提督の野望 風雲立志伝 ~太平洋ノ波高シ~

九十九@月光の提督・連載中

第0話 オープニング

00 オープニング


それは、白い空間だった。

なにもない空間、自分の存在すら地に足がついていない。


白く輝き顔が見えない女性が、微笑んでいた。

目元が光で見えないが、口元だけが見える。

ゆらゆらと近づいたり、離れたりしてくる。


直感的に、「まただ!」と思ってしまった。

何が、またなのかはわからない、直感である。

思い出そうとして、思い出せそうなひっかかりの記憶が途中で泡のようにぼやけて溶けてしまう。


なぜ俺なのか?不満なのか疑問なのか。


女性の唇が動くのだが、何を言っているのかきこえない、わからない。

ゆめのような、そうでないような、ぼんやり感がひどく現実感はない。

意識がはっきりしないのだ。


パチリ!

機械が通電するように、スイッチが入ったような感覚があった。

あたりのぼんやり感が急速に消えていき、意識?がはっきりとしてくる。


目の前の揺らめく光のような人型に問いかける。

あんたは誰だ?


〈わからないかしら〉

目の部分だけが白黒の小さな四角形がちらちらと動き、目隠しをしているような状態の女性が聞いていくる。

被害者Aさんの写真ような状態の女?のなのだ。


初見で人の名をこたえられるはずがあるのか?

しかも、こいつは人ではないと直感が伝えてくれる。

さらに言うと目隠し状態である、当てることに無理があるのではないか?

だが、そういう種族なのは明らかだ、いわゆる神族であろう。

直感はそう告げている。そういえば、神力が伝わってくる。


〈そう、あなたが考えているものでほとんどあっているわ〉


どうやら、人外、一柱と数えられるものであるらしい。


こんなところへ連れ込んで何をするつもりだ?


〈残念だけどあなたの考えているとおりよ〉


「断る」俺は長い旅を終えてようやく帰還したのだ、少しくらい休んでも罰は当たらないはずだ。


旅?長い旅をおえたのか?

俺は一人ごちる

記憶が不鮮明ではっきり思い出せない、しかし、旅の疲れのようなものを感じているのは事実だった。


「だからいやなのよね」

女神は確かにそういった、それが言葉なのか、意思だったのか、しかし俺にはその声がはっきりと聞こえたのだ。


女神の笑顔(鼻から上は、ぼかし付き)のままだ。

〈どうかしら、少しは、混乱から抜け出せたかしら〉

少し、時間がたったのか、あたりには何もないままだが、

いつの間にか、座卓があり、お茶が湯気をたてている。

和室?に変化したようだった。

こういう手合いに常識は通じない。

簡単に世界を変容させることができるのだ。


「で?俺に何かようか?」

彼女?の用事はこの段階ではほぼ決まりである。


〈ある任務を全うしてほしいの〉

座卓の向こうのそれは、唇も動かさずに言い放った。


「任務?他を当たってくれ、俺は、疲れている」


私の言うことは聞けないとでも

笑顔のままだが、明らかに不快そうである。

人間ごときが神族に異を唱えるとは不敬である。

雰囲気があまりにも露骨だ。


天罰が下るとでも言いたいのだろうか?そんなものは、何度も受けたことがある!

?受けたことがあるのだろうか?


今度は、「ちっ」と舌打ちが聞こえてきた。


あんた、心が駄々洩れですけど、俺は少し引いてしまった。


〈なんのことかしら〉

女神はぼやけている、しかし、笑顔である。

笑いながら人間を消し飛ばす女神とかいるんだろうな。


俺は、手を伸ばして茶を飲んでみる。

う~んうまいな、やはり番茶はいい。


「じゃあ、あの世に送ってくれ」

此処は、そもそも、この世とあの世のはざまに位置する場所のはずである。


〈ちょっと、待ちなさいよ、地獄に落ちるわよ〉


「わかった、では」

俺は湯呑を置いて、立ち上がった。

いわゆる地獄が本当にあるのか、それとも脅しなのか、できれば天国に行きたいものだと思うが、そういわれるなら、是非もなし。心を決める。


〈ほんとに落ちるわよ〉


「どうぞ」

なぜ俺がここまで意固地なのか?自分でもわからない。

ただ、地獄でもなんとかなりそうな気分だけはもっていたことはたしかだ。


そして、もう彼女とは会えないむなしさだけがあった、涙がどこからかこみあげてくる。

俺は、寂しかったことに気づいた、そう、寂しかったのだ。

記憶はおそらく制限されているのだろう、思い出せないが、そこにはかすかなぬくもりが存在した。

永く一緒に暮らした彼女、しかしいずれ別れの時がやってくるのである。

わかっている、わかってはいるがつらくないわけではない。


〈わかったわよ、あの子の魂も同じ世界に送ってあげるから、交渉成立?〉

「話だけは、聞いてやろう」

俺は再度座りなおした。


・・・・・


「やはり、地獄いきで結構だ、あんた一体何を言っている」

俺は、今聞いた任務の内容をきいて、あきらめることにした、そもそも、俺は老衰で死んだ、無理に彼女に会う必要などないのだ、少し、そう少し寂しかっただけなのだ。

老衰で?記憶があいまいなのである。


「さあ送ってくれ、あんたを恨みはしない、地獄でもあまんじて受け入れよう」

晴れやかな気持ちであった、そう俺の戦いの人生は終わったのだ。

あとは、魂が清算されるに任せようというものだ。


〈ちょっと、待ちなさいよ〉


言葉遣いがどうもギャル風なのが気になるところではある。

神格がだいなしであろうに。


しかも、待ちなさいよはこっちのセリフだ、寝言は寝て言えである。


〈あんたしか、適当なのが、いえ、あなたのような資格のある素晴らしい人材がいないのよ〉


どうも、適当な奴?がいないようだ。


「それは、こちらの事情とは関係ないことだ、だがいかん!わが魂を地獄へと送り給えかし!」

力が満ち溢れてくる、この異界の神気をかなり取り込んでしまったのかも知れない。


女神の全身像が見えてきていた、さっきまでは、顔しか認識できなかったのだが。


俺の考えていることに気付いたのか、神気が止まった。

和室に渦巻いていた神気が収まりただの和室にもどった。


女神の姿が一瞬で変化し、とある少女に変ずる。

「お願い!助けて」

何が起こったのか?


俺は熱い感情に涙があふれだす、それほどその少女の姿に感応する何かがあるのだろう、

記憶にはない姿の少女なのだが、涙が止まることはない。

だが、思い出せないのがなんとも歯がゆい。

そして、このような小癪な手技を使う女神?が癇にさわる。


・・・・・


俺が、この白い和室で抑留されてからどれほどの時間がたったのだろうか。

女神は、巫女のような恰好をしており、しかし、目だけは目隠しがかかった状態を維持している。

「やっと、説得に応じてくれるのね」女神?はニマッと笑みを浮かべる。


どのみち、言うことを聞かねば、こちらが自由になれないのは、明白である。


「原爆投下を阻止してほしいというのはさっき言いましたよね」と女神?


「あんた、何言ってるのかわかっているのか、原爆は一人の人間が阻止できるようなものじゃない、戦争中に使用される兵器なんだからな」先ほどは席をたったのである。


「もう一度言うわ、原爆投下を阻止してほしいの」


まるで重要なことだから2度言うわね見たいなノリである。


「違うだろ、俺の言うことを聞いてたのか」


「もう一回」


「いや、待て!無理だと言っているのだ」


「大丈夫よ、過去に行って止めてくればいいんだから」


過去というが、ここはいつの時代なのか、いまひとつ判然としない。

此処は異空間、時の概念があるとも思えないのだがな。


原爆投下ということは、おそらく大東亜戦争のことに相違あるまい。

原子爆弾を投下された国は日本をおいて他にない。

そのような、記憶だけがあるのが不思議だった。


戦争は国家間で争われており数十万、数百万人がたたかっているのである、一人の人間によって手をさしはさめるはずがないのは明白であった。


「でも、あなたには、未来の知識があるんだから大丈夫」と女神。


「俺は、ただの人間、それに歴史学者ではありません、科学者でもありません、ただのサラリーマン」エッ、俺はサラリーマンだったのか?と思わず愕然とする。

ファンタジー世界の生を終えたと思っていたのだが、詳しくは思い出せないが・・・


残念なことに俺はミリタリーは割と好きなのだが、大東亜戦争について、詳しいというわけではない、真珠湾奇襲は成功したが、ミッドウェーで惨敗し負けてしまった程度の知識しかないのである、この程度知識では、戦局を逆転することは可能であろうか?

無理でしょ!


というか、そもそも米国との戦争自体が無謀であったという論が大半である。


「そうか、俺が、昭和天皇に転生し、戦争は絶対やらんといえばいいのか!」

その手があった、そういう方法なのだな!


そして俺の陛下転生の旅がはじまろうとし

「まちなさいよ」


女神の突っ込みが入ったのはその時だった。

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