第2話
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「ただいまー」「おかえり、タカラ」ガチャリと扉が開き、玄関へと足を踏み入れる。温かい言葉と一緒に迎えてくれたのは、自身の姉——キヨラだった。少し前に大学から帰って来たのだろう。お気に入りのかばんを持ったままの彼女は、こちらを一瞥すると自分の部屋へと帰って行った。大学に入って垢ぬけた様子の姉はあまり見慣れないが、元々の夢だったらしいモデルとの両立が出来て楽しそうだ。
自分の部屋に入り、ランドセルを放り投げる。宿題などは帰りの会のうちに既にやり終えてしまった。——暇だ。ベッドに寝転がってぼんやりと天井を見つめていれば、コンコンと控えめなノック音が聞こえて来た。自信なさげなその音に顔を顰めつつ、「入れよ」と声を掛ける。開いた扉の向こうから見えたのは、染めていない黒髪を揺らした女性——匕背トオルだった。
「何?」「今日は家庭教師の日でしょ」不貞腐れた顔でそういうトオルに、タカラは苛立ちを感じつつ、緩慢に起き上がった。机に教材を放り投げるように置き、椅子にドカリと座る。「さっさとしてよ」「あんたが遅れたんでしょ」「うっせーな、ババア!」「ババアじゃないって言ってるでしょ、クソガキ!」「あぁ!?」長いストレートの黒髪を引っ張ろうと手を伸ばして、その手を叩かれる。そのことに「チッ」と舌打ちをしながら、再び飛び掛かろうとすれば甲高い声が聞こえた。「ちょっと!
うるさいわよ、タカラ!」「ちっ!」母の声だ。なんとタイミングの悪い。けれど、これ以上騒いだら鬼の形相で階段を駆け上がって来るので、タカラはゆっくりと椅子に座り直した。
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