第9話

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やらかした。完全にやらかした。あの状況で寝入ってしまうだなんて。予想だにしない羞恥に、タカラは布団を頭まで被った。きっと、自分をここまで運んでくれたのは、許嫁である彼女なんだろう。それがわからない程、馬鹿じゃない。「クッソ……」女性に背負われるなんて、男としてどうかと思う。子供だなんて思われていたら、最悪だ。一生の不覚、と頭を掻き毟り、布団を弾き上げる。窓の外を見れば既に暗くなっており、時間は二十一時を指している。その瞬間、ぐうと腹が鳴った。……こんな時でも腹は空くんだな。


「……ご飯、残ってるかな」ベッドから出て、部屋の電気をつける。眩しくなる部屋に思わず目を細めた。体に寝る前の倦怠感はなく、ふわふわとした空気が体を包み込んでいる。簡単に伸びをして、タカラは部屋を出た。ふと目を向けたキヨラの部屋から電気が漏れているのを見るに、姉のキヨラも帰って来ているようだ。……トオル以外に見られてなければいいけれど。


階段を下りてダイニングへと向かおうとすれば、途中でキッチンの明かりが見えてくる。母がいるのだろう。扉を開ければ、直ぐに視線が合った。「あら、タカラ起きたのね」「おはよう、母さん。……ご飯、ある?」「ええ。今温めるから、そこ座ってなさい」優しい母の言葉に頷き、テーブルにつく。すぐに用意される夕食に礼を言い、直ぐに食した。母さんの手作りであるから揚げはとても美味しくて、次々に箸が進んでしまう。食事をしつつも思い出すのは、襲われた夕方の事だった。


『そらうみ』。『もっともすみ』。その二つの組織は、妄執を操って世界を自分たちの思うがままにすることを目的としている……らしい。小学生である自分には、未だよくわからないのだが。それでもこうして襲われるという事はそれが嘘ではなく、事実であることを知らしめており。『タカラも、これから頑張ってね』とキヨラからドライヤーガンを渡された時には、逃げられない事を幼心に悟ったものだ。とはいえ、それに納得しているかと言われれば——否である。そもそも、ドライヤーガン戦士は“女子”の役目なのだ。姉も母も女。自分は男。……対象にはならないはずなのだが。『ごめんね。キヨラには許嫁がいないから』その言葉を聞いてしまえば、家の伝統を知るタカラは何も言えなくなってしまう。受け取ったドライヤーガンの冷たさを、今でも覚えている。 タカラは“諦め肝心”の言葉を胸に、gunを持ち歩くようになったわけなのだが。

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