第30話 ストラーイク!!

『おおっと! C級の二人の活躍により、ついに一体の悪鬼が倒されたぁ!』

『ですが、協力して倒してもいいことがバレてしまいましたね?』

『あぁ、本当はもっと後に発表してびっくりさせたかったが仕方ねぇ!』

『それでは、残りの悪鬼は二百六十九体です。途中でやられないように注意してくださいね!』


 鉄也てつや晶子あきこは、そこで放送を中断し、画面を切った。

 そして通信の切断を確認し終えると、鉄也は切迫せっぱくした表情で晶子に問いかける。

「おい何だ、さっきの悪鬼は? こっちはあんなタイミングで悪鬼が出てくるなんてプログラミングはしていないぞ⁉︎」

「私もそう思って、システムを点検させましたが、異常は見当たらないそうです……」

「異常がないだと……?」

「えぇ。ですが念のため、もう一度システムのチェックを行います」

「俺も手伝うぜ。あー! 実況に集中したかったんだがなぁ」

「仕方ないですよ。さぁ、気合い入れていきますよ!」

「おう!」


 ボフンっ!


 システムのチェックに奔走する鉄也たちをよそに、会場では煙と共に大量の悪鬼が現れた。その量は最初に現れた大群よりも多く、ざっと見た所五十体はいるように見える。

 先ほどまでなら、隊員たちはその悪鬼の量を前に絶望していたかも知れない。しかし、今は違った。

「よし! みんなで倒すぞ!」「俺が足止めをするから攻撃頼む!」「あいつの弱点は分かってるよなぁ⁉︎」「行くゾォ!」

「「おおおおおお!」」

隊員たちはみな武器を構え、一斉に飛び出した。しかし、威勢よく駆け出したからと言って、悪鬼は簡単に勝てる相手ではない。


「うっ、うわぁぁぁぁ!」

ある隊員は、巨大な蛇型の悪鬼に巻きつかれ、締め上げられてしまっていた。

「うっ……助け……ぐうぅっ!!」

悪鬼の力はとても強く、全身の骨を砕かんばかりのとんでもない圧力での締め付けだ。やがて隊員はぐったりと力尽き、シミュレーターから排出され、バーチャル世界から消えていった。


 隊員を一人仕留めた蛇の悪鬼は、次の獲物を探すように辺りを見る。一連の光景を見ていた他の隊員たちは、みな恐怖で足を止めてしまった。


「おっ、いいの発見!」


 隊員たちの後方から声がした。それと同時に伸ばされた長いむちによって、一瞬にして悪鬼の喉元はきつく締め上げられてしまった。

「よーし! 大きいのゲットォ!」

そう言って悪鬼を縛りつけたのは、恐れなど微塵みじんも感じさせないような笑顔を浮かべた彩華あやかであった。

 縛られた悪鬼は、なんとかして彩華の拘束から逃れようとするが、彼女の鞭は全く緩む気配はない。それだけでも周りの隊員たちを驚かせるには十分であったが、何よりも彼らを戦慄せんりつさせたのは、ジタバタとのたうち回る悪鬼をつなぎ止めている彼女の体が、微動だにしないことであった。

 悪鬼がどれだけ必死にもがいても、彩華は涼しい顔でそれを眺めていた。彼女の腕には相当の負荷がかかっているはずだが、そんなものはないも同然といった様子だった。

「みんな、ちょっと離れててね……巻き込まれたくなかったら……!」

そう言って、彩華は手に持った鞭をグイッと引っ張った。すると、悪鬼はのたうち回りながらも、ゆっくりと引きずられていった。

 全長三○メートルはあるであろう大蛇が、優雅に歩く細身の女性に引きずられるという光景はとても異常で、周りの隊員たちは自然に彼女のために道を開けてしまった。

「さーて、どうしよっかなぁ……?」

彩華は辺りを見渡し、何かを探している様子だ。

 しかし、今は悪鬼に囲まれた戦闘中、ゆっくりと何かを探している余裕などない。彼女の背後からは、獣型の悪鬼が鋭い牙をいて猛スピードで迫ってきていた。

 その牙が、彼女の首に届くと思われた次の瞬間。


 ドゴッ!

 鈍い音と共に、獣型の悪鬼は吹き飛ばされた。

「ははっ! あったりぃ!」

彩華は笑いながら鞭を振り回し、繋ぎ止めていた蛇型の悪鬼を獣型の悪鬼にぶつけたのだ。

「そして……いい場所発見!」

そう言って狙いを定めたように一点を見つめた彩華は、鞭を振り回した勢いのままにその場でぐるぐると回転した。そして、勢いよく悪鬼を放り投げた。

「はははっ! ホームラーン! からのぉー……」

宙を舞う悪鬼は綺麗きれいな放物線を描き、遠くの方にいた悪鬼の大群目がけて落ちていく。上空から回転しながら落下する巨体は、そのまま高威力の攻撃となって、悪鬼に群れに襲い掛かる。

 重い地響きと広がる風圧。巻き上がる砂埃すなぼこりと飛び散る石片。落下した悪鬼は地面との衝突と共に消滅し、近くにいた悪鬼たちははじばされ、消えていった。


「ストラーイク!」


 彩華はガッツポーズを取り、得意げに頬笑ほほえんだ。

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