感じたことのないような衝撃を受け、真一は意識が朦朧もうろうとする。脂汗が滴り、目眩めまいがし、全身の血管がはち切れそうなことを感じる。

「おい、しっかりしろ!」

鋼太は、ふらつく真一を体で受け止めた。

「さっき雅輝まさきさんから聞いただろ。この作戦はお前が要だ! こんな所で倒れるな!」

「は……はい!」

鋼太に言われ、真一は体勢を立て直す。

「真一、お前はミノリさんの音が聞こえないんだってな」

「はい……すみません」

「謝らなくていい。みんなが最初からできるわけじゃない。だから今は、堅牢剣にもっとエネルギーを注ぐことに集中するんだ!」

「はい!」

「俺たちの魔力の元となるのは心。そして、堅牢剣と最も呼応できる心はだ! 真一、お前が守りたい者、助けたいと思う人の顔を思い浮かべろ!」

「守りたい者? 助けたい人……?」

そんなことを急に言われても、すぐには思い浮かばない。

 恋人は、いない。友達も、いない。家族は、ピンと来ない。

 痛みと眩暈で混濁こんだくする意識の中、真一は顔を伏せ、考え込んでしまった。魔力の盾に入ったヒビはさらに広がり、すでに所々が崩れ落ちていた。このままでは、あと数秒もちそうにない。

 守りたい人、守りたい人……僕にとって、大切な人……それは……。


『笑って』


 その時、かすかに聞こえた笛のによって、真一は急にミノリの言葉を思い出した。

『顔が強張ってると心までかたくなになっちゃう。大丈夫、真一は今の真一のままでいいよ。今のままで、できることを頑張ってほしいの』

 真一ははっとして、顔を上げる。

 そうだ、僕には今、守べき人がたくさんいるじゃないか。


 周りを見ると、雅輝たち他の隊員たちは、懸命に七志に立ち向かっている。大智だいちは七志の攻撃をかわしながら高速でパンチを繰り出し、彩華あやかむちで縛った巨大な瓦礫がれきを投げつけ、雅輝まさきは隙をついて正確に矢を放っている。


『みんなを信じてほしい』

真一は続けてミノリの言葉を思い出す。

 みんなは、僕と鋼太さんならこの攻撃を防ぎ切れると信じているから、安心して戦える。だから僕も、みんなを信じる。みんなの考えたこの作戦を信じる!


 真一の心には、守りたいと思う人たちの顔が次々と浮かんできた。鋼太に彩華、雅輝と大智、それに大空隊長。そして大切なことに気づかせてくれた始まりの人である、ミノリ。


 今の真一の耳には、ミノリの音色がハッキリと聞こえている。それはとても暖かく、優しく、そして、勇気の出るような旋律だった。


 真一の心に呼応した堅牢剣は、ヒビ割れていた魔力の盾を修復し、さらに守りを強固にした。SOLAの中で歴代二位になるほど膨大な量である真一の魔力が、完全に堅牢剣と適合した時、その力は凄まじいものとなる。そして、ついに七志の攻撃を防ぎ切った。


 攻撃にえた二つの堅牢剣は、まばゆいばかりの輝きを放ち、七志の黒い炎を明るく照らす。



「やっぱりキレイ」

その光を見て、ミノリはそう言った。

「暗闇を照らす光……思い出すな……

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