第3話 永遠の嘘をついてくれ
♪ 冷たい奴らだと
いいじゃないの 平和ならば
いいじゃないの 今さえ良けりゃ
けだるい歌を真田行杉は聞いている。
こんな歌が流行るとはな。
これが国民の本音なのだろうか、だからヒットするんだろうか。
複雑な気持ちになる。
あまりにも内向きで自国の利益しか考えず、国際貢献が足りない、と批判が絶えない。自分さえよければよい、と言っている自覚もなく、要するに居直っている。
絶対平和党の党首として、行杉は消費税廃止を訴え続けた。公的医療保険を80歳で打ち切ると言っても、10割負担する者の医療まで拒否するわけではない。
「大体、今の高齢者はいい思いをしてきたんだ。うちの親の代では、奨学金を借りて卒業、就職したら即、返済開始で大変、なんて若者はいなかった。今はどうです、奨学金と言う名の教育ローン返済に苦しむ若者がいかに多いことか」
医療を80歳でストップすれば、医療費だけでなく、年金支給額も減っていく。
どう考えてもそうだ、と道楽は思った。医療費、年金。頭の痛い難題が一挙に解決するかもしれない。
「年金を返上した人には、勲章を授与しましょう」
行杉が言った。
「資産家なら年金がなくても十分、生活できる。勲章をもらえるなら年金はいらないという向きもあるはずだ」
金だけでなく勲章と言う名誉も手にできる。いいかもしれん、と遊楽首相は、ついに決断した。
早速、記者会見を開き、こう宣言した。
「明日から消費税を廃止します!」
それから数年が過ぎ、狙いは当たった
消費税ゼロとなれば、経済的に楽だし。
年金返上で勲章がもらえるというのも、それなりに効果があり、消費税廃止の効果の方が大きかったといえよう。
もちろん、支持率は大幅アップ、道楽内閣は長期にわたって安泰を約束された。
確かに反対意見はあった。
「80になったら死ねというのか」と反発は大きかった。しかしなぜか、反対運動のリーダー格が、次々に事故死、病死、突然死を遂げた。だが、国民はあまり気にしなかった。
たとえば首都圏の電車は「人身事故」のためにしょっちゅう止まる。実態は多くが飛び込み自殺なのだが、「人身事故」で片づける日常に慣れきり、神経がマヒしているのだろう。
その頃、大事件が起きた。
「大変です、巡視船が攻撃されました」
国境の群島を守っていた船に国籍不明の船が攻撃してきたという。反撃できるはずです、との声に、道楽総理は、
「前例がない」
の一言。
巡視船は、船内火災が原因で沈没したことにされた。
一部の新聞が事実をすっぱ抜いたが、国民の反応は鈍い。そんなことあるわけないだろ、で終わってしまい、ネット記事もフェイクニュース扱いされた。
「思った通りだ。国民は平和という不治の病にとりつかれているなあ」
道楽総理がほくそえみ、今や副総理となった行杉も、
「嘘も方便と言いますからな。国民には不安を与えず、何があっても絶対平和、と信じ込ませるのが一番です」
この国の有事への思考回路は、
戦争が起きるかもしれない
↓
そうなったら困るよね
↓
戦争は起きないだろう
↓
戦争は起きない
見事な四段論法である。
嫌な現実は見たくないから、根拠のない楽観主義、徹底した現実逃避に走る。
そうやって平和ボケになってしまい、海外ではともかく、自国で何かがあるわけはないと信じ込み、実際に事が起きると、「まさか」と思ってしまうのだ。この国の平和は現実から目を背け続けた結果に過ぎない。
そんなことを行杉は口にした。
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