ジャーニー・オブ・エンド・ワールド

つきみなも

「悪魔と皮肉」

『悪魔クイーズ!この世界で言葉だけが存在していて、絶対に成し遂げられないものってなーんだ!』

『正解は・・・世界平和でしたー!へへへへへ』


ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウ・・・・

いつものように空襲警報のサイレンの音が街に響く。もう連日空襲には慣れた。

少年兵にして技量が認められ珍しく航空機の整備兵になった僕は全速力で滑走路に走り、慣れた手つきで離陸準備を進め、飛んでいく戦闘機を遠目に見送る。いつもと変わらない日常である。

今日緊急邀撃(迎撃)に上がったのは2機の最新鋭戦闘機と14機の旧式戦闘機。しかし帰ってこられるのは半数だろう。何しろ一機も帰ってこない日もあるのだ。

「奴ら新人だな。ありゃ半数も帰ってこねえだろ。焦って地面とキスするんじゃねえか?」

悪魔がそう語りかける。いつもこうやって言っているが、悲惨なことにその予想は見事に的中する。

「・・・熟練搭乗員は残っててあと10人だし・・・新人しか出せないんだよ。」

「俺としちゃあとっとと死んでもらった方がいいんだがな。」

これが悪魔の口癖だった。

悪魔はこの世界にもう少しで終焉が来ると聞き、「この世界最後の契約を成功させる」というあくまでも個人的な挑戦を成功させるために性格がめんどくさくなさそうな僕に契約を申し出たらしい。

悪魔の「めんどくさい人」と言うのは主に神を本気で信じていたり、悪魔だからとお祓いに行きまくる人のことを指す。神は偶像であろうともその強烈な願いは悪魔にとって吐き気を催すほどの効力を持つらしい。

とはいえ、そんな人もうあと何人いるのだろうか。

「・・・ねえ悪魔」

「なんだ?」

「あとこの世界には何人の人がいる?」

「正確な数は死に続けてるから言えねえが、ざっと2億人だな」

「古い文献で読んだけど、昔は25億人ぐらいいたんだよね?」

「最盛期はもっとさ。そうだなあ・・・60億人ぐらいかねえ。」

「そんなにいたの!?」

「ただその分住むところがどうのこうのでちょっとした争いが起きてたがな。」

「・・・あとどれぐらいで僕だけになるのかな。」

「勢いを止めなければ2年じゃないか?1.5億人の中でも9500万人ぐらいは兵士で・・・えーっと?その中でも8200万人が最近徴兵された奴だな。どうせ死ぬな。」

「・・・僕だけ、か。」

「どうした少年、一人になれば何やったって許されるぜ?街中で銃を撃ちまくってもいいし、病院を爆破しても、墓の上で踊っても、何してもいい。あーそれと・・・」

悪魔はぶつぶつと今じゃ到底できないような悪事を思いついては小さく口に出す。悪魔らしいな、と僕は思った。

「リオ君、反物質ミサイルの運搬手伝ってくれない・・・?今誰もいなくて・・・」

兵器倉庫の裏口のドアからサナが顔だけだしてこっちを見ている。

第三整備班の班員は他にも手が空いてる人がいるはずだけど・・・。まあいいや。

「いいよ。でも、前にも言われてたけど、僕のことは班長って呼んだ方がいいよ。また怒られちゃう」

「・・・わかった」

サナはすこし口をとがらせながら兵器倉庫のドアを閉める。多分また僕のことをリオ君呼びするだろう。

サナは4年前の後方医療兵隊の解体により整備員に回されることになった医療兵の一人。一応銃も扱えるらしいが戦力にならないということで整備兵に回されたのだろう。

僕はサナと兵器の整備点検、位置移動を済ませ、中継通信室の裏で本開く。この場所は適度に日が当たり、静かなので僕のお気に入りの場所。休憩中はほとんどこの場所にいる。

「なあ」

一人になるとまた悪魔が現れる。そのおかげで最近あまり本が読めていない。

「何の本だ?それ。」

「・・・歴史の本。戦争の」

「はえー・・・珍しいものを読むんだなお前は。今頃読んだって何にもならなさそうだがな。ははは!」

「何かのために読んでるわけじゃないんだけど・・・」

「悪魔クイーズ!この世界で一番長い歴史を持つものはなーんだ!」

唐突にクイズを出してくるのももう慣れた。答えは人間への皮肉が大半を占めている。しかし、人間の気づかないような痛いところを突いてくるのであまり文句は言えない。

「・・・単位?メートルとかインチとか・・・」

「ぶっぶー!これだから人間は面白いんだよな!正解は争いでしたー!」

「・・・昔は平和に暮らしてて皆仲が良かったんじゃないの?」

「昔っていつの話だ?」

僕は少し考える。よく昔という言葉を使うが、いざこうして聞かれると返事に困る。

「・・・ヘイセイ。だいたい950年前の。」

「あー・・・今頃の本じゃそう書いてあるのが多いのかあ・・・」

悪魔は少し困った顔をする。

「違うの?」

「まあ、言い方次第だな。今と比べれば平穏だった。しかしまあ、核の抑止力があって成り立っていたんだが。」

「核・・・」

「お?お前の(εραστής)ちゃんが来るぞ。へへ」

「?」

そう言い、悪魔は消えていった。エラスティースって誰だろう・・・?

「・・・誰と話してたの」

中継通信室の角から困惑した顔でこちらを見る目があった。

サナだ。

悪魔によると他の人には悪魔の声は聞こえないし、悪魔との会話は僕の声含め認識できないと言っていたはずなのに、何故かサナは話していたことが分かっている

らしかった。

「・・・なんのこと」

「君、隠し事してるよね?目を見ればわかるよ」

僕はどうしようという言葉で頭がいっぱいになる。今にも冷や汗と涙が出そうで動けなかった。

「・・・ごめんね、脅すようなことしちゃって。・・・なんでもない、忘れて。」

『・・・あー、お嬢ちゃん・・・君アドル家の子だよね?ばれたならしょうがない。』

姿を見せていないのに悪魔の声だけが聞こえる。僕に背を向けたサナがぴたりと足を止め、怖いものを見るような目でゆっくりと振り返る。

「あー・・・都合が悪いなあ・・!アドル家の『見える系』人間には会いたくなかったのになあ~」

え・・・?

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