因果応報ってやつですが、何か?
思い返せば、本当に様々な出来事があった一日だった。だが、そんな今日という日もすっかり陽が沈み、ようやくながら夜を迎えた。以前暮らしていた都会の夜とは違い、この世界の夜は随分と静かである。
ボクとお姉さん、それにダークエルフさんの三人は、揃って
居候の癖に何勝手に家主面しているんだ、なんて無粋なツッコミは無しの方向でお願いしたい。玄関へ足を踏み入れた瞬間にホッと安らぎを覚え、ボクもすっかりこの家に馴染んだものだなぁと感慨深い気持ちになったばかりなものだから……思わずマイホームなどと表現してみたくなったのだ。
さて、帰宅したボクが今何をしているのかと言えば、ずばり夕食に舌鼓を打っている最中である。卓上には、今日もお姉さんお手製のご馳走が並んでいる。立ち上る湯気、香しい品々。あぁ、なんて幸せな時間なんだろう。
「ほふぅ……おいし~~」
ただし一点、どうしても疑問を唱えずにはいられないことがありまして。
あのぉ……ボクの身体、どうしてお姉さんの膝の上に乗せられているんでしょうか?
ねえねえ、おかしくない? 昨日まで食事中にそんな扱いしてこなかったのに、急にどうしたってのさ!
「ナーニャちゃん、ーーー!」
「ぬぅうう……あむっ」
何故かスプーンすらも握らせてもらえずにいるボクは、お姉さんに所謂「あ~ん」をしてもらうことで、料理を口にできている。
ぐぬぬ……さながら親鳥から餌を与えてもらっている雛鳥の気分だ。いくら身体が幼女化したからと言って、これはさすがに恥ずかしい。
ほんと、どうしてこんなことになったんだろう。
◇
原因を探るべく、ボクは記憶を遡る。
喜びの感情に身を任せて旅人さんの胸へとダイブした直後のボクは、しばらく呑気に浮かれ続けていた。
「んっふふ~~」
「……■■■■■■」
旅人さんは、相も変わらずボクの知らない言語でしか喋ってくれないけど、今は気にする必要もない。事情は何となく察しているからね。
しばらく経って、ダークエルフさんたちがまた言葉を交わし始める。そのタイミングで、さすがにそろそろ旅人さんから離れようと考えたものの……何故だかそれが叶わない。あれれ?
違和感を感じて視線を下げると、旅人さんの両腕がボクの身体をぎゅっと抱き締め返していた。
恐らくそれほど強い力ではないのだろう。しかしながら、この身はか弱い幼女である。つまるところ、今のボクにここから抜け出す術など存在しない。つい先ほども、同じようなシチュエーションをお姉さん相手に経験した気がするんだけど……デジャヴかな?
とは言え、旅人さんとて意識してボクを
……ん? 拘束?
不意に、この旅人さんの恰好が随分と特殊なものであったことを思い出す。
そう。彼女は己の全身を縄で拘束している、正真正銘の
「えっと、ボクにその
慌てて主張してみるも、ボクを拘束する腕の力は一向に緩む気配がない。
お~い、旅人さん。ボクの言葉、たぶん通じているはずだよね? なんで無視するの?
しばらくもぞもぞと身をよじり続けていると、旅人さんがようやくボクのアピールに気づいたらしい。
「■■■■■? ……ふふっ」
んんんんん? 今なんで微笑んだ!? しかも腕の力、心なしか強まっていないかい?
まさか、
すっかり不安に駆られたボクは、ついつい助けを求めるような視線をお姉さんへ向けてしまった。
我ながら本当に現金なものである。今の今まで、お姉さんの存在をすっかり忘れていたのにね。
◇
私の愛しいナーニャちゃんが人間の胸に飛び込むという、目を疑うような出来事の直後。
ナナシちゃんから説得を受けたわたしは、渋々ながらも人間の滞在を受け入れることにしました。本当に渋々ですけど。
いえ、分かってはいるんですよ? あのナーニャちゃんがここまで懐いている時点で、クウと名乗るこの人間が悪い子でないことくらいは。
だけど、どうしても気に食わないんです。彼女がナーニャちゃんを見つめるときの目、絶対普通じゃなかったですから。わたしには分かるんです!
「それって要するに同族嫌悪ってやつなんじゃ……」
「……ナナシちゃん、今のは何の冗談かなぁ?」
「イエ、ナンデモゴザイマセン」
よりにもよって人間と同族だなんて、たとえ冗談だとしても笑えないですね。ナナシちゃんは一体何を言っているのでしょうか。
大体、ナナシちゃんが彼女の肩を持ったこと自体、割と想定外なんですよ? まったくもう。
なんてことを考えていた、まさにそのときでした。
「…………あっ!」
「ど、どうしたフー姐!?」
たしかに今、背中にナーニャちゃんの視線を感じました。これがもし勘違いだったとしたら、いよいよわたしは立ち直れなくなりそうですが……。
慎重に、恐る恐ると振り返り、ナーニャちゃんの姿を視界に入れます。
「あぅう……っ」
「ナーニャちゃん!!」
やりました、お姉ちゃんの大勝利です!
ナーニャちゃんは現在進行形でわたしを見つめていました。あれは間違いなく姉を求める妹の目です。
ふっふっふっ、紆余曲折があろうとも、必ず最後には姉のもとへと帰ってくる。これがこの世の心理ですから。当然の結果ですね。
「うふふふふ」
「うわぁ、急に笑い始めるとか……フー姐、ついに壊れたか!?」
ナナシちゃんの失礼な発言も、今のわたしなら難なく許容できちゃいます。姉の懐は海より深いので。
なに? さっきまで目を血走らせていたじゃないかって? 細かいことは言いっこなしです。
「というわけで、わたしのナーニャちゃんを返してくれるかしら?」
わたしは早速ナーニャちゃんのもとへと歩み寄り、彼女を抱きかかえている人間に話しかけました。もちろん笑顔で。これが姉の余裕というやつです。
「何が『というわけで』なのじゃ?」
「ナーニャは別にフー姐の所有物じゃないからな?」
周りがやたらと五月蠅いですが、この際すべて聞き流しましょう。
「えっ……あっ、うん。承知!」
「ありがと。いい子ね」
人間の腕から解放されたナーニャちゃんは、ふらふらとおぼつかない足取りでこちらに歩いてきました。ふふっ、なるほど。
「もちろん構わないわよ。さあ、今度はお姉ちゃんの胸へと飛び込んでおいで!」
「…………んぅ?」
ありゃ? てっきりこのまま、わたしに抱き着いてくるのかと予想していましたが……。
あぁ、さっきまで人間に抱きついていたことを気にして、躊躇しているのですね?
「そんなこと、これっぽっちも気にしていないから大丈夫よ。おいでおいで~」
「……ん、んぅ?」
もう、じれったいですね。仕方がありません。こうなったら、お姉ちゃんの方から抱き締めてあげるとしましょう。ほら、ぎゅぅう~~!
「ふぇ!? んぐぅううう……」
「お、おいナーニャ! 大丈夫か!?」
「うふふっ、可愛い」
ナーニャちゃんったら、本当に甘えんぼさんですね。可愛さの塊のような妹は、わたしの腕の中ですっかり脱力しています。よっぽど安心したのでしょう。なんとも愛おしいです。
そういえば、今日は全くと言っていいほどにスキンシップが足りていませんからね。ナーニャちゃんが愛に飢えるのも当然でしょう。その分も含め、
とっても楽しみですね!
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